20月無の夕方は忙しいです
今日は月無の夜
本当に真っ暗になるから 太陽のあるうちに
仕事をしなくてはならないから ハザマハーラの人たちは みんな忙しい
ハトの兄弟もそれで学校を休んだらしい
アルも月無の夜は 広場以外にも灯ろうを灯す
牧草地の森側の外れや牛飼いの家へ続く道の三叉路
紅葉の木 温泉へ行く道の十字路
小さいロウソクを持って出かけるアルに僕もついて行く
アルが牧草地沿いの道を歩きながら言う
「月無しの夜に森を抜けてくる人なんていないと
思うんだけど 一応な
牧草地の木のもうちょっとだけ向うに灯ろうがあるんだ」
「この道を僕は歩いて来て ビックリして 喜んで
感動して 沢山泣いて アルに 会って また泣いて
。。。 本当にここに来てよかったよ」
速足で歩くアルにあわせて歩きながら僕が言う
「俺だって ヒデに会えてよかった
最初 すっげー泣き虫でどうしようかと思った
けどさあ 弱虫ってわけじゃないもんな」
ヒデが 苦笑しながら言う
牧草地の外れの灯ろうにアルが火を入れる
丁寧に 慎重に アルが火を作るときの
横顔が僕は好きだ
火が灯った時に アルの優しい横顔が好きだから
少しでも その顔をよく見たくて
僕はいつも左側にいる
牧場への三叉路は牧草地を突っ切るのが一番近道
だからと 牧草地を歩く
「牛のフンに気をつけろよ」
「踏んだら大変だもんね」
途中の木登りをした木で僕は立ち止まって
気を見上げる
次は もう一つ上の枝まで登れるといいな
アルがどんどん行ってしまうから
走って追いつく
牛のフンにはもちろん気をつける
「この道をあっちへ行けばハトんちな」
言ってから 三叉路の灯ろうに火を灯す
火を作るアルの顔は好きだけれど 最後に
ポッと音がする瞬間は 怖くて目をつぶってしまう
「もしかしたら ハルが火を取りに来るかも
しれないね」
「そうだな いくらやりたがってもハトには
火は危ないから来るなら ハルかナツだな」
「ハト いろいろ出来るようになるといいね」
「そうだなあ…」
紅葉の木の所にも灯ろうがあった
ベンチの反対側だったから気が付かなかった
その灯ろうにも火を灯す
火を灯すアルに 何回も
「熱くない?痛くない?」
と聞いて その度に アルは火傷なんてしたのは
トロワよりも小さいころだと笑って答える
そして その度にトロワよりも小さいアルが
火傷して泣いていたんじゃないかと 僕の
心が痛くなって 泣きそうになる
広場の火もここから確認する
「後で ここに明かりを見に来ようぜ
月無にしか見えないからな」
アルに誘われて 頷く
楽しみだなあ
「あとは温泉だな」
「灯ろうなんてあったっけ?」
「毎日来てるのに 気づかなかったのか?」
ヒデって意外にボンヤリしている所があるなあっと
笑われる
なるほど 温泉の入口に灯ろうはあった
それも灯した後 アルが思いついたように言った
「月無のこの時間なら 温泉誰もいないかもな いなかったら
温泉入っていこうぜ」
誰にも温泉に入るなんて言ってない
予定外のことをする
しかも 温泉の支度もしていないのに
温泉に入る なんていう 「悪さ」を
するのは 故郷でもやったことがない
やったことがない というか 出来なかったから
「望まなかった願い」どころか
「望んではいけない願い」が叶うなんて
すごく すごく 嬉しい
泣こうか?笑おうか?
挙動不審な僕をアルが見て
「大丈夫だよ 服着れば乾くから
まあ 母さんは流石に何か言うかな?」
言ってニヤニヤしていたから アルもこの悪さを
楽しんでいる
誰もいない温泉に 二人で入る
手ぬぐいも何ももってないけど
服着ればいいんだからいいか?
ルール違反。。。楽しい
かけ流しだし 多分 月無の夜に温泉来る人なんて
あまりいないだろうからいいよね?
何回も来ているうちに 温泉がすっかり当たり前に
なって アルも温泉では顏を出すようになった
僕しかいないし 濡れた髪は鬱陶しいよね
今日は義眼は入っていないんだね
温泉に肩まで浸かったら 二人でニヤリと笑ってから
「ゴクラク~」
と言って笑ういつもの手順を踏む
それから アルに手を見せてもらう
短時間で沢山の火を灯してきたけれど
新しい傷が無くてよかったと
自然に僕の頬が緩む
「心配しすぎだって」
っとアルが呆れたように言ってから
「あ 今日は月無だから夕飯 早いんだよ」
っと突然言いだして 僕たちは慌てて温泉を出た
「月無だから 母さん 片付けまでを明るいうちに
したいっていつも言ってるんだよ 急ごう」
せっかく温泉に入ったのに
大慌てで服を着て 濡れた髪のままで僕たちは家までの坂道を小走りで登って行くことになった
太陽が夕日の色になるころに家に着いた
アルとしては ギリギリセーフ なタイミングらしい
髪も服もビタビタに濡れて 息を切らしている僕たちに
門の所で待っていたフィーさんが 呆れたような顔を
して首を振って 呆れすぎて叱る気も失せたのか
早く着替えるようにとだけ言った
ちょっとくらい 叱られてみたかったなあっと思ったのはアルには内緒だ
エッセーも見ていただければ嬉しいです
良い一日を!




