二足歩行と硬革の鎧
「ハッ!」
ササリアのメイスの一閃に白い人形はバラバラになって吹っ飛んだ。
「ナートトナ ミ、ラン、ロキ、ルー、ルー、ジク」
ササリアから少し離れた一体に「風の戦斧」を放つ。
肩から胸の辺りまでをザックリと切られもう一体の白い人形も崩れ落ちた。
それが白い人形、スケルトンの最後の一体だった。
「ジク級でちょうどいいな。それと手の平を傾けて「風の戦斧」がナナメになるように放つ方が狙いやすいし胴体を破壊しやすい」
総士郎はそう言いながら崩れ落ちたスケルトンを見下ろす。
スケルトンは白い砂のように崩れていく。そして、そこに赤い小さな宝石が半分埋もれた状態で輝いていた。
カーバンクルと呼ばれる宝石、魔石だ。
小指の先程の小さな魔石を摘む。
この魔石が額に付いたモノを魔物と呼び、それらは人と敵対する存在らしい。
実際、魔石が付いた幾つかの魔物と戦闘をしたがどれもこちらを見ると即座に襲いかかってきた。
中型犬程の大きさの鼠、大型犬程の大きさの蟻、そして、今回のスケルトン。どれもこちらへの殺意が高かった。
明らかにあちら側が不利な状況に追い込んでも逃げることはせずに向かってくるのだ。
しかし、ここまでの道のりではササリアのメイスの一撃で行動不能にならない魔物はいなかったし、魔法の一撃でもそれは同じだった。
それに数も最大で5体だ。接近される前に2、3体を魔法で倒し、あとはササリアが前面に出て接近戦で叩く。その段階でササリアに取り付いていない魔物がいれば総士郎も魔法を放つ。
そんな感じでここまで総士郎とササリア、二人とも無傷で来られていた。
「それにしてもスケルトンか」
骨に見える本体は本物の人の骨ではなく白い軽石のようなものでできているようだ。また、骨と骨の間の関節部分は白い砂のようなものが覆っている構造になっていた。
それが二足歩行し、敵を認識して襲いかかって来るのである。
・・・
現代日本の知識をもって考えれば、スケルトンが二足歩行する段階で高度な姿勢制御機構を持っていると気づく。
そして、今回、4体と戦闘をしたが互いにぶつかったりもせず、むしろ統率が取れたような、ササリアに対して一対多になるような位置取りをしようとしているようにも見えた。
さらに、武器として剣に似せた形の白い棒も振るっていたし、それで体のバランスを崩すことも無かった。
ササリアの攻撃に対しても持っている棒で受け止めるような動きもしていた。その防御ごとササリアのメイスに粉砕されたが。
拾った魔石を見つめる。
鼠、蟻はどうだっただろうか?
生物が集団を作れば自然と狩る相手を取り囲むように動く気がする。攻撃や防御でも特別に高度な行動をしていたかは判断が難しい。
しかし、スケルトンは明らかに無生物である。にも関わらず高度な制御、判断などを行っていた。
摘んだ魔石を目の前でじっくりと見つめる。赤い宝石は表面は透明に見えるが内部は濃い赤色に濁っているようだ。
白い砂へと崩れたスケルトンに制御機構が入っているとすればこの魔石に組み込まれている可能性が高いように思える。
しかし、今は確かめる術も無い。
「疲れましたか?」
じっと魔石を見つめる総士郎にササリアが声をかけた。
「いや、スケルトンってどうやって動いているのかな、と思って」
「スケルトンがですか?他の魔物と同じではないのですか?」
「鼠、蟻は生物だけどスケルトンは違うだろ。スケルトンは何を食べてるのか?とか」
「生物、、、ですか?確かにスケルトンが何を食べるのかは知らないですねぇ。でも、魔石は魔法の力を持っていますし、私の知らないところで何か食べているのかもしれません」
ササリアが答えた。
・・・うーん??
これまで総士郎との問答にもそれなりに理知的な答えを返してくれたササリアだが、今回は話の的をかすってもいなかった。
しかし、これがこの世界の一般的な考え方なのだろう。
だが、総士郎はこの仕組みを解明できれば現代日本よりも優れた自動化技術を作ることができるかもしれない事を知っている。
ファンタジー世界でならゴーレムとかに当たるだろうか?アレもあっさりと二足歩行したり、言語での命令が認識できたりするものが多い。
それを、もしも、製造、さらに量産ができれば、それこそ産業革命なんて比ではない大事なはずだ。
しかし、実際に解析できるかもわからないし、できるとしても、その為にはもっと魔法について知る必要もある。
いろいろな実験をするだけでももっとずっと後のことになるだろう。
「それにしても魔法ってよくわからないな」
呟く。
昨日、この世界の魔法は高度な制御や判断の機構を組み込むのは難しいのではないかと思ったