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ロシェとステンドグラス

教会の正面の立派なドアから中に入る。


「ガラスがあるな」


教会の窓には1辺が10センチ程の四角い板ガラスを金属のリムで繋ぎ合わせたガラスの窓が使われていた。


「そうですね。板ガラスは大変貴重ですし、教会と一部の官舎にだけに使われています。ここの大聖堂のステンドグラスは一見の価値のある立派なものですよ」


「ステンドグラスもあるのか」


「はい、あとで見に行きましょうか」


話しながら入り口の左手にあった受付のようなものに向かう。


「ササリア・アルカアルカです。ロシェ様に合う約束で来ました。こちらはロシェ様のお客様のソウシロウ・セキさん、です」


「わかりました。教会本部内ではソウシロウ様はこちらを首から下げてください」


受付の女性から紐の通された木の札を受け取る。ゲストパスのようなものだろう。


紐に首を通し木の札が見えるように首から下げた。外来客と書かれていた。


「部外者だと2階にはこれがないと入れません。気をつけてくださいね」


「わかった」


ササリアの説明に頷いた。


通路を進み、奥の階段を上がる。


1階はローブを着てない一般の人も含め人が多かったが、2階には人が少ない。そして、2階でローブを着ていないのは総士郎だけのようだ。


教会のローブを着た人と会釈しながらすれ違う。


どことなくだが授業中の学校の廊下のような雰囲気かもしれない。


ササリアは一室の前で立ち止まると扉をノックする。


「ササリアです」


「どうぞ入ってください」


中からの声にササリアが扉を開け、先導する形で入室した。


中に入るとロシェが奥の机から立ってこちらを向いていた。


「よく来てくださいました。改めて、自己紹介しますね。私はロシェ・カルルー。この教会の牧師長をしています」


「総士郎・関です。ササリアさんにお世話になって、いろいろと勉強させて頂いています」


総士郎も丁寧に自己紹介を返した。


「そこにお座りください」


部屋の中の手前側に設置されたソファへとうながされる。


「ありがとうございます」


総士郎は礼を言って座った。その隣にササリアが座り、向かいのソファにロシェが座った。


「少し堅いですね。もう少し崩しても構いませんよ」


「わかった。ありがとう」


慇懃な態度を崩し、礼を言った。


それを見て、ロシェは微笑む。


「まずはお礼からですね。祝福の水、ありがとうございました。おかげさまで1年分以上の、十分な量の緑の砂糖が確保できそうです。本当にありがとうございます」


「それはササリアにも言ってやってくれ。ササリアと一緒にやったことだ」


「そうですね。ササリアもありがとうございました」


ロシェはササリアの方にも頭を下げた。


「ロ、ロシェ様、私に頭を下げないでください。私は教会の者として当然のことをしたまでです」


「それでもですよ。今回だけでなく、いつも祝福の水を汲みに行ってもらっていましたし、感謝の気持ちをきちんと伝えなければならないと思っていましたから。それに感謝の気持ちをきちんと受け取ることも牧師としては大切なことですよ」


「は、はい。わかりました」


ササリアは少し恐縮したように、でも嬉しそうにしている。


その様子にロシェも満足そうに頷いていた。


そして、総士郎に向き治る。


「ソウシロウさんには何かお礼をしたいのですが何かありますか?金銭でのお礼は多くはできませんけれど」


と、ロシュが申し出た。


「シェンについての情報が欲しい。訳があって放棄された首都、シェンのことを調べているんだ」


総士郎はロシェに言う。


本当に知りたいこととは少し違うが、情報としてたずねやすいところから埋めていくことにした。


「情報?シェンに付いてですか?具体的にどのようなことでしょう?」


「まずは30年前にシェン、と、この街を襲った疫病に付いて教えて欲しい。ササリアは生まれる前のことであまり詳しくないみたいなんだ」


「30年前のことですか、、、。まず、どんな病が流行ったかはご存知ですか?」


「ササリアからは黒死病が流行したと聞いた」


黒死病、ペストのことだ。手足が黒くなり壊死してしまう症状から黒死病と呼ばれている。


「まずは、その原因だな。法律には「できる限り清潔を保つこと」というのがある。清潔にしていれば黒死病は流行りにくいはずだ」


総士郎はササリアからは得られなかった情報を求める。


「そうですね。清潔を保つことができれば黒死病の流行は避けられたかもしれません。しかし、人口が減少していたシェンは、その都市機能の維持が困難になっていました。そして、ついに下水機能の維持ができなくなり都市が不衛生化、黒死病が蔓延したのです」


「不衛生化が原因?この街でも黒死病が流行したと聞いたんだが、、、」


「シェンを完全に放棄する前にもいくらかの難民がこの街に入って来ていました。なので、そこからの感染の拡大だと考えられています」


「なるほど」


少し考える。


「いくらかの難民から感染が拡大したのに、最終的に5000の難民も受け入れたのか?」


「それは、、、」


ロシェは少し言い淀む。しかし、話を続けた。


「実は5000の難民を軍によって殲滅する案もありました。しかし、私達、教会の働きかけなどによってそれはなんとか回避されたのです」


「そんなことがあったんですか?」


ササリアは驚いたように言う。


「そうですね。今ではあまり積極的に語られませんがシェンからの難民を受け入れるまでにはいろいろなことがあったのです」


ロシェはため息をひとつつくと話を続けた。


「そして、テラクタにたどり着いた難民も当初は街の中には受け入れられず、城塞の外の北側に簡単な小屋やテントを建てる形で暮らしていました。教会はその支援に奔走しました。結局、その生活は1年近く続き、黒死病が完全に落ち着いた後にテラクタの街の中に受け入れられたのです」


