酒と腕十字
テラクタの城塞の真西の門を通って街の中へと入る。
「失敗、してしまったんでしょうか?」
ササリアは呟くように言う。
「まぁ、隠し通すのもなかなか難しいしな。それに、あのロシェ様は特別に鋭い人間な気もする」
総士郎はそれほど心配していないように言った。
「私を責めないんですか?」
「いろいろリスクがあるのはわかってて引き受けたしなぁ。リキア先輩?が来るよりは結果的には良かったのだろうし。ロシェ様って優秀なんだろ?なら任せとけばそれほど心配はないだろ」
「でも、私の見通しは甘かったです。リキア先輩には夜に荷物を取りに来るように頼みましたが、ロシェ様と同じように私を出迎えに来てくれた可能性もあります。そうしたら、やはり浮く絨毯や灯りの魔法は見られてしまいます」
「でも、大ムカデの殻を欲張って回収したのは、お、俺だし。祝福の水も含めてセーブして素材なんかを回収するのもなんか違う気がする。それに「教会として」恩を受けたと言っていた。教会自体に貸しができたと考えるならそれほど悪くはないよ」
総士郎としてはある程度のリスクは承知の上でササリアの頼みを受け入れたのだ。
その結果としては想定内な気がする。地下迷宮内で起こった想定外のピンチとは違う。なので反省すべき点はあまりない。
「でも、ロシェ様はいろいろ怪しんでいるようでした。ソウシロウさんはどうされるつもりですか?」
しかし、ササリアは違うようだ。
ササリアは自分の頼みのせいで総士郎に迷惑がかかると思っているのかもしれない。
「ササリアが信用してる人なんだろ?協力者としては適任じゃないか?」
「協力者ですか?」
「ああ、例の件、もあるし30年前のこととかにも詳しい協力者が欲しいと思っていたんだ。ササリアは博識な方だと思うが、昔の話、生まれる前の話とかはあんまり詳しくはないだろ?ロシェ様はそこら辺も詳しそうだし」
「なるほど、、、ロシェ様を協力者にですか、、、」
「だから、ササリアは、俺、がロシェ様に信用されるようにしてくれれば、それでいいと思うんだけど」
・・・
「わかりました。そうなるように頑張ってみますね」
少し考えてササリアはなんとか納得したようだった。
西門前で外周通りを周回している駅馬車の停車場に並んだ。
外周通りにある教会へ帰るなら駅馬車を使う方が楽だ。
幌のない馬車にベンチを取り付けただけのものだが座ってても徒歩の倍の速度で移動できる。
銅貨4枚と少しだけ高いが、丸めた絨毯やバケツ、夜明かし用の道具など荷物も多いので利用することにする。
ちなみに総士郎とササリアのメイスは麻袋にしまってある。海畑でならともかく夕食の買い物の時間帯に、街中で武器丸出しは目立ちすぎる。
「えーと、それと気になってるのですが、どうして「俺」なんです?ソウシロウさんは自分のことを「私」と言っていたはずですけど」
「あー、そこに突っ込むのか、、、ロシェ様と話して「私」は違和感あると思って変えたんだけど変か?」
「変ではありませんし、そっちのほうが自然な気はします、けど」
「んじゃ、とりあえず、これからは「俺」でいくから」
「はぁ」
そう言う総士郎にササリアは微妙に微妙な顔をしていた。
駅馬車を使ったが帰宅する頃には日が暮れていた。
「ただいま帰りましたー」
ササリアが鍵のない教会の離れの扉を開ける。
「遅いじゃない。夜になっちゃったわ」
中にはなぜかゴスロリツインドリル、リナがいた。
「リナさん、来てたんですね」
「今日は久々に休みだったからね。夕方前に来たのよ。そしたらササリアもソウシロウもいないじゃない」
「すいません。今日は用事で出かけていたので」
「その格好は西の地下迷宮に行ってたの?」
「はい、教会の依頼で」
「いつもの水汲みね。昨日も休みなら私も付き合ったのに」
「リナさんはお忙しいですから仕方がないです」
「そうなのよねぇ。海畑がなくてもその分、訓練やお金の計算の仕事を片付けなきゃいけなくて大変なのよ」
