エピローグ Ⅲ
港町の中心部近くでは未だバグスが蠢いていた。大都市圏近郊に降下したバグスの対処に戦力の大半が割かれたため、伊丹からの一中隊のみで十機を超えるアントやスパイダーに当たらなくてはならなくなったのだ。
『あかーん、こんなん無理やって!』
そんな声が中隊長の耳に届いた。二倍の液体火薬で二十ミリ弾を撃ち込んでも一発程度では止まらない。十ミリ対空機銃弾でも被弾すれば、最悪アクチュエータが破損し動けなくなる。そうなれば格好の的となり、彼女達の頼もしき鎧は棺桶に早変わりするのだ。攻撃を回避しつつの射撃では有効打も与えにくく、見る間に弾薬は減ってゆく。泣き言の一つも言いたくなるだろうが。
「無駄口はやめなさい!増援の到着まで敵を足止めするのよ!」
隊員を叱りつけながらも、中隊長は内心泣きたい気分だった。弾薬は心許なくなってきていた。バグスは特に上部を強化されているのか、なかなか従来通りの上方からの襲撃では停止させられない。といって地上に降りては建物等の地形により行動が制約される。バディで一名が攪乱しつつ一名が連結部等脆弱な部分を狙う、といった戦術を取れば、多勢のバグスには手が回らない。戦闘車のレールガンなら一撃で屠れるだろうが、それの到着には更に十分近く掛かるだろう。何やら朝霞から増援があるらしいが、たった一機とは何の冗談か?
「全中隊員へ。私達の任務は被害の限定化よ。機甲部隊の到着まで持ちこたえるの!」
上方からスパイダーのガトリングガンを潰しながら、自らをも鼓舞する様に通信を飛ばすが、帰って来た「了解」は心許ない。喝を入れようかと思った時、周辺警戒用のドローンがそれを捉えた。
「…黒い、P.A.W.W.?」
仮想スクリーンのウィンドウには、四機のプラズマスラスタを全開にし、こちらへと飛行してくるブラックオーガの雄姿があった。
『こちら朝霞基地より臨時派遣されたXZ-015-16283。指揮官は応答を』
その声が加工されている事と同時に、そのコードナンバーにも中隊長は驚いた。Xで始まる、という事は試作機か。この増援は試験の一環という事なのか!?
「私が中隊長よ。いったい試作機が何の用なの!?」
言葉が棘々しくなる。試作機が単体で乗り込んできて、トラブルで行動不能にでもなられたら迷惑を被るのはこちらなのだ。
『これより状況終了まで貴官の指揮下に入る。指示を待つ』
しかし相手は自分のペースを崩すつもりなど微塵もない様子だった。溜息をつきつつ思考を切り替える事にした。こんな所へ単独で放り込むという事は、どうやら色々と迷惑な上の方の意図が働いているのだろう。メーカーから鼻薬を嗅がされたか知らないが、だったら私たち下っ端は何も考えずただ有り難く使わせて貰えば良い。その結果どうなろうと知った事か。責任を取るべきはこちらではない。
「了解。目下中隊は十機を超えるバグスと交戦中。これに参加せよ」
『了解。交戦に参加する』
ブラックオーガが急降下の姿勢を取ると、ドローンの映像から消えた。それより五分余り。疾風怒濤と戦場を駆け巡る一也の、その両手に握られたヒートソードがバグスを切り刻む様子を、中隊員達は茫然と見守るのみだった。気を取り直した中隊長が状況終了を宣言するや短く「了解」とのみ言い残し、ブラックオーガは颯爽と飛び去ったのだった。
END
いかがでしたか?前作ともども楽しんで頂けたなら幸いです。




