29いつものように過ごしたい
いつもと同じように皆で
食事を食べる
トロワがいつもと同じように場を仕切っている
全てが昨日や 一昨日と同じような見慣れた風景
アルがいつもより 少し緊張して不機嫌で無口になっているけど
いつも通りの範疇だね
使者が迎えに来たら ちゃんと旅に戻る
もし 来なかったら いつもと同じ日常を過ごす
それだけのこと
食事が終わるとアルがいつもの調子で誘ってくれる
「木登りの練習に行こう!」
いつもと同じように靴に
かかとをしっかり合わせて トントンとかかとを地面に打ち付ける
かかとがしっかりあういつもの感覚と音が好きだ
紐を丁寧に編み上げていくのも好きだ
隣でアルも丁寧に靴を履く
それまでかかとをつぶして履いていたから
かかとの部分がちょっと崩れているアルの靴もちょっと雑なアルらしい
「ヒデ 急いで!」
自分が靴を履き終わるや否や アルがちょっと怒った声で言った
早く行こうっと言うように 外を見る
「ねえ アル どうしたの?」
なぜか急がせるアルに僕が聞いたとき
「こんにちは 」
静かな声がして 振り返ったら あの無口な使者がいた
あっ お迎えだ と 思いのほかガッカリして自分に苦笑する前に アルの声がした
「ダメだ ダメだ ダメ ダメ ダメ」
一気にそれだけ言うと ポロポロと涙を流しながら
僕に抱き着いて でも口を引き結んでいるアルに
僕の方が冷静な気持ちになって来た
レイさん フィーさん トロワが出てきた
「お迎えですか?」
と聞くレイさんに 使者が黙って頷く
「少しだけ お別れを言う時間を頂きたいのですが」
いつも穏やかなレイさんが 静かにでも きっぱりとした口調で使者に言う
使者は そういわれるのが嬉しいように少しだけ微笑んだ
そして 手を開くとその無骨な手の中には 見慣れたロウソクが入っていた
「このロウソクが消えるまでの時間を差し上げましょう」
と言って レイさんにそのロウソクを渡した
使者の後ろ姿を見送って 父さんがカンテラを持ってくる
月無の夜にアルと二人で紅葉の木の下で夜景を見った時のカンテラだ
レイさんが アルにカンテラを僕にロウソクを渡した
いつかのように 二人でロウソクに火を灯す
大切な最後の時間だ
レイさんとフィーさんに抱きしめられる
「ヒデ ありがとう ヒデのおかげで アルがかわいそうな子じゃなくて
大切な 誇りに思える子だと思い出せたよ
ありがとう」
トロワは ちょっとすました顏をしながら 背伸びして
僕の首をギュっと抱いて
「ヒデ ありがとう」
っとだけ言った
そして アルと僕が顔を合わせたときに レイさんが
「父さんも母さんもトロワも みんなヒデが大好きで
もっと別れを惜しみたいけれど
二人で過ごしなさい」
と言ってくれた
二人で頷きあって 紅葉の木へ向かう
いつもなら たわいもない話をしながら向かう道を
黙ったまま 小走りで向かう
初めて この木に向かったときも アルに手を引かれて
小走りだった
あれが ほんの数日前の事とはとても思えない
二人で最初に話したベンチに並んで座る
「ねえ アル 最初に話をしたのも このベンチだったね」
「ここでも ヒデ 泣いたよな」
「うん」
「でも 辛くて泣いたんじゃないよな」
「うん」
「辛いときも 泣いていいんだぜ」
「うん」
「俺も泣。。。泣くから」
あとは 二人でワンワンないた
「うれしいときも 悲しいときも 辛いときも 泣いていいんだよ」
「おう」
「笑うのはもっといいんだよ 笑うと幸せが来るんだって」
「そっかあ」
「だから 笑え~」
無理やり笑わせようと アルをくすぐって
アルがくすぐり返して
二人で ベンチから落ちそうになりながら 泣きながら 笑った




