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巨人の民と置いてけぼり

フサァッ


ユアが広げた黒髪がゆっくりとその背中に戻っていく。


・・・


「冗談です。巨人ジョークと言うヤツですね」


冷たい風がユアとこちら3人の間に流れた気がした。


「こほんっ」


その空気にユアがわざとらしい咳払いをする。


「まずは、ごちそうさまでした。そちらの高位の魔法使いの方が魔力を供給してくれたおかげでセーフモードで起動するだけのエネルギーを補う事ができました」


先程の何かが指先に集まるような感覚を思い出す。


そして、自分の体に意識を向けると微妙な倦怠感と腹の奥に僅かな違和感がある気がする。


「魔力を吸われた?」


魔法を使ったあとのような感覚に総士郎は疑問形で呟いた。


「はい。あなたはかなりの魔力の容量をお持ちでしたので少々拝借させていただきました」


「許可した覚えはないはずよ」


ユアの言葉にリナが答える。


「すいません。この恩はいずれお返ししますので」


ユアは余裕のある表情でそう言った。


「あなた、何者?」


リナは警戒を解かないままユアを睨み、言う。


「先程言った通り、私は銀の男神おがみ様の使徒。銀の槍のユア。そうですね。人間にわかりやすく言うと金と銀と鋼の人、巨人の民の高貴なる者の一人、ですね」


ユアはそう言いながらベッドから降りようと足を下ろした。


「動かないで下さい」


いつの間にかこの部屋に置いてあった総士郎のメイスを構えたササリアが言う。


「白の戦士2人に高位の魔法使いが相手では今の私の勝率は5%以下です。今、戦闘を行うことはありません。武器を下ろしてください」


ユアはベッドに腰掛けたまま動かずに言った。


「なぜソウシロウさんを襲ったんですか?」


「そこの高位魔法使いは異世界からの反応がありました。先程はエヌブイモードで起動していたのでその対象の排除が優先された為です」


「エヌブイモード?」


「はい。戦闘用の外敵を排除することを優先するモードです」


ササリアの問いにユアは何でもないように答えた。


「繰り返しますが今はこちらから戦闘を行うことはありません」


「勝てないから戦わない、なんてのは信用ならないわ。隙ができるのを待っているか、何かの準備が整うのを待ってるだけかもしれないもの」


「ソウシロウさん、銀の男神と巨人の民はかつて女神様と人間に敵対していました。油断しないでください」


ユアは両手を軽く上げ害意はないと主張するがリナとササリアは警戒を緩めない。


二人は総士郎を庇うように立ち、片方は徒手空拳で、片方はメイスを両手で中段に構えている。


しかし、総士郎は別のことが気になった。


「かつて?「かつて」ってことは今は敵対していないんじゃないのか?」


その問いにササリアは視線だけを総士郎に向ける。


「いえ、女神様と銀の男神は敵対しているはずです。しかし、1万年程前に銀の男神と巨人の民の全ては蒼の扉へと旅立ち、この世界から消えてしまったのです。そのために争いは起こっていないだけです」


「なるほど」


ササリアの答えに総士郎は頷いた。


そして、しばらく双方が動けずに僅かな間、静寂が続く。


・・・


「えっ?今、なんて言いました?」


しかし、ユアがそれを破り驚いたように言う。


「巨人の民と人間は敵対していると言ったのです」


ササリアは僅かに怒気を孕んだような声で返した。


「いえ、そちらではなくて1万年前に何があったと言いました?」


ユアは聞き返す。


「銀の男神と巨人の民は女神様と人間と敵対していましたが1万年程前には蒼の扉へと旅立ち、この世界から全て消えてしまった。そのため争いは起こっていない。と言ったのです」


ササリアの答えにユアが固まった。


「え?、、、それは本当ですか?」


「はい、そのように伝わっています」


驚きの表情を隠さないユアにササリアは少し戸惑いながら答えた。


「システム・クロックもウォッチ・ドック・タイマもエラーが出たままですから現在の時刻はわかりません。でも、まさか、、、」


ユアは固まったまま、なにか独り言を呟いている。


「確かにヴァニライから受けたダメージで修復モードに入っていたので長い時間が経っている可能性はあります。しかし、1万年以上も、、、」


そして、絞り出すようにササリアに訪ねる。


「ぇえと、すいません。今は降臨暦何年でしょうか?」


その問いにササリアは怪訝そうな顔をした。


「降臨暦?六神の使徒の天孫降臨からの年月ですか?正確には調べないとわかりませんが2万3千年ほど前だったはずです」


「2万?3千?それは、確か、ですか?」


問いかけるユアの口調は途切れ途切れだ。


「はい」


ササリアは首肯する。


「少し失礼します」


ユアはそう言うとベッドから降り、部屋の窓にはめてある木の板を外した。そして、身を乗り出して外、星の広がる夜空をじっと見る。


「星の位置がおかしいです。それに重力にも無視できない誤差が生じています」


ユアは夜空を見上げながら何事かを呟いている。


「私が緊急スリープに入ったのが5051年だったはずです。それから8千年ほどで方舟計画のエヌエフが達成され水星移住を成し遂げた、と言うことでしょうか?そんな、まさか、まさか、、、?」


ユアは星空を見上げながら壊れたように「まさか」を繰り返す。


リナ、ササリア、総士郎はユアのおかしな様子に顔を突き合わせるが皆、何が起こっているのかわからないという表情だ。


・・・


ユアだけが「まさか」を繰り返す暫くの時間ののちに、リナが何かに気が付いたように手をポンと叩いた。


「もしかして、アンタ、銀の男神に置いていかれた、とか?」


「まさか」を繰り返すユアはリナの言葉にビクッと身をすくめた。


「まさか、まさか、、、そんな、、、ねぇ?」


ギギギッと音がしそうな仕草でこちらを振り向いたユアの瞳は何かにすがるように揺れている。その顔色はとても悪いように見えた。


「どういうことでしょうか?」


小声でササリアが言う。


「1万年前に男神と巨人の一族は別の世界?に移住したんだと思うわ。それで、このユア、は置いてけぼりをくったみたいよ」


リナが答えた。


「なるほど」


ササリアは可愛そうなものを見るような眼差しをユアに向けた。


それにつられるように総士郎とリナもユアに視線を移す。


ユアの瞳は今にも泣き出しそうな程に潤んでいるように見えた。


「でも、巨人の民ってそんなに長生きなの?」


リナはササリアの方を向いて言う。


ユアへの警戒は大分薄れてしまっているようだ。


「はい、何でも巨人の民は銀の男神の血縁に近しい者達の少数の集まりで、神に近しい存在のため寿命はとてもとても長かった、もしくは無かったと言われています」


「それはすごいわね」


リナの問いにササリアが答えた。



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