ディスプレイとマテリア
「はー、笑い過ぎました。まだ、お腹が痛いです」
暫くの間、お腹を抱えて笑っていたユアだが、なんとか笑いの波も落ち着いてきたようだ。
「みなさん、あそこで追い打ちをかけるのは卑怯です」
ユアは目の端の涙を拭いながら言う。
「アレは追い打ちを期待している目だったわ」
「ですねー」
「だな」
リナの言葉にササリアとセスナは同意を示す。
「そ、そんなことはなかったと思います?」
そんな3人に、ユアは微妙に疑問形で答えた。
「久々に笑わせて貰ったお礼をしましょう」
ユアはそう言うと立ち上がった。
「皆さん、ディスプレイに興味があるようですし、これを使うのがちょうどいいですね」
そう言って祝福の泉の横のディスプレイの方に歩いていく。
「この板はディスプレイと言って、イロイロなものを映し出すものです。先程は巨人の民の過去の記録や連絡のやり取りの記録を映し出して調べていました。しかし、それだけではなくてこのような使い方もできます」
ユアは先程使っていたのと同じコードを首の後ろの金属部分に貼り付けた。
するとディスプレイが黒背景に白の文字だけの画面から切り替わった。
銀の髪をなびかせる女性が映し出される。
場所はわからない。背景は夜空で、小さな舞台の上に立っている。
「女の人?」
「きれいな人ですね」
「動いているわ。ただの絵じゃないみたい」
セスタ、ササリア、リナがそれぞれ口にする。
映っている女性が歌いだす。
「♫~」
澄んだ声がゆったりとしたテンポで歌う。
「これはサティオ様が祭の催し物で歌っているところの記録ですね」
ユアが説明する。
「すげー。まるで板の中に人がいるみたいだ」
「凄いです」
「これは、凄いわね」
3人は目を丸くしている。
「♪~♫~」
画面の中の女性が歌っている姿に3人は釘付けだ。
「このように、実際にあった事の記録なども映し出すことができるものです。他にも」
画面が切り替わる。
そして、セスタの姿が映し出された。
「アタイ?」
セスタが自分を指差す。
すると画面の中のセスタも自分を指差した。
画面がスライドし、今度はササリアが映し出される。
「私ですね」
ササリアの声に合わせて画面の中のササリアの口も動く。
再び画面がスライドし、リナが映し出される。
「今度は私ね」
そう言いながらリナはユアに向かって手を振る。
画面のリナは画面の正面を向き、手を振っていた。
「このように私の見ている光景を映し出すこともできますね」
ユアは少し得意そうに説明した。
そして、説明を終えると画面を最初の歌っている女性の動画に戻した。
「これってどういう仕組みで動いてるんだ?」
ディスプレイに夢中になっている3人から少し離れたユアに総士郎は質問する。
「ディスプレイは機械的な仕組みで動いてると思うんだが、巨人の民ってそれ程の科学力、技術力を持っているのか?」
総士郎は続けた。
「機械的な仕組みは、、、わかりませんがマテリアによって動いていますね」
「マテリア?」
「はい。マテリアです。巨人の民の持つ力の源でイロイロなものを作ったり維持したりできます」
総士郎の問いにユアはそう答えた。
「私自身の体も半分程がマテリアで構成されていて、それにより不死に近い寿命と人間にはない能力などを有しています。今はギリギリ体を維持できる程しかマテリアがありませんのでほとんど人間と同程度の能力しか使えませんが」
ユアはそう続けた。
マテリア
その物質はディスプレイのような機械的な仕組みどころか不死さえも実現する物質らしい。
しかし、それを使ってディスプレイが動いている、と言うのがよくわからない。
もう少し具体的な質問をする方がいいかもしれない。
「例えば、そのディスプレイを作る場合はどういうふうにマテリアを使うんだ?」
総士郎はユアに質問した。
「そうですね。巨人の民が体の中のマテリアに「ディスプレイを作りたい」と告げるとマテリアから必要な鉄や銅、金、ガラス、油などと消費するマテリアの量が提示されます。あとはそれらを用意した後にマテリアを消費して少し待てばマテリアの力によりディスプレイが作られます。私達がディスプレイの機械的な仕組みを知らなくてもマテリアがそれらを自動的に作ってくれます」
巨人の民はディスプレイを作れるような高度な科学技術を持っている訳ではない。しかし、マテリアの力を使えば作ることができる。
ある種のオーパーツを作る力を持っているようだ。
少し考える。
「もしかして、この地下迷宮もそうやって作られているのか?」
「はい。全てではないですが根幹の部分はそうですね。それにより2万年以上の長い時間、この地下迷宮や祝福の泉などは壊れたりすることなく存在しています」
疑問に思っていたのだ。
いくら魔法のある世界とはいえ、祝福の泉の給水器のような機械的な仕組みはいつかは壊れる。
それが壊れたり、水、お茶、祝福の水が出なくなったりしないのはなぜなのかと。
その答えがマテリアという、ある種の万能の力によって地下迷宮が維持されているということらしい。
さすが異世界。魔法や気以外も地球には存在しない事象が存在するらしい。
しかし、それほどの力を持っているならこの世界で巨人の民は一人勝ちになりそうな気がする。
「そんな力を持っているなら、人間と力の差がありすぎて争いにもならないんじゃないのか?」
「マテリアは確かに万能に近い力を持っています。しかし、マテリア自体を増やす事が難しく、多大な時間もかかります。それに巨人の民は22人しかいませんから他種族の大規模な軍隊などと合い対するのは難しいのです」
「なるほど」
ユアの説明に総士郎は頷いた。
無制限に何でもできる訳ではなく、マテリア自体の量や巨人の民の数によりその力は限られているようだ。
それ以外にも、銃を知らなかったようにマテリアで作れる物の種類にも限度がありそうだ。
「だいたいのことはわかった。けど、いいのか?けっこう重要なことを話していたように思うのだが?」
「巨人の民の決まりに「マテリアについて話してはいけない」などはないですから。他種族とこれだけの量のコミュニケーションをとった巨人の民は私が初めての可能性もありますけどね」
ユアはそう言ってディスプレイに映る人物へと視線を移した。
その表情はなにか悩んでいるような、少し曇った表情だった。