「そんな話、初めて聞きました」


話を聞いたササリアはショックを受けているようだった。


「先程も言った通り、今ではあまり語られない事実ですね」


もともとテラクタに住んでいる人からすれば良心の呵責のようなものがあり、入ってきた難民からすれば最終的には受け入れてもらったので一応の恩がある。そのはざまで語られにくい話になってしまったのかもしれない。




「ふむ、なるほど」


しかし、総士郎の知りたいこととは少し違っていた。少々重苦しい雰囲気だが話を続けることにする。


「最初にシェンについて「人口が減少していた」と言っていたがその原因はわかるか?」


「首都シェンでは水化すいかの病が恒常的に流行していました。それが原因だと思われていますね。シェンではテラクタよりもかなり高い発症率で水化の病が発症していたようです」


「水化の病?水化の病なら緑の砂糖で抑えられるんじゃないのか?シェンの近くにもダンジョン、祝福の泉があると聞いたが?」


「そうですね。シェンの近くにもダンジョンがあります。しかし、近くとは言ってもテラクタよりは遠く、歩いて1日程の距離にあるようです。シェンではそのダンジョンから祝福の水を得ていましたが、祝福の水はその運搬の手間からあまり多くは持ち帰れません。さらに、ワイバーンの大量発生がダンジョンの近くで起こり、それが困難に拍車をかけたようです」


「ワイバーンか、、、」


「ワイバーンは魔物ではありませんが人を襲います。そして、大変に討伐の難しい竜種です。対策は取ろうとしたようですが、どれも上手くは行かず、緑の砂糖の入手が困難になり、人口が減少する事態に追い込まれたようです。そして、その状態が100年以上続いたようです」


「100年も、、、」


「そうです。その間にもシェンからの移民は発生していましたが、それも、各地でワイバーンが増えたことで困難になっていきました。シェンからテラクタまでの途中にある深緑の丘でもワイバーンが増え、シェンの放棄より前、40年程前からはほとんど交易も行えない状態になっていました」


ワイバーンの大量発生か。こちらの情報が当たりだったようだ。


「なるほど。これでシェンの放棄の経緯いきさつについてだいたい理解できた。ありがとう」


総士郎は頭を下げた。


「いえ、私の知識が若い人の役に立つのならそれは喜ばしいことです」


ロシェも総士郎に向けて頭を下げた。




「では、今度は私から質問してもよろしいかしら?」


ロシェが言った。


ロシェは総士郎が普通ではありえない程の魔法の適正を持っていることに気がついている。総士郎が女神に召喚された勇者であることも、もう疑っているかもしれない。


「どうぞ」


総士郎は緊張して答えた。


「ソウシロウさんはササリアのような落ち着いた女の子とリナさんのように可愛いらしい女の子、どちらが好みなのかしら?」



・・


・・・


「ロ、ロシェ様!?」


総士郎が質問の意味を理解できないでいると、ササリアが声をあげた。


「噂によるとリナさんとも仲良くしてるらしいじゃないですか。何でも馬に一緒に乗って、しかも、抱きついていたって話を聞きました」


「え?」


ササリアがこちらを見る。


「あ、あれはリナに無理やり馬に乗せられて仕方なく、です。乗馬は初めてだったので」


その視線に総士郎はなぜか焦って釈明する形になる。


「性格もスタイルも違いますけど、二人ともいい子ですよ。それに、性格は違いますけど、どちらも好きな人には尽くすタイプですね。で、どちらが好みなのかしら?」


ロシェは追求を続けてくる。


「ロシェ様!」


「だって、ねぇ?二人ともあんまり男性には縁がない感じだったのに急に親密っぽい人が現れて、しかもそれが同じ人なんて気になるじゃないですか」


ロシェは大変楽しそうだ。


「ノーコメントで」


総士郎は、結局、なんとかそう絞り出したのだった。


その答えにロシェは大変不満そうにしていた。




その後、ロシェから「情報が必要なのでしたら、資料室へ入室できるように手配しましょう」と言われた。


総士郎が教会本部の資料室に入れるように特別な通行証を作ってくれるらしい。


この世界の情報。それは今の総士郎には並の金銭以上に価値のあるものだ。


総士郎はその申し出を喜んで受けることにした。


「また、何かありましたら気軽に来てくださいね。恋の相談とかでも大歓迎ですよ」


と、見送られロシェの部屋から退出した。




その後、1階の教会本部の聖堂をササリアと見学する。


聖堂には大きな白い女神像が正面に置かれている。本来ならば視線を集めるだけの価値のあるものなのだろうが、その後の左右に配置されている立派なステンドグラスの存在感に完全に負けていた。


右手には両腕を広げて大きな月と3つの太陽に向かう女神が描かれている。


左手は縦長のステンドグラスを4コマ漫画のように4つにコマ割りしてあり、それぞれのコマに赤い布を肩にかけた聖人が描かれていた。


「このステンドグラスは600年程前に作られたものなので女神様と、4人目までの勇者様が聖人として描かれています」


ササリアが立派なステンドグラスを前に説明をしてくれた。



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