メンテナンス・ツールと紅茶
「場所はあっているはずですが本当に塔が無いですね」
盛り上がった地面に下向きの穴が空いている地下迷宮の入口を見てユアは言う。
この地下迷宮は入口部分こそ石造りで補強されているが内部は天然に近い岩の洞窟だ。
総士郎にしてみれば本当にここに地上50階建ての塔が建っていたという方が信じられなかった。
しかし、巨人の民が別の世界に移住したのが1万年も前だとすると塔が無くなったのはそれより前、テラクタの街ができるよりも遥かに以前の出来事だ。
その痕跡すら残ってなくても不思議はない。
「中は天然の洞窟、に見えますがエンパイア・アントの作る巣の特徴があります。塔の地下部分を囲むように洞窟を作らせたようですね」
ユアが言った。
「エンパイア・アントですか?」
「ジャイアント・アントよりも強力で、万に近い巨大な群れを作るアント種の魔物ですね。作る巣はとても巨大な洞窟となります」
ササリアが疑問形で言うとユアが答えた。
「テラクタの街を作るときに強力なジャイアント・アントの群れを討伐した記録があったはずです。それのことかもしれません」
ササリアによるとテラクタの建設前に、戦争に近い規模の魔物の討伐戦があったとのことだった。
「そいつはもういないんだよな?」
セスタが少し不安そうに言った。
「そうですね。討伐以降はそのような魔物が出ると言う話はないはずです」
「エンパイア・アントがこの洞窟にいたら既に私達は襲われていますね。エンパイア・アントは縄張り意識も強く巣に近づくことさえ許しませんから」
ササリアとユアは答えた。
「それならよかった」
セスタは安心したように言った。
セスタは初めて地下迷宮に入るはずだ。
少し緊張しているのかもしれない。
「俺も地下2階までなら行ったことがあるし、ササリアもリナも地下5階までなら行ったことがあるらしい。地下5階以降はそれ程魔物も強くならないらしいし、そんな強力な魔物は今は出ないさ」
セスタを安心させるように総士郎はそう言ったのだった。
その後、地下迷宮へと入り、入口から30分程進んだ頃、
「何か来ます。たぶん魔物です」
ササリアが言う。
「ギッギギッ!」
中型犬程の大きさの鼠が4匹、総士郎の持つ灯りの範囲に入ったかと思うとこちらに向かって鳴き声を上げ、歯をむき出しにして威嚇してきた。
やはり、魔物は人間に対する殺意が高いようだ。
「セスタ」
「わかってる」
セスタは総士郎の声に答えると予め火を付けてあった火縄を火鋏みにセットし狙いをつける。
パンッ
炸裂音とともに鼠の1匹に穴があいた。
後ろ足の付け根の辺りに当たったようだ。
「キッキキキキーー!」
銃による射撃を受けた鼠は声を上げる。
すぐに倒れはしないが致命的なダメージを受けたように見える。
その1匹以外、残り3匹がこちらに向かって走ってくる。
「ナートトナ ミ、ラン、ロキ、ルー、ルー、ジク」
総士郎は「風の戦斧」を横向きに放つ。
走ってくる先頭の鼠が真っ二つになり、射線上に重なっていたもう1匹の胴にも大きな裂け目ができた。
最後の1匹がササリアに飛びかかる。
「ハッ!」
しかし、それもササリアのメイスの一振りが胴に直撃し吹っ飛ぶ。
胴が完全にひしゃげている。即死だ。
そして、胴に裂け目のできた1匹と銃による射撃を受けた1匹はまだ生きてはいるようだが既に動けないようだった。
「初めての実践で当てるのは凄いわね」
魔物がもう動かないことを確認するとリナがセスタの方を向いて言った。
「ああ、的が小さいから当たって良かったよ」
セスタは1つ大きく息をついて答えた。
「訓練でどんなに上達しても実践で実力を発揮できない人は少なくないわ。なかなかやるじゃない」
リナはセスタを褒める。
緊張をほぐし、自信をつけさせる意図があるのかもしれない。
「ありがとう。次もがんばるよ」
セスタは頬を掻きながら少し照れたように答えていた。
その次に遭遇した小型犬程の角の生えた兎には的が小さい上にすばしっこいため銃は当たらなかった。
少し落ち込んでいるセスタを皆で慰めた。
その次に遭遇した大型犬程の大きさの蟻はそのうちの1匹に命中し倒すことができた。
セスタは喜んでいた。
それらの魔物を撃退し、総士郎達は大きな問題もなく地下迷宮を進んで行く。
そして、最初の目的地、地下2階の祝福の泉の前までたどり着いたのだった。
「私が開けます」
そう言ってユアが金属の扉の横にあるパネルの前に立つ。
ピピピッ、ウィーーン
ユアがパネルに右手を当てると、前に聞いたのとは少し違う音がして扉が開いた。
「個人認証は通ったようですね。入りましょう」
ユアはそう言って部屋の中へと進んだ。
ササリア、リナ、セスタに総士郎もそれに続く。
ユアはそのまま入口から正面の壁に設置された祝福の泉と呼ばれる給水器の元まで歩いていく。
