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第二章 Ⅴ

 月曜日がやって来た。今日から一週間、学期末考査が行われると同時に、生徒会選挙の公示期間となる。立候補する生徒達は、金曜日正午までにPVを学校サーバに登録する必要がある。立候補には必ず会長、副会長の二名が揃って行われなければならない。PVは、当事者達が登録申請を学校側に行うが、その内容次第では学校側が却下、つまり立候補を認めない場合もあった。

「何でテスト期間にぶつけるかなぁ。この日程、どうなってるのかねぇ」

昼食を終え、ノートパッドの生徒会選挙関連トピックスのフォルダを開きつつ、澄玲が言った。そこにはまだ、副会長と書記のPVしか登録されていない。

「それは良いのだけれど…植ちゃん、午前中はどうだった?」

澄玲の手が止まる。ノートパッドをテーブルに置き、溜息をついた。

「あーあ、その話振っちゃうかぁ。嫌だから生徒会選挙の話、してたんだけどなぁ」

「どうだったの?」

「んー、良くて中間並み、ってところ?」

「どうしたの?熱心に勉強していたじゃない?」

麻寿美が眉根を顰めてみせると。

「んー、それがさぁ。ふっ、と競技会の事が頭に浮かぶと考えがうまく纏まらなくなっちゃうんだよねぇ。この前のギャラリーは部活動の生徒達だけだったのが、今度は全校生徒って事じゃない?しかも練習する機会もないし」

「それはそうだけれど、今はちゃんとテストに集中しないと。午後から巻き返しよ」

「そう言われて、簡単に出来ればねぇ」

思わず欠伸が漏れ、伸びをする。

「もぅ」

麻寿美は不出来な教え子を見る様な視線を向けた。

「ならば、試してみるか?」

不意に一也が会話に加わってきた。二人の視線が注がれる。

「えっ、何を?」

「『調整』だ。植ちゃんは、頭部にするのは初めてか?」

「えっ…」

「…」

『調整』と聞いて、なぜか二人は面を紅潮させた。彼女達が三和と一対三で『タッチ・オワ・ドッジ』をせねばならなくなった時、一週間三人に『調整』という、B.E.集束点強化の儀式を行った。彼が一部、自分のB.E.を体外へ解放する様にして、他者のB.E.集束点に接近させるとそれに対抗する為か、その集束点に活発にB.E.が流れ込む現象が確認された。これを利用し、三人それぞれの弱点である集束点をある程度強化する事に成功したのだ。ただ、これには一種の副作用が存在した。彼が右手人差し指を胸部や下腹部に伸ばすと、たとえ直接触れていずとも一種の快感が彼女達の背中を駆け抜けたのだ。そう、触れていないにもかかわらず。また、これはB.E.が外部に溢れ出すほど過剰な彼にのみ可能な業で、その恩恵に与れる生徒は現状でごく僅かだった。

「どうするのだ?」

「や、やめとく。今さ、もしあんな…気持ちになっちゃったら、テストどころじゃないし」

「そうか?だがスーさんは、頭がすっきりした、と言っていたが?」

一也の呼び方に、亜矢が嫌そうに顔を顰める。澄玲と麻寿美に対してはその呼び方を拒否していたが、彼に対しては口にはしない。

「えっ?頭じゃ、効果が違うの?」

「そうなのか?それでどうするのだ、やはりやめておくか?」

澄玲は思い直した。もし頭部への『調整』が頭を冴えさせるのならば、試してみて損はないだろう。

「ちょっと待って!受ける、受けるから!」

「そうか」

一也は立ち上がるとテーブルを回り込み、澄玲の右隣の椅子に腰を下ろした。

「では、こちらを向いて。目を閉じて。行くぞ?」

言われた通りにする澄玲の額へ、右手人差し指を近付けてゆく。数ミリ程間隔を空け止まった。不意に、澄玲の額が熱を失った。わだかまった熱が徐々に抜けてゆく様な感覚。それと共に、頭の中で暴れ回っていた不安や後悔等も消えてゆく。

「…どうだ?」

一分程が経ち、一也は手を下ろした。ゆっくりと澄玲は目を開いた。

「…うん、全然違うね。不思議」

右手で額に触れてみる。特に冷たいとは思われない。不思議そうに目を瞬かせる。

「大丈夫か?」

「うん、大丈夫。これで午後は乗り切れそう」

「そうか。今日も学習室で、勉強会を行うつもりだな?」

正面の麻寿美へと視線を向ける。

「ええ、明日の教科を集中的にね」

「そうか。ならば、競技会に向け『調整』も行うのはどうだろうか?あれから日も経ち、少し戻りつつある様だが」

「そう…そうね。とりあえず、望む人だけで」

それは、暗に亜矢に向けられた言葉だった。部活動や勉強会など、共に行動する機会は増えたが、彼女の頑なな態度には変化がなかったのだ(心なしか一也とは会話等もしているが)。

「そうだな。井波さんを驚かせよう。『男子三日合わざれば刮目して見よ』だな」

「何それ、私達女子だよ!」

一也に澄玲が突っ込むと、きょとんとした彼をよそに二人は笑い声を立てたのだった。


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