無知な幼なじみが『恋のABC』を教えて欲しいと言ってきたので教えてやることにした
俺たち二人はランドセルをガチャガチャ鳴らしながら家路についていた。
幼なじみの咲桜と俺拓真は小学五年生だ。俺たちの間柄に男女の別はない。だが咲桜は衝撃の質問をしてきたのだ。
「恋のABCってなに?」
「はぁ!?」
いつもの学校からの帰り道。いきなりの恋の……話。俺の中に潜めていた咲桜への思いが急激に頭をもたげた。
「おいおい、知らねぇのかよ」
「うん。今日みんなで話してたから知ってるっていっちゃった! ねぇ教えて」
そういってニカッと笑う咲桜。
毎度毎度そうなんだ。知らないことを知ったかぶりしてしまう。そして俺に聞いてくるのだ。
俺はドキドキした。
「教えてやってもいいけどな」
「ホント? やっぱりタッちゃんは頼りになるな~」
めっちゃかわいい。この咲桜にABCの話か。妙に意識してしまう。
「だったら俺の家にいかねーか? 親はまだまだ帰ってこねぇし」
「うん、行く行くー。あとゲームもしよう!」
ゲームなんてやってられるかよ。ABCだぞ? マジか~。うぇーい。でも小五で早いかな? そんなことねぇか? ……いやあるか?
いろいろと葛藤があるものの、俺の家に到着。玄関のドアを開けて咲桜を家の中に入れた。そして俺の部屋に。
俺はジュースを台所に取りに行き、部屋に戻ると咲桜は可愛らしく部屋の真ん中にちょこんと座っていた。そしていつものように歯を見せてニカッと笑う。
「ねぇねぇ。教えてよ。恋のABC」
いきなりかよ。ドキドキが止まらない。
「じゃあ立って」
「こう?」
「そう。そしたらまず抱き締め合います」
「え。抱き締め合うの?」
「そう。やめる?」
「いや、別にタッちゃんならいいけど」
そういって俺たちは部屋の真ん中で抱き合った。
「それから?」
「次は女の仕事だな『愛してます』って言うんだ」
「え? このまま」
「そう」
「なんか恥ずかしい」
「だろうな。俺も恥ずかしい」
「じゃあ言うよ。『愛してます』」
「そしたら次は男の番な。『僕も愛してます』」
「へー……」
「どうした?」
「なんかぁ。ドキドキするね!」
「まぁな。俺もドキドキするし」
俺たちはそのまま抱き合っていた。咲桜の鼓動が伝わってくるように感じる。
「……それで? 次は?」
「次はなぁ、チューするんだ」
「え? チュー!?」
「いや?」
「いや。別に……」
「じゃあやってみるか?」
「うん……」
俺たちは互いの唇に自分の唇を合わせあった。それはホンの一瞬で、照れて下を向き合った。
「分かった?」
「うん……」
「Aは『愛してます』。Bは『僕も愛してます』。Cは『チュー』な?」
「うん。ふふ。なんかスゴく恥ずかしいね。ちょっと大人になった気分」
その後俺たちはアニメを見ながら手を繋ぎあっていた。そして夕方になって、俺は咲桜を家まで送っていったのだ。
◇
休み開けての学校。咲桜のヤツ、友達に『タッちゃんとCまでいっちゃった!』という暴露が大問題となり、親まで呼び出された。
俺たちは好きあってるからいいじゃないですかと反抗したが、咲桜のお父さんに殴られた。そして、将来を約束させられ、俺たちは婚約することになったんだけど、俺たちが本当のABCの意味を知るのは中学の終わり頃だった。