リリィとユリウス〜おめでた騒動~【好感度SS】
うーん、コメディジャンルなのかなぁ。
とりあえずこのネタが出来るであろう持ちキャラを考えると彼女しかいなかったです。
完璧主義者であろうとするも実はうっかりさんで考えすぎなリリィです。
私はミアガラッハ・レム・リリアーナ。
学生時代からの腐れ縁だったユリウスを婿に迎え幸せな新婚生活を送っていた。
彼は私の傷に寄り添ってくれる勿体ないくらいにいい夫だ。
だが運命というものは時に残酷なものだ。
新婚生活を始めて半年ほどが経った頃だろうか私はある不調に悩まされていた。
妙に身体がだるかったり熱っぽかったり。
頭痛や胃の不快感で吐きそうになってしまったり。
実の所、きょうだいの中で私は身体が丈夫な方だ。
妹達や弟は時々風邪をひくなどして体調を崩すことがあったが私には無かった。
なのでいつも看病する側。こんな事は初めてだ。
これは……間違いない。
恐らく私は…………不治の病か何かだ。
私の身体には『悪魔の呪い』である『シトリーの天秤』が宿っている。
恐らくそれが気づかない内に身体に負担をかけていたのだろう。
「ごめん、ユリウス。ちょっと今日も私休むから」
「ああ。事務所の方は任せておいてくれ。何か食べられそうなものはあるかい?」
「ん。大丈夫。自分で作って食べてみるから……あなたは事務所をお願い」
夫に職場を任せ身体を休めること3日目。
ああ、身体が重い。
何という事だろう。
せっかく愛する人を受け入れ、人生これからという時にとんでもない状態になってしまった。
恐らく私は長生きできないだろう。夫を一人残して先に逝くことになってしまう。
そうなるとどうなるのだろう?
母様は面倒くさがり屋だが『ミアガラッハ家』を存続させることにだけは執心していた。
そう考えると私の後は妹のリムが継ぐ事になるだろう。
夫は……ユリウスは恐らくミアガラッハから離脱して元のモンティエロ家に戻りあちらの家を継ぐだろう。それが綺麗な形な気がする。
身体を横たえ息を吐く。
まさかこんな事になるなんて……
そうして少し眠りについていると呼び鈴が鳴らされる。
次に聞こえてきたのは……
「おーい、リリアーナ。いるか?」
義母の声だった。
私は慌てて玄関へと向かい応対する。
「よぉ、体調が悪いらしいな」
「……ユリウスが言ったんですか?」
「ああ。かなり心配してたぞ。ていうかそんな時はあたし達親を頼れって。お前はどうも変な所で人に頼るのが苦手な所があるな」
「……ごめんなさい」
義母を中に招く。
何か飲み物でもと動こうとすると『いいから座ってろ』と座らされてしまった。
「それで、どんな感じだ?」
私は義母にここしばらくの体調不良について簡単に説明する。
それを聞き義母は眉をひそめる。
「お前それってもしかして……」
そうか、彼女も気づいてしまったみたいね。
私に残された時間が少ないかもしれないという事に。
「いやいや、何でそういう事こそ早くあたし達に相談しないんだ?」
「…………自身の体調管理が出来てない結果ですし、こんなのどうしようも」
「ん?」
義母は再び眉をひそめ。
「えーとリリアーナ?確認するけどお前、この状況自分でどう思っている?」
「…………ごめんなさい。私、せっかくユリウスと一緒になれたのに。なのに彼を置いて先に逝くことに……」
「え?マジ?」
義母は動揺していた。
気づいているとはいえ本人の口からそう聞かされてしまえばそんな反応になるのも無理は無いだろう。
「あー、ちょっと待ってろよ?すぐ戻って来るから」
義母は慌ただしく家から出て行った。
数分して戻って来た彼女は困惑した表情で黙っていた。
それから半時間ほどして、今度は母様が訪ねてきた。
どうやら先ほど義母が使いをやって呼んでもらったらしい。
二人はしばらく何かを話している。
気になって耳を傾けると……
「なぁ、メイシー。お前、もしかして娘に『あの事』を教えていなかったのか?」
「えーと……言われてみれば教えていませんでした。ていうか今のリリィと同じ事、かつての私もあったので……」
「マジかよ……」
まさか母様もかつて私みたいに病気に悩まされていた?