昨日、今日、明日は海畑での漁は行われない。
理由は簡単で満潮時刻が日の出ているうちの朝方、昼、夕方にあり海畑が潮の満ちた海になるからだ。
この世界の大きな月はこの星を7日かけて一周する。そこにこの星の自転が加わるので満潮は7日間で6回起こることになる。
つまり、潮の満ち引きの時間が毎日大きく変化するのだ。
その結果、4日間は満潮時刻が夜にある。そのため海畑での漁には日の出ているうちに出られる。
しかし、その後の3日間は満潮時刻が昼間にあるため漁は行われない。
そして、その周期、7日間をひと月とするため、週が存在しなかった。
「と、いうわけで、休みの日ぐらい飲むわよ!」
リナは、ドン、と音をさせてテーブルに大きな素焼きの徳利を置いた。
「どうしてこうなった、、、」
総士郎の右手のササリアが徳利から総士郎のコップに酒、ぶどう酒を注ごうとする。それを手で防ぐ。
「ソ〜ウシロウさ〜ん、私のお酒が飲めないんですか〜。な〜んちゃって、にゃはははは」
ササリアは何がおかしいのか笑っている。
左手ではリナが総士郎の手首を掴んでなにやら力説していた。
「でね、最近はお茶の質もさらに落ちてきてて、街の喫茶店も困ってるのよ。なんとかしたいんだけど綿花の生産も足りてなくて、そっちの方が要望が多くてお茶の生産量は増やせなくてね、、、」
なにやらこの街のお茶の生産量が減って質も落ちている。と、いう話らしい。
「はー、なるほどねー」
適当に相槌をうつ。
「ソウシロウさ〜ん、食べてますか〜?はい、あ~ん。」
ササリアがあさりの酒蒸しを唇に押し付ける。
「うぷ、わかった食べるから」
ササリアに押し付けられたあさりを食べた。味はおいしい。
「は〜い、いい子ですね〜。にゃははは」
ササリアは総士郎の頭を撫でながらおかしそうに笑っている。
「茶器も昔はシェンから良いものが入って来てたらしいんだけど、今はこの街で作れる素焼きのものしかなくなってて、、、」
リナの方は今度は茶器の話らしい。こっちは適当に相槌を打っておけば害はなさそうだ。
「ちゃんと聞いてる?」
と、思ってたらリナに腕を引っ張られる。
「聞いてる。聞いてるから」
「ホントに聞いてる?ならシェンから入って来てた茶葉の銘柄はなに?」
「うえ?そんなこと言ってたっけ?」
「なに?答えられないの?」
「ちょっと待って!考えるから!」
リナから不穏な雰囲気を感じて考えるがそんな話をしてたかすら思い出せない。総士郎も二人ほどではないが酒がまわっていた。
「こ、た、え、られないなら、こうだー」
シュバッ
掴んでた左腕が引っ張られたと思うと、リナの足が首と胸に掛かり、腕にしがみつく形で取り付いている。
飛び付き腕十字だ。
「ちょ、危ない!危ないから!」
リナが軽いのでなんとか持ちこたえているが、リナを頭から床に落としてしまったら普通に危ない。
「でたー!リナさんの飛び付き腕十字だ〜。にゃはははは。ソ〜シロウさ〜ん、こういう時はちゃんと技を受けてあげないと危ないですよ〜」
ササリアはリナを床に下ろすように、総士郎の腕を誘導する。
「えいっ」
そして、そのまま総士郎を床に押し倒した。
「ソウシロウさん、、、私、、、わたし」
「えっ?」
総士郎を押し倒したササリアの顔が近い。
なに?この雰囲気?左腕にはリナがくっついてるのに?
「、、、私はこっちの腕をもらった〜」
総士郎が驚いていると、ササリアはリナが取り付いているのと逆、右腕に取り付き左腕と同じように腕十字を掛けてきた。
「痛い!?なんか柔らかいけど、普通に痛い!」
「なに?私のは胸がないから痛くないっての?えい」
飛びついた後はあまり腕を締めあげていなかったリナが意味不明なことを言いながら腕を締めあげた。
「ぎゃー、こっちも痛い!」
「にはははは」
「えい、えい」
「たんま!二人ともたんま!って、両腕掴まれててタップもできねー!」
総士郎は叫ぶ。
こうしてカオスな夜は更けていくのだった、、、。




