ネジリバネとセスタの提案
翌日、総士郎は地下迷宮行きのための準備を始めていた。
ユアとの地下迷宮に行くための条件の交渉、話し合いの結果、地下迷宮へ行くのは明後日からとなっている。
ササリアとリナは、まずは仕事を休むための手続きをしにそれぞれの職場へ向かった。
そして、総士郎はあるものを受け取るためにセスタの工房まで来ていた。
「ロウダン!いるかー?注文の品を受け取りに来たぞー」
セスタの父親、ロウダンの名を呼んで入り口の戸をノックする。
「おう!ソウシロウか!入ってくれ」
暫く待つと筋骨隆々で大柄な男、ロウダンが戸を開けてくれた。
「おう!ソウシロウ!おはよう!」
「ああ、おはよう」
中にいたセスタと挨拶を交わす。
「昨日はすまないな。寝ているアタイをおぶって送ってくれたんだろ?」
「気にしなくて、、、いや、気にして次からは酒は程々にしてくれればそれでいいぞ」
気にしなくていい、と言おうかと思ったがセスタも少々酒癖が悪いようなので後々を考えてやめておいた。
「あははは、ササリアの持ってきた酒が思ったより強くてな〜。次からは気を付けるよ」
セスタは気まずそうに頬をポリポリと掻きながら答えた。
「ああ、そうしてくれ。それなら約束通りにまた宴会を開くから」
「そうだな。次は酒はソコソコにして楽しむよ」
セスタは笑いながら言った。
「注文の品はできてるか?」
総士郎はロウダンに聞く。
「ああ、なんとかできているが、やはり難しいな。硬い、柔らかいじゃなくて元の形に戻ることを目的に鉄を打つのは始めてだったからな。コレでいいのかどうかは実際に見てもらわないとわからん」
ロウダンは総士郎の質問に少し困った顔をして答えた。
そして、曲がった2本の針金を見せる。
バネ、ネジリバネだ。
火縄銃の引き金と火鋏みの機構を実現するために、普段は針や釘を作成しているというロウダンに作成してもらっていたものだった。
実は、昨日のデモンストレーションの時点でそれらの仕組みは組み込まれている予定だったのだが、このネジリバネの作成が遅れていたために未実装のまま昨日のデモンストレーションは行われたのだった。
「今回のは良さそうだな」
総士郎はネジリバネを手で力を加えたり戻したりしながら言う。
「だといいけどな。柔らか過ぎれば変形して元の形に戻らない。固すぎれば折れやすい。丁度いい硬さの鉄ってのはなかなか苦労したぞ」
「悪いな無理な注文して」
「いや、なかなか良い経験になったし報酬もいいからな。そこは気にしないでくれ」
「ならいいけどな。上手くいくか試させてもらうぞ」
ソウシロウはそう言うと持って来ていた麻袋から試作品の火縄銃を取り出した。
ネジリバネ以外の部品は既に揃っていたので引き金の機構を組み立ていく。
「良さそうだな」
そう言いながら火鋏みを点火口から引き上げる。
カチッという音とともに火鋏みが上がった状態で固定された。
引き金を引く。
カチンッ
火鋏みが点火口に落ちる。
「上手く動いているな。引き金を引くのに必要な力も丁度いい」
もう一度、具合を確かめながら言った。
「なら良かった。頼まれていた予備、同じ部品もそこにある。持っていってくれ」
「ありがとう。代金はここに置いておくな」
総士郎は予備の部品を受け取り、その場に銀貨10枚を置いた。
「それが引き金って仕組みなのか?」
その様子を見ていたセスタが話しかけてきた。
「そうだな。火鋏みに火種を置けば一人で銃を撃てる仕組み、引き金の完成だな」
「へー、試してみていいか?」
「ああ、いいぞ」
総士郎はそう言って銃をセスタに渡す。
カチッ、カチンッ。
セスタは銃を構え、引き金の仕組みを試した。
「なるほど、これなら一人で銃を撃てるようになるな」
カチッ、カチンッ。
「これで試作品は完成か?」
セスタはもう一度、引き金を試しながら言った。