「で、でもあの時はアンジェラとリゼットが居たのですぐ気づいて問題はありませんでしたよ」
これはつまり、闘病の末ここまで長生きできた、ということだろうか?
すぐ気づいた。つまり早期発見であれば何とかなるということか。
「こっちは大問題だろ……あー、こりゃもうあれだな。病院へ連れて行ってきっちり告知してもらうのが手っ取り早いかもしれんな」
「ええ、そうですね」
告知!
遂に現実を叩きつけられる時が来たわけね。
そして私は少し抵抗しつつも実の母と義理の母ふたりに両脇を抱えられ病院へと連行されていく。
「あんまり抵抗したらお父様の受診用の台車にくくりつけますからね」
勘弁してもらいたい。
□
病院に連行された私は訳も分からぬまま色々な検査を受けた。
そして結果を待っている最中、母様に今後のミアガラッハ家について聞いてみると『それは気にしなくていいから』と言われた。
そうよね。私が死んでもリムが居るもの。
そして運命の瞬間は訪れた。
「おめでとうございます。ご懐妊ですよ」
「え?」
おめでとう?
いや、何がおめでとうなのかしら?
ゴカイニン?
ん?ニンジャ?確かそんな職業クラスが存在したわね。
母様達を見ると苦笑している。ていうか義母の方は吹き出しそうになっている。
「えーとですね、リリィ。お医者様が何を言っているか、ですけど。冷静によーく聞いてくださいね。つまり、あなたのお腹に子どもがいるって事なんですよ?」
え?子ども?
「ああ、なるほど。子どもが…………ってええっ!?こ、子ども?それは私が妊娠してるって事!?」
「そうです」
え?妊娠するとこんな状態異常的な体調になるというの!?
読み漁った結婚指南書には書いてなかったけど!?
「うわぁ、ガチだなぁ。これはその辺についてきちんと教えてこなかったお前の責任だぞ、メイシー?」
「恥ずかしい限りです」
「でも母様、さっき自分もかつてそうだったとか、え?」
ヤバイ、何か色々と混乱してきた。
「あなたを授かった時にですね。私も同じように混乱してアンジェラ達に泣きついた事があったんですけど、まあ、その……すぐに勘違いだと判明しまして。はい」
顔を赤くしながら母様が説明する。
つまり、ここ最近の体調不良は妊娠が原因?
「元々身分が高い家の出身だった子って時々そういう勘違いをするんですよ。近年は減ってましたが久々に見ました」
女医も苦笑している。
「すいません。少なくても3回は親達が妊娠している状態を見てきているので知っているものと思いこんでました」
母様はもう真っ赤である。
というか多分私も顔が赤い。
「な、なななな何で!何で家に居た段階で教えてくれなかったの!?マム!!」
「いや、だってあんだけガチな表情されてるとなぁ。ていうかお前は思い込んだら視野が無茶苦茶狭まるから言っても無駄かと思って」
「うっ………」
否定はできない。
自分でも直さなければいけないと思う欠点のひとつだ。
ていうか夫と交際を始めた時もそんな感じで思い込みから長年隠してきた心の傷についてぶちまけた上で彼への好意を吐露して逃げ場を失くした。
結果としては良かったわけだがあの瞬間は今思い出しても恥ずかしい。
「それにしてもやったなメイシー、あたし達も遂に『おばあちゃん』だぞ?」
「ええ。かつて城に引きこもっていた頃には考えられなかった展開ですよ。リリィ、ありがとうございます」
「う、うん……」
母様達は喜んでいるのだけれど……ヤバイ、恥ずかし過ぎる。
□□
そこから更に数時間後。
家に戻った私だったが夫が慌てて帰って来た。
私の後ろで見守っているマムが事務所に使いをやってくれたらしいが……これは何か勘違いさせるような伝言をしたのね。間違いなく確信犯で。
母様と義母が私の肩を叩く。
仕方が無い。ちょと怖いけど覚悟を決めよう。
「あのね、ユリウス。最近体調がすぐれなかったでしょ?それで今日、病院へ行ったんだけど……」
それは、私たちの人生が新たな局面に入った瞬間だった。