エピローグ Ⅰ
第101機甲師団第411機動歩兵大隊第1中隊長城田 久音は、朝霞基地の射撃場にいた。タランチュラをレールガンで撃ち抜いた、あの射撃場だった。今は作業服姿で、三十メートル先のターゲットに向け拳銃を構えている。彼女の左右には、同中隊の隊員達がズラリと並び、中隊長の『構え、狙え』の号令一下、ターゲットに照準を合わせていた。
「撃て!」
久音の号令に合わせほぼ銃声が重なり、弾丸はターゲットに食い込んだ、と見る間に弾き出される。その上のモニタには拡大されたターゲットのグラフィックが表示されており、センターからどちらの方向へ何センチずれたか示される。久音は右斜め上に四センチずれた。これを元に、照準を修正してゆく。そうして久音の号令の下、中隊は全弾を撃ち尽くした。久音の結果は、センターから半径五センチ以内に全弾が収まる、というものだった。機動歩兵として、専らP.A.W.W.を装着し任務に就いている彼女達だが、一般兵としての訓練も重ねているのだった。野営訓練等も年に何度か参加しているのだ。まずまずの結果に、少々安堵した様な表情を浮かべた久音は、拳銃をホルスターに収めた。外したイアプロテクターを首に掛けると、古めかしい薬莢を回収しようと身を屈めた。一つ目を取り上げたところで、詰所の方から耳慣れた物音が聞こえてくるのに気付き、そちらを向いた。小型VTOL輸送機が垂直離陸してゆくのが見えたのだった。
「?P.A.W.W.の移送予定なんてあった?」
怪訝げに呟いた彼女へ。
「どうやら、例の機体の運用試験らしいわね」
大隊長のスーザンが話し掛けてきた。例の機体、といえばここではブラックオーガ以外になかった。他の、機動歩兵大隊が駐留している基地にも朝霞同様、企業が機体を持ち込んでいるのが普通の状態だった。優秀なテストイクイッパの確保が困難なのは、いずこも同様なのだ。
「!それは、七月初旬と同じ!?」
「そう。乗っているのは一也君ね。こうポンポンと軍の輸送機を使わせて問題ないのかしら?管区監察部辺りに目を付けられなければ良いのだけれど」
P.A.W.W.開発における現状は、軍と企業の癒着として問題視する向きも軍内にはあったのだ。
「どこですか?」
作戦域は、と言外に訊ねる。
「紀伊半島。幹線鉄道網が攻撃に晒されかねないわね」
「こちらに出撃命令は?」
「ないわ。伊丹と国分で充分なんでしょ」
言って、スーザンは久音の肩を叩いた。
「心配しなくても、一也君なら大丈夫よ。そうでしょう?」
言って、背後の第二中隊と交代するよう指示する。久音は今一度空を見遣り、レンジを出て行った。