「ああ。これで試作品の銃は完成だな」
「でも、これだと点火口と火鋏みが銃の上にあって、狙いをつけるのにジャマじゃないか?」
セスタは銃の試作品を試しながら言う。
そう。第一号の試作品は銃の真上に点火口が付いており、そこに直接、着火する構造になっている。
そのため火鋏みを取り付けると狙いをつける時の邪魔になるようになっているのだった。
「を、気が付いたか。そこで次の試作品は点火口が銃の横にくるように改良してある。その銃身の注文もあって、今日は来たんだ」
そう言って総士郎は背負っていたリュックサックから図面を取り出す。
「こっちが完成の予想図でこっちが次にセスタに作って欲しい銃身の図面だ。点火口が右横にくるようになってて、そこに火鋏みを受ける皿を付けて欲しい。あと、次の試作品では銃身は貫通式になってる。そして、その部分に回転の蓋の機構が必要になってる」
総士郎は図面を見せながらセスタに次の試作品についての細かい説明をしていった。
特にネジ山の部分は念入りに打ち合わせを行う。
「なんとかやってみるよ」
やはり、難しい部分はあるようだがセスタは前向きに取り組んでくれるようだった。
「地下迷宮行きには間に合ったな」
セスタとの打ち合わせも終わり、銃を仕舞いながら総士郎が言った。
「ソウシロウはまた地下迷宮に行くのか?」
「ああ、ちょっと用事ができてな。今度はかなり深い階層、できれば地下9階の祝福の泉まで行く予定だ」
「地下9階か、、、」
セスタは少し考え込むような様子だ。
「それ、アタイを連れて行くことってできないか?」
そして、そう言った。
「はい?なぜセスタが地下迷宮に行きたがるんだ?」
総士郎は驚いてそう返す。
「地下迷宮の深くにあるらしい特殊な金属が欲しいんだ」
「特殊な金属?」
「1つはジャイアント・アントの1種から採れるらしい白色の鉄。あと、タングステンが採れる場所があるらしい」
「タングステン?タングステンが地下迷宮で採れるのか?」
白色の鉄はどういう物かわからなかったが、タングステンは総士郎も知っていた。
タングステンは鉄を切削する超高硬度の工具に使われる素材だ。
もちろん、銃を作るのにも役に立つ。
次に作る銃の試作品に導入するネジを切削るのにできれば欲しい素材だ。
「ああ。それ以外にも地下9階ではイロイロな金属が採れるらしい。その目利きにも役立つはずだ。連れて行ってくれないか?」
「うーん?俺、ササリア、リナがいれば、地下9階までの到達は問題ない、って話だが危険がない訳じゃないぞ」
「わかってる。多少の危険があってもその2つを入手したいんだ。それにそのメンバーなら銃を撃つ人がいないんじゃないか?」
危険があるのを警告する総士郎にセスタはそう提案した。
金属の目利きと砲手か。
昨日の話し合いではユアは槍が使えるということだったが、前衛のササリアとリナは外せないのでユアに砲手を任せようかと思っていた。
もちろん総士郎は後衛で魔物が前衛に到達するまでに数を減らすのが役割だ。
しかし、もう一人加わり遠距離で攻撃できる砲手を任せられれば魔物が前衛に到達する前にさらにもう一匹、魔物を少なくすることができる。
悪くはないと思う。
しかし、他の者と違ってセスタは本来は戦闘要員ではないはずだ。
「まずはロウダンが許可すればだな。あとはササリアとリナと相談、かなぁ?」
「ぐえ、親父の許可か。それは少し難しいか?うーん、、、」
セスタは出した条件に首を捻る。
やはりロウダンの許可をとるのは難しいらしい。
セスタは暫く悩んでいたが、
「そうだ!それならこの条件ならどうだ?この条件なら親父も納得するかもしれない」
と総士郎に新たな提案をするのだった。
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