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第二章 Ⅷ

 金曜日がやってきた。午前中までの試験ストレスから解放された生徒達の関心は、一気に競技会へと向かう。ちなみに生徒会選挙立候補者への登録は正午に打ち切られ、現生徒会の三年、二年コンビと、チャレンジャーとも言うべき二年、一年コンビの一騎打ちとなる事が確定していた。

 全校生徒の集合した実技場は、さすがに手狭に見えた。部室から三メートル程離れ、出入り口側より一年から四年までクラス毎に整列した様は、なかなかに壮観だった。その背後に四面の、各競技用コートがレーザポインタで表示されている。部室を背に並ぶ教官達の中から、一年二組副担任の三多みた 河澄かすみが進み出た。

「これより学期末熟達度認定競技会を行います。一年生は初めてだから毎年説明しているけれど、この競技会は優劣を競うものではありません。自己の現時点での力量を確認し、同時に先輩方の競技を見学する事で自分の目標を明確にする事を意図しています。冷静な目をもって、それらを実行する事を期待します。そうして三学期には一年の集大成となる進級テストとなるので、最低限クリア出来る様に日頃の努力を怠らない様に。さて、前置きはこの程度にして、競技会について説明します。背後にある各フィールドで、まずは学年毎の予選をして貰います。一年は担当教官から別途指示があります。その他、三クラスある二年は、それぞれ二名ずつ代表を選出、他の二クラスと各々が競技を行い、勝者の多いクラスが全体戦に学年代表一名を進出させます。二クラスの三年、四年は代表一名ずつ、勝者が学年代表となります。同点の場合には教官の指示に従い代表を決定します。全体戦では、例年の様に一年生が何年生と当たるかをあみだくじで決めます。実施する競技ですが、当然ながら下の学年のものに合わされます。空いているフィールドに関しては、教官の指示に従い未参加の生徒達で競技を行って下さい。それでは、開始!」

一つホイッスルを吹く。控えていた教官達が動き出した。一年担当は由紀だった。

「はい、一年生注目!種目は『タッチ・オワ・ドッジ』だけれど、今回はちょっと特殊な方式になります。一学期は、いつもなら一組から三組の代表が、まず一組対二組、その勝者と三組、という風に予選トーナメントを行いますが、一組の井波さん、二組の城田君は出場しない為、一組対三組代表で戦い、勝者が決戦に進むものとします」

エキシビジョン参加者は、トーナメントと重複して参加は出来ないのだ。成長途中に無理は禁物、という考えがあった。

「それと、余った時間は競技経験者が各組から出て競技を行います」

P.E.教育に力を入れている中学等では、手足の可動域等に制限を掛けた機体を用い実技を行う。その中には『タッチ・オワ・ドッジ』も含まれるのだ。

「それでは一組対三組の試合を行います。一組代表朱雀院さん、三組代表高宮さん。両名は速やかに装着して」

生徒達の中から挙手と共に返答する二人の生徒の声が聞こえてくる。飛鳥と高宮たかみや ゆいは、着用していたジャージを脱ぐとクラスメイトに預けた。下にはインナースーツを着用済みだった。背後には何台もの『試着室』が用意されており、二人は指定された物へと近付いてゆく。既にP.E.には体型をセッティング済みだった。学校では定期的に身体測定を行い、体型データを収集しているのだった。シャッターの開いた、名前の掲げられた『試着室』へと、背後から入ってゆく。

「他の生徒達はクラス毎にフィールドを囲む様にして待機。はい、移動!」

ホイッスルを一つ鳴らす。生徒達は迅速に動き始めた。クラス毎の待機位置を指示する由紀の声に従い移動していた一也と澄玲は、華名から声を掛けられた。

「二人とも、何か大変な事になってるわね?」

悪戯っぽい笑みを浮かべながら、二人に近付いてくる。生徒会主催のエキシビジョンマッチの事は、もちろん生徒達も判っていた。

「まぁ、そうなんだけどね。出来ればこんな大事にして欲しくなかったなぁ」

澄玲が溜息混じりに応じる。結局澄玲達三人は少しずつ『調整』を受け、自分の中で何かが変化している、と自覚出来る様になっていた。例えばそれは、体が軽く感じる、といった様な。それでも特待生にどこまで通用するのか、全生徒の前でみっともない事になりはしないか、と心配はつきなかった。

「最初から条件が違うのだから、当たって砕けろ、の精神よ」

「出来れば砕けたくないなぁ」

苦笑混じりに澄玲が応じる、と。

「ふむ。『タッチ・オワ・ドッジ』でP.E.が砕ける心配はないと思うが?」

軽くタッチパネルに触れるだけでそれはないだろう、と、真面目な顔で一也が訊ねる。相も変わらず慣用句というものに対する理解不足が出た。思わず華名は吹き出した。

「ぷっ、ははは、そうね。でもね、P.E.は砕けなくても、植阪さんの心が砕け散るかもよ?」

また訳の判らない事を、と一也は考えた。まず心というものがよく判らないのだが、それなりに情報収集をしたところそれは具象的なものでなく、一つの機能的な現象の様だと理解した。それが何らかの物質の様に砕けるのか?

「もう良いわよ。こうなったら開き直るだけだから。生田さんは空き時間に競技に参加するの?」

「そのつもりだけれど。まぁ、頑張るわ」

言って一也に微笑みかけて見せた。澄玲の胸にサッ、と微かな影が差した。

「?どうしたのだ?」

離れてゆく華名を複雑な表情で見送る澄玲に、答えのない思索を切り上げた一也が訊ねると。

「…ううん、別に」

彼をチラ見し、澄玲は自分の占めるべき場所へと彼を置いて歩んでいった。

 結果的に、一年代表は飛鳥となった。二本先取で誇らしげな飛鳥には特に感慨もなく、むしろ一也には、唯の動きが多少悪い様に見えた。彼の他にその点に気付いた生徒がいたとしても、せいぜい少々体調が悪いかな、程度の感想しか持たなかっただろうが。B.E.の見える彼には疑問だった。むしろ全てが活発で、好調の様だったから。しかし、唯が手抜きをしたのではないか、という考えは、彼には思い浮かぶ筈もなかった。片肘を付き悔しげにしている唯の機体は、しかしバイザーを開放すれば薄ら笑いを浮かべている面を目にする事が出来ただろう。攻防いずれもタイムアウトぎりぎりのところで点数をくれてやったのだ。こうして実力以外の力を持っている生徒のご機嫌を取る(バグスとの戦いに参加する事を拒否した失点を取り返す為にも)。彼女にとってみればそれは単なる接待プレイに過ぎなかった。


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