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第二章 Ⅹ

 本来ならばメインイベントだった筈の『タッチ・オワ・ドッジ』が終了すると、場内に俄に熱気が漲り始めた。そこかしこで、興奮気味の囁き声が波を起こし始める。彼女達が何より期待していたのは、これから始まる三年生対一年生の一騎打ちなのだ。『試着室』付近の生徒達が二手に割れ、二機のP.E.が姿を現すと、主に一、二年を中心として拍手が沸き起こる。それらは、フィールドの縁で立ち止まった。フィールド中央に立つ由紀が、口を開いた。

「これより『ダイス・ショット』競技を行います。競技を知らない人の為に、簡単に説明しましょう」

言いつつノートパッドを操作する。天井のプロジェクターが実技場上方の壁に、ピンク色を背景としてカラフルな立方体を映し出した。

その右横には、信号機のランプ状の物が表示されている。それは今は黒くなっていた。

「仮想空間内に、この様なダイス状の立方体が表示されています。見て判る通り、各面は赤、青、緑、黄、白、茶のいずれかに塗り分けられています。この上を、この様に黒いターゲットがランダムに移動します。移動は通過と停止があり連続した面に対して行われ、停止後射撃可能となったところを、手にしたサイトシステムで狙い射撃します。ターゲットに命中すれば一ポイント、となります」

壁の立方体、正面となる赤の面の上に黒い円形のターゲットが現れた。立方体の上方にはタイムカウンタ(『03:00』)、左側には縦に二つの数字が並んでいた。上は『20』、下は『30』となっている。立方体の表面を、這う様にターゲットは移動を開始した。すると右横のランプが赤く点滅を開始する。続けて右横の緑面を通過してゆく。それと共にランプの色も切り替わって点滅する。それと並行して、左上の数字がカウントダウンしてゆく。やがてターゲットは停止した。ランプが青く点灯する。由紀の操作によって立方体が回転し、上方の青い面が表示される。ターゲットはカメラのシャッターの様に、瞬時に中心が白く開く。それと同時に左下の数字がカウントダウンする。

「この様にターゲットが開いて初めて射撃は可能となります。今回はタイムアップ形式、つまり制限時間内の得点で競います。今は動いていませんが、上の数字が残り時間を表します。通過時間、射撃可能時間は自由に設定可能ですが、現時点では通過時間三秒、射撃可能時間四秒、となっています。移動はランダムですが、条件を合わせる為に通過回数は固定されています。左側の上から通過回数、射撃可能回数となっています。さて、先程から停止、と言っていますが、射撃可能回数がゼロになるまでターゲットは隣接する面を移動はします。まるでモグラ叩きの様に」

由紀は微笑んだ。軽い冗談のつもりだったのか。笑う生徒はいない。表情を引き締める。

「さて、見ていて判ったと思いますが、右横のランプは通過時には点滅、停止時には点灯を、その面の色でします。競技者はそれを参考にしながら中空で移動しつつ射撃を行います。今回は一セット三分間を三セット、九分間の合計得点で勝敗を決するものとします」

言いつつノートパッドを操作する由紀。擬似的な光線が開いたターゲットに命中するや、軽快なピンポン音と共にターゲットは白黒反転し、ランプ上方のポイント表示がカウントアップされる。長々と説明が続いたが要するに今回の場合、九分間でどちらが九十ポイントに近い得点を出来るか、という競技だった。競技者の右手には、小さな拳銃状のサイトシステムが握られていた。

「競技自体の説明はここまでにします。競技は一分間のインターバルを挟み三セット連続で行います。まずは桐山さん、フィールド内に入って。もしフィールド外に出た場合、その時点でそのセットは終了となります」

由紀が出て行くのに合わせ、志摩のP.E.がフィールド内に足を踏み入れると、ほぼ中央で立ち止まる。由紀の操作により壁の表示はリセットされ、立方体は消えた。これからは志摩の見ている映像と同じものが表示されるのだ。P.E.が見上げると数メートル上空に、一辺二メートル程と思われる立方体は浮かんでいた。

「それでは、桐山選手の一セット目、開始!」

ホイッスルとほぼ同時にP.E.は二機のプラズマスラスタを全開にし上昇を開始した。壁の立方体は、下方の茶色から正面の赤へと見せる面を変えていった。仮想スクリーンの巨大なウインドウ上に表示されたランプは初期配置の赤から、右横の緑へと点滅を変える。面の上をするすると通過してゆくターゲットがチラリ、見えた。左上のカウンタが減ってゆくのが判る。ターゲットの動きに合わせ、心持ち右斜め上へと上昇後、下降した。天辺の青い面を通過し、左横の黄色の面で停止する。シャッターが開き、左下のカウンタが減じられる。彼女にとっては好都合のポジションだった。多少斜めではあるが、サイトシステムを構えトリガを引く。軽快な電子音と共に『Point1』と表示され、ランプ上のカウンタが一、アップする。ターゲットは真正面に見据えなくても、ある程度までターゲットが見えていれば命中判定してくれる。黄色で停止する確信があった訳ではないが、赤、青、黄、の面が接する頂点付近で待っていれば、その三面のいずれかにターゲットが移動しても多少の移動で容易く照準は可能なのだ。裏側の白に行ったとしても、高度を維持したままは困難だが、同様に青、白、黄、の頂点に移動し待ち構える事は容易だった。容易、とは言ったが、もちろんかなりの技量、持久力等がなければ無理な話ではある。空中で必要充分な微妙な動作を行うのは、かなりの習熟度を必要とする。それらを体得した者達にとっては、志摩の行っている事は基本戦術の一つだった。とはいえ生徒用P.E.のバックパック、二機のプラズマスラスタでは動作に制約が掛かる。高度を維持したままの横移動などは、たとえ出来たとしても緩慢なものになってしまう。それで移動している間に、ターゲットは移動を開始してしまうだろう。だから移動する方へ上昇し、放物線を描く様に下降し移動する、といった方法を多用するのだった。