「メンテナンス・ツール・オープン」
祝福の泉の前でユアが言うとカチンッという音とともに祝福の泉の右横の壁に取手が現れた。
ユアがその取手を引く。
ガチャリ
少し大きな音をたてて、壁の1メートル四方程が開く。
「この部屋は何度となく、くまなく調べられているはずですがそんなところに扉があるなんて」
ササリアが言う。
その扉の中には黒い四角い板が入っていた。
そして、その板の下には金属パネルに幾つかのスイッチらしきボタンと四角い小さい穴がいくつかあいている。
「メンテナンスツールは動きそうですね」
ユアは黒い四角い板、ディスプレイパネルらしきものを覗きこんで言う。
ディスプレイには「サイクロプス・システム・バージョン・1.23」と表示されていた。
その文字は総士郎の知らない文字、この世界の人間の使う文字とは違うものだったが総士郎には読むことができた。
ユアがディスプレイの下のスイッチの1つを押すと、その部分が開きケーブルが現れる。
ユアはそれを引き出すと首の後ろの金属部分に貼り付けた。
それと同時にディスプレイに映っている文字がスクロールする。
ディスプレイのスクロール速度が速すぎて細かい部分までは読めなかったが「~~・システム・コネクト・ユア・ログイン・~~」と表示されるのがなんとか確認できた。
「ログが消されてますね。通信の記録もありません。消された日時もわからないですね」
ディスプレイの表示が高速でスクロールしているがユアはそれを見ている訳ではなく、首の後ろに張り付いたケーブルから直接情報を得ているようだった。
「現在の時刻は降臨暦23224年の10月3日ですか、、、。ササリアさんの情報は正しいみたいです」
ユアはそう言いながら難しい顔をする。
「地下5階と9階のシステムも生きているみたいですが、リモートでのコントロールは切られています、、、。やはり、地下5階、9階まで行かないとならないようですね」
そう言いながらユアはこちらに視線を向けた。
その顔色はあまりいいものではない。得られた情報はユアにとってあまり都合のいいものではなかったようだ。
「わかった。こっちは夜営の準備をしておくから、ユアはそっちを調べといてくれ」
ディスプレイの方に視線を戻し考え込むユアに総士郎は答えた。
ササリア、リナ、セスタはディスプレイに興味があるようだったがユアが真剣な顔でその前に立っているので遠巻きに見ているだけだ。
「そっちは後で見せてもらうとして、まずは祝福の泉のお茶を飲みましょ」
リナはそう言って総士郎が引き連れていた「浮く絨毯」に置かれた小さな木箱からティーカップとソーサーを取り出した。
ササリアも自分の麻袋から木製のコップを取り出す。
「それが噂に聞く、祝福の泉の凄く美味しいお茶か」
リナとササリアが給水器からお茶、無糖紅茶を汲んでいるのを見てセスタも自分の荷物から金属製のジョッキを取り出した。
そして、ジョッキに無糖紅茶を注ぐと一気に飲み干す。
「おぉ!これは美味いな」
「ですねー」
「そうね」
セスタの感想にササリアもリナも同意した。
「紅茶って香りはいいけど渋いだけで美味しくはない飲み物なのかと思ってたけど、これは全然違うんだな」
「そうね。本当は街で飲める紅茶も質が上がればもっと飲みやすくなるはずなんだけど、なかなか難しいのよねぇ」
もう一杯ジョッキに紅茶を注ぐセスタにリナが答える。
「そうですねー。それに、お高いですからなかなか買えませんしねー」
「それも栽培面積を増やせれば解決するのだけど、難しいのよねぇ」
ササリアの言葉にリナがため息をついた。
「銃の量産化ができれば、それも解決できるかもしれないぞ」
木のコップを荷物から取り出し給水器の方へ向かいながら総士郎が言う。
「そうなの?」
「ああ、銃の量産化ができれば魔物やワイバーンが驚異じゃなくなる。そうなればテラクタの外にも人が住める、ってことだからな。村なんかをテラクタの外に作れれば、その村の周り全てを農地にできる。結果、農地が大きく広がってお茶や果実なんかの生産を増やす余裕が出てくるはずだ」
総士郎も紅茶を味わいながらリナに説明する。
「テラクタの外に村を作れる、、、銃で魔物やワイバーンが簡単に狩れるようなるのはわかってたけど、そこまでは考えてなかったわ」
「魔物やワイバーンを掃討して、村を作って、畑を作って、道も整備して、、、形になるのには最低でも10年はかかるかもしれないけどな」
「それでも美味しいお茶が飲めるようになるならやる価値があるわ!銃を広める仕事にも俄然やる気が出るってものね!」
総士郎の説明にリナはやや興奮して答えた。
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