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第一章 Ⅴ

 確かに、一也が『トライ・ボール』初心者だった事は間違いがなかった。しかし、彼はキーパーを二ゲームで完璧と言って良い程に全


うして見せた。これは経験があっても困難な事だった筈だ。ではなぜ、彼にはそれが可能だったのか?

 生存している動植物には、その体内を循環する魔力が存在する。この世界ではそれをB.E.、V.E.等と呼ぶ。人間等の場合、頭


部、胸部、下腹部の三か所に、肉体各部から盛んに魔力の出入りする集束点が存在する。この三か所は太い魔力の線で結ばれている。ジ


ェナイト基板はこの魔力に反応して発電し、P.A.W.W.等を稼働させる。さて、前置きが長くなったが、彼がキーパーを全うでき


たのは、この魔力の流れを見ていたからなのだった。元魔王である彼は、この世界に転生して二か月と少々、様々な人々の魔力(B.E


.)を観察してきた。そして人々の動作と魔力の流れに相関のある事に気付いたのだ。例えば、誰かが右手でテーブル上のリンゴを取り


上げようとする。すると、肉体が動き出すよりほんの少し早く、胸部集束点より右手へと集中的に魔力が流入し出すのだ。これは、例え


ば右手でリンゴを取るそぶりを見せつつ左手で素早く取るといった場合、右手より左手への流入量が多くなる。つまり思考に直結してい


ると考えられるのだ。フェイントで右へ動くそぶりを見せつつ左へ回り込もうとしたのを見透かせたのは、下腹部集束点からの左右両脚


への魔力の流入量差を見ていたに過ぎないのだ。もちろんそれだけでキーパーが出来る訳でもなく、前二チームの、特にキーパーの動き


をつぶさに観察していたからなのだが。第三、第四ゲームとキーパーを務め一失点も許さなかった一也は、六限目が終わる頃には『愉快


』という感情を理解しつつあった。


 その日、救難活動部の活動内容は基礎体力の強化だった。筋骨隆々とまでゆく必要はなかったが、人命救助は体力勝負なところも多分


にある。P.E.未装着だから、というのは、それを行わない理由たり得ないのだ。

「はい、にーじゅうーきゅうー、朝野さん、完全に腕を伸ばさないー。骨格で休まなーい」

腕立て伏せの号令を取りつつ、二年生の天野あまの 光理ひかりが注意を飛ばす。緩慢とも思えるスピードで腕を屈伸し、伸ばし


きる手前で止める。こうする事で、効率よく筋肉に負荷を掛ける事が出来るのだ。汗こそかいているものの、彼女はまだ余裕そうだった


。澄玲と麻寿美は歯を食いしばりつつ、小刻みに震える腕で何とかついてきている。一也はといえば、どこ吹く風とばかりに淡々とこな


していた。残るは周崎すざき 亜矢あやだが…。

「……もう、ダメ…」

まだ息も荒く、仰向けに寝転がっている。彼女のみ体力を考慮してメニューを軽めに設定されていたのだ。

「はい、さーん、じゅうー」

「腕立て伏せ第一セット終了。五分休憩よ」

立ったまま顧問の下地しもじ 由紀ゆきが告げる。光理と一也は上体を起こすと床に座り、澄玲と麻寿美は崩れる様に仰向けとな


る。

「フフ、植阪さんはともかく、朝野さんも、なかなか頑張れる様になってきたわね。城田君は、相変わらずだけれど」

可笑しそうに光理が言う。

「そうですか」

一也は淡々と答え、頷いた。

「そうよ。ただ、これも植阪さんはともかく、朝野さんは」

その口調から体型への言及だと予測した麻寿美は、話題を変えようと焦った。

「ああー、先輩!?実は、体育の時間で城田君が凄かったんですよ!」

光理の目が煌めいた。麻寿美の作戦勝ちだった。

「そうなの?どうしたの?」

「五、六限と一組、二組合同で『トライ・ボール』をしたんです。城田君は初めての筈なのに、二つのゲームをキーパー役で一失点もし


なかったんですよ!」

なぜか少し自慢げな口調だった。

「あら、凄いのね。キーパーって難しいポジションなのに。『チャレンジャー』は誰も抜けなかったのね?」

「はい。私は第一ゲームだったので植阪さんや城田君とは当たらなかったのですけれど、見学していて凄かったです。まるで先回りする


様にガードに入って、プッシュにもびくともしませんし」

「そうなの。もしあなたが『チャレンジャー』だったら、どんな攻略法があったかしら?」

少しの沈黙ののち。

「…うーん。私が『チャレンジャー』になる事って、なかなかなかったと思いますけど…まぁ、お手上げです、ね」

小さく笑い声を立てる。

「ねぇ、朝野さん。城田君を話題にするなら、私もして欲しいなぁ」

冷めた口調で澄玲が会話に加わる。

「あら植阪さん、ご免なさい。寂しがらせてしまって」

「寂しいですって!とんでも御座いませんわ!」

言葉遣いがおかしくなってゆく。最初に笑いを堪えきれなくなったのは澄玲の方だった。

「ぷぷっ!」

「ははっ!」

二人は笑い合った。光理も忍び笑いを漏らす。その様を、何がおかしいのか判らない一也が物珍しげに見詰めている。

「…ところで、夏期休暇中に合宿があるのだけど」

笑いが収まったのを見て取り、光理が切り出す。

「合宿、ですか?」

そう問うたのは麻寿美だった。

「そう。毎年長野県で、嘱託の山岳隊員の方達に指導を仰いで、三泊四日で行うの。それで」

「休憩終了よ。天野さん、号令を」

光理の話を断ち切る様に、由紀が割って入る。僅かに咎める様な響きがあった。

「あ、はい」

光理は、少し気まずげに返答した。

「立って。次はスクワット三十回一セット目よ」

光理と一也、澄玲はすっ、と、他二名は少しけだるげに立ち上がった。


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