 ターゲットが再び移動を開始する。底辺の茶色面を通過するのをランプの点滅で知り、彼女には三つの選択肢が与えられた。一つは正面の赤。一つは右横の緑。そして一つは背面の白。また黄色に戻る、という可能性もないではないが、彼女の経験上それはなかった。ヤマを張り一旦下降、右斜め上へと上昇した彼女は、赤、緑、茶色の頂点上に占位した。残念ながら、ターゲットの移動に追従してゆける程の技量はなかった。高校生レベルで最大得点の五分の一余りを落としたとしても、それは充分立派な成績ではある。進級テストの基準は二分の一以下なのだ。それでも進級出来ない、つまり強制退学になる生徒は多い。と、それはともかく。後半になれば通過回数が切れる場合も出てくる。そうなれば頻繁な移動をせずに頂点占位の戦術でカバーが容易になる。そこからが本番、狩りの時間の始まりだった。

 彼女のヤマは外れ、ターゲットは白を通過し、黄色へ戻って停止した。舌打ちしたくなる。結果的に戻るとは、なかなかやってくれる。彼女が移動中に射撃可能時間は過ぎてしまった。これで通過は五回。あと十五回。ターゲットは赤で停止した。ほぼ目の前に、不意に出現するや、シャッターが開く。射撃し、一ポイント獲得。青に続き緑も通過するのを見て取り下降、赤、緑、茶の頂点を正面に据える。通過はあと十三回。…この様にして、三分間で志摩は二十五ポイントを獲得した。五分の一の失点で済んだのだった。ホイッスルと共に彼女が地上に降り立つや、怒濤の様な拍手が沸き起こる。

「ねぇ、これ、勝てる可能性、あるのかな?」

呆気にとられた様に、クラスメイトから話し掛けられた澄玲だったが。

「うーん。別に勝てなくても良いんじゃないのかな?未経験の競技なんだし」

既にP.E.から離脱し、インナースーツの上にジャージを着用している彼女にとっては、どこか別世界の出来事の様だった。

「高宮さんとの試合を見る限り、まだ判らないと思う。城田君がまだどんな手を隠し持っているかも知れないし」

華名は静かにそう評した。

 一分間のインターバルを挟み次のセット、という調子で結局のところ、志摩は九分間で七十二ポイントを獲得した。二十五、二十五、二十二、という結果だった。セットが進むにつれ疲労は蓄積し思考力も鈍化するが、ヤマが的中するなど幸運も手伝い第二セットも第一セットと同点にこぎ着けた。第三セットでは動きのキレが鈍ったのを痛感したが、この得点をもってしても彼女が勝てない生徒は、学校内に十指で余る程しかいないだろう。

「んー、私もまだまだかねぇ。もう少し、点を狙えると思ってたけど」

未だ拍手の鳴り止まないなか、フィールドを出て面を晒した志摩が、一也に話し掛けるともなく独りごちる。バイザーを下げたままの一也は、彼女の言動にどう対処したらよいか判らず黙っていた。

「次は城田君の番よ。フィールド内へ」

由紀の指示で一也はフィールド内に足を踏み入れた。志摩同様ほぼ中央に立つ。

「それでは、城田選手の第一セット目、開始!」

ホイッスルの音と共に、P.E.は動き始めた。

 それはまるで、実技場がサーカス小屋と化したかの様な興奮だった。競技開始直後こそ、一也の動きは志摩と大差がなかった(一年生がそれをなしているというだけで、充分瞠目に値するのだが)。彼が独自の動きを見せ始めたのは一分程が経過した後だった。彼はヤマを外し、ターゲットは向こう側へ行ってしまった。その時彼は何をしたのか?上昇し立方体の上で前転屈伸半回転捻りを決め、ターゲットを得点したのだ。それは、全生徒の前では初めて披露した技だった。その様なシーンは九分間の間に何度もあり、彼は回転半径の調整や屈伸、伸身、プラズマスラスタのオン・オフ、出力制御等を駆使し、時には逆さまのまま得点を重ねていった。四秒という時間をギリギリまで使い切り、完全に計算されたその動きはとうてい一生徒、ましてや一年生のテクニックではなかった。最後まで疲労を微塵も見せる事なく第三セットを終えた一也は、総合で八十六ポイントを獲得した。セット毎では二十九、二十九、二十八、だった。志摩に十ポイント以上の差を付けての勝利だった。新たな拍手の波が起こる。

「桐山選手七十二ポイント、対城山選手八十六ポイント。城田選手の勝ち」

フィールドの中央で、面を晒した両者の中央に立った由紀が、一也の方に手を挙げる。いっそうの拍手が巻き起こる。

「二人とも、最高のパフォーマンスだったわ。お互いの健闘を称えて握手をして」

由紀も心なしか興奮している。両手で二人の右手同士を導く様にして、握手させる。互いに相手の手の平の感触、力強さを生々しく感じた。

「はぁー、参った参った。一年坊主にここまでやられるとはねぇー。まだまだ修行が足りないねぇ」

「そうですか」

「まぁ、負けは負けさ。でもね、私は今、とても気分が良いんだ。もし何か、困った事があったら生徒会室まで相談に来て欲しい。まぁ、生徒会選挙はこれからだから、会長になれるかは判らないけどね」

「健闘を祈ります」

祈る、という行為を理解出来ていない一也だったが、慣用句として口にするのだった。

「ははは!君の支持を得られるのなら怖いものなしさ!」

志摩が右手に左手を添え振り回す。拍手は鳴り止む事がないかと思われた。


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