14.青い月は人を冷静にするそうです
THANKS
青い月が照っている
静かな青い光の中で僕は考える
僕の役割は「子供」だと言われたけれど 子供でも いや
子供だから
一度大人になって しかも 一度生涯を終えた僕だから
アルに伝えられることがあるはずだ
ケンカになるかもしれないけれど 言わなくちゃね
ケンカなんてしたこと あったかな?
兄弟ケンカくらいならあったかな?
取っ組み合いのけんかなんてできないから
口喧嘩くらいなら あったような気がする
アルの出方が分からないから
細かい作戦はいらないなっと
覚悟だけをして アルの部屋を訪ねる
アルの部屋に来るのは初めてだなと思いながら声をかける
「アル?居る?」
「いるよ どうぞ」
っと 戸惑ったようなアルの声 ドアを開けると
けっこう 散らかってますねアルさん
少し片づけないと どこに何があるのかわからないじゃない
ですか
…散らかった部屋の奥の窓際にアルが座っていた
「いつも アルが来てくれるから
たまには僕が来てみようと思ったんだ」
「月は見なくていいのか?」
「もちろん 見てきたよ 青い月 綺麗だね~」
「青い月は 人を冷静にするって言われているんだぜ
昨日の赤い月に影響されて 喧嘩しちゃっても
今日の青い月みて仲直りするってさ」
「へえ~面白いね」
青い月にそんな効能があるとは! 僕はニコリと笑って言う
「じゃあ 青い月でよかった
ちょっと 気になることを言おうと思って来たんだけど
ケンカになっても 仲直りできるよね」
「ヒデ ケンカするのも やりたかったことなのか? まあ 座れよ」
一度 からかうように言ってから 俯いて
床に散らばったままの本を一山に積みなおして
僕が座る場所を作ってくれる
気楽な調子を作って言う
「そういえば 兄弟げんか以外はケンカらしいケンカってしたことない
んだ だから これが記念すべき初ケンカ になっちゃうかも
それにしても アルの部屋ってグチャグチャだねえ」
と言いながら 空けた場所にヒデが膝を抱えるようにして座る
子供がよく こんな風に座っていたっけなあ 僕も今はこんなふうにも
座れるんだなあ
そうそう まずはお礼を言わないとね
「アル 今日は逆上がりできて嬉しかった
自分の力じゃないけれど グルンって世界が回転するのを初めて感じたよ
チビ達が嬉しがって回っているのが分かるよ
本当は自分の力でできたら 良かったんだけど でも 楽しかった
自分で感じないと
分からないことって あるよね ありがとうアル」
なんで?という顔でアルが言う
「え?俺 なんもしてないぜ アインだぜ 補助してくれたの?」
「うん それはそうなんだけど アイン達が来てくれたのは アルが居たからでしょ?」
「俺とヒデが居たから 問題起こしてないか気になったんじゃね?俺の事嫌いだろうし」
「なんでそう思うの?」
「ヒデにだって 逆上がりできないの なんて馬鹿にしたじゃんか!」
アルが強い口調で言う
僕が馬鹿にされたって怒ってくれている
「ねえ アル あれは馬鹿にしたんじゃないよ 確認 でしょ?」
「違うって いつだって 馬鹿にしているんだ 俺に目がないからって!!!」
ああ やっぱり…何もかも そこに行ってしまうんだね
「落ち着いて アル ほら 青い月を見れば落ち着くんでしょ?」
落ち着いて アル 大好きだからっと気持ちを込めて
背中を優しくなでる
二人で窓辺へ行って外を見る 月は見えなかったけれど
外を明るく照らしているのは青い月の光だ
そして ここからは広場が アルの火が灯った灯ろうが
良く見える
アルがここからも確認できるように かな?
二人で窓枠にもたれるように 向かい合って座る
「ねえ アル 昨日の続き 聞いてくれる?」
まだ 話す事が定まらないけれど この光の中なら
アルの心に言葉が届く気がして言葉を紡ぐ
「故郷で僕は 普通の人が当たり前に持っているモノを
持っていなかった ハンカチ落としたって自分では
拾えないんだよ
アルと同じように 普通に憧れながら過ごしていた
でも 普通に憧れている人は沢山いる 人って誰もが
自分ひとりだけが人よりも足りないって思っている
のかもしれない アルだけじゃなくてね」
アルの口が「だけど」っと言いだす前に続ける
「ここからは アルの火がよく見えるね
ここから見てもアルの火はとっても綺麗だ」
アルが顔をあげて ちょっと微笑む
二人で だまったまま 灯ろうの火を見ている
アルが自分の火に集中しているのを目の端で確認して
僕は視界を広げて広場全体を見る
月の光の中
白い服の誰かが広場の隅の方を横切ったのが見えた
「あれ? 広場を横切ったのは誰だったんだろう?」
っとアルに声をかける
灯ろうに集中していたアルには 誰かが分かるどころか
人が歩いていたことさえわからなかっただろう
「ん?」
という顔をして 広場全体を見ている
「ねえ アル 今は広場に誰もいないの分かるよね?
アルの火がついているのも分かるよね?」
当然だと頷くアルに重ねて言う
「じゃあ さっき じっと火を見ていた時はどうだった?
人が広場を通ったの分かった?」
アルが何を言っているのかわからないという風に言う
「火の方に集中しているんだから
誰かが通ったかなんてわかんないだろ?」
アルの口から集中という言葉が出た所で言う
「でしょ 集中って 他のコトを見えなくしちゃうんだよ
それって 時には困ったことになるんだよ」
上手く伝わるだろうか
アルの火を見て 勇気をもらって言う
「アルは 自分の眼のコトに集中しすぎて 他のコトが
見えなくなってる 何を見ても 何を言われても
眼のコトを考えるせいで歪んで感じちゃうんだよ」
眼の話が出たから アルがむっとしたのが分かる
「歪んでるってどういうことだよ」
「アルは 大丈夫?って言われても
アルの火が消えている って言われても
馬鹿にされたように 感じちゃうことがあるでしょ?
相手はただ 消えているよって教えてくれている
だけなのに 怒っちゃうでしょ?」
アルは何も言わないけれど 多分 怒ってる
アルの心に壁が出来る前にアルの心に届かなくちゃ!