3.温泉に入るのは実は生まれて初めてです
立つこと 歩くこと 躓きそうになったらバランスをとって立て直す
転んだら起きる
すごく久しぶりの動作なのに 自然にできた 出来てから 出来たことに
驚いて嬉しくなる
「お茶をどうぞ」
っと フィーさんにカップを渡された時に自然に肘が伸びて 指先まで力が入ったこと
それが 自然にできたことに驚き 自分の前に自分で置いたお湯呑みを見つめて涙ぐんでしまった
「お手洗いどこですか?」
って 聞いて 教えられた道順でひとりで行ける
アルが付いて来てくれたけれど それは途中での事故を心配してじゃない
個室で泣いちゃったよ
普通のこの年頃の子供の生態は知らないけれど こんなに些細な事で泣くのは普通じゃないよなあ
「生活に必要な物は使者が届けてくれたと思うから部屋に行こう」
と アルに案内されてアルのお兄さんの使っていた部屋に案内してくれる
荷物がどうやって届けられたのか?とか思うけれど 旅人の必需品が
準備されて生活の場に届けられる(いつの間にか湧いている?)のは
ハザマハーラでは普通の事らしい
僕が子供になってるくらいだから 何が起こっても不思議じゃない場所なのかな?
案内されたのは 六畳くらいの部屋 畳こそないけれど和室っぽい
お布団も一そろい畳んでおいてあって その横の箱に着替えなどなど
入っている これは行李? ずいぶん懐かしいものに入っ
ているのはここの常識?それとも 使者の趣味?
手鏡を出して 自分の顔を見る ずっと昔に見たことがある自分の顔だ
舌を出したり 片目をつぶったりして 自分の顔だと確かめる
あかんべーをして見る 右手の人差し指を一本だけだして 眼の下を伸ばす
って けっこう高度な技だから こんな事できるってすごい って思ったら
鏡の中の顔がゆがんだ
鏡をしまって 布団に寄りかかりながら寝転がる
ここが夢の中だとしたら すごく都合がいい夢だと思う
叶うはずがないと望むことさえしていなかった願いが叶っていく夢
「もう一度でいいから自由に歩きたい」
と思った事はあった
その願いが一度 どころか この短い間に何回も叶って まるで普通のコトのようだ
もうしばらく この夢を見ていたい 夢の中に居たい
涙が流れているのに気が付いて 誰に見られているわけでもないけれど行李にかぶせられていたハンカチを顏にかけて
その上から両手で顔を覆った
「ヒデ~ 入るよお~」
声がかけられて アルが覗いている気配がする
部屋に入ってきて 隣に寝転がって僕の様子を伺っている
………えっと
僕のコト心配してくれてる?泣いてるって分かった?
「アル 心配してくれたの?」
アルが起き上がった気配がした
「泣きすぎって思ってるでしょ? わかんないだろうけど
やりたかったこと 憧れ 諦めていた願いが いざ 自分で出来たら
なんか 泣きたくなっちゃうんだよね」
「オオゲサでしょ お茶飲むのに憧れてたの?
階段上がることとか? あと 一人で トイレ行って泣いたのも
願いが叶ったから? 。。。。」
心底 ワケワカランって口調でアルが聞いて来る
デスヨネっという気持ちと ソウナンデスという気持ちで混乱する
同時に 普通に遠慮なく会話するというのが新鮮で これも憧れの
一つだったっと思ったら 新しい涙が出てきてしまった。。。
トントントン ノックの音がしてトロワの声がした
「兄ちゃんもそこにいるの?」
「おう いるぞ なんだ?」
トロワが来たらしい トロワにまで泣き虫だと思われるのかあ
もう 思われているかな?
「ヒデ 眠ってるみたいだぞ」
アルがトロワに告げた
フォローしてくれた? 流石 男同士 気持ち通じた!?
「父さんが ヒデと兄ちゃんで温泉いったらどうか?って
父さんもついていこうか って言ってるけど…
眠ってるんだよね どうする?」
トロワが部屋の入口から聞く
「父さんは行かなくていいよ もうちょっとしたらヒデを起こして 聞いてみるって言って」
アルが言うと
「わかった」
と言ってトロワが出ていく
温泉に誘いに来てくれたらしい
え? 温泉 温泉ってあの温泉?
行ったことない 知識でしか知らない温泉がココにあるのか?
この夢 都合よすぎないか?
「というコトなので ヒデ 温泉行くか?」
行李の中には 黄色い桶(ケロ〇〇と書いてある)の中に手ぬぐいが
入った温泉セットが入っていた。。。。アルに見せると
「使者ってスゲーな」
とか言っていたが 僕も同感だよ
***
家の脇に流れている小川にそって 丘を降りる
ちょっと 脇に入ったところに沸いている温泉は 卵がゆだるほど暑いから
人が入るところは もうちょっと下の小川の水と混ざっているところだ
「あ~ゴクラク~」
温泉につかりさながら 笑いながらふざけたような口調で言ってみる
コレも言ってみたかったんだよね これを言いたいって願った事は無いけど
これも夢が叶ったって言っていいのかな?
気持ちよくて 気が緩んで 涙腺も緩んできたよ。。。
はあ~ でも もしコレ夢だったら
オネショしてるってパターンだよね。。。。ドキドキ。。。。。
心に浮かんできた過去を告げてみる
「驚くと思うけど 故郷では僕はもっと大きかったけど 体が悪かったんだよね
なんでか ここに来たら子供になってて 体も動くんだよね」
「あ~ 旅人は不思議な人たちだから そんなコトもあるんだろう?」
あれ?
アルが驚かないことに驚いて 試しに もうちょっと続けてみる
「僕さあ 一人で温泉って入るの初めてなんだ
体が悪かったから いつも誰かが助けてくれてた
旅に出るのだって初めてだし 初めてだらけの事にも泣きたくなるのかな?」
「んん 俺はあまり泣かないから わっかんねえなあ
でも いいんじゃないか? 泣けば? 」
「はは じゃあ 今 泣いていいかな 泣いていいって言われて嬉しいデス
故郷では泣くの我慢して たから」
「ええ? こんなに泣き虫なのに? なんでだ?」
「うーん 心配かけたくなかったからかな? 泣いたらダメだと思ってた
自分が終わっちゃうような?」
しばらく 黙ってからアルが言った
「それは わかるかな」
黙ったまま 二人で水が流れる音を聞いていた
「僕 気持ち悪くなってきた」
「それ 早く言えって すぐ 出ようぜ」
読んでくださる方がいらっしゃる というのは幸せです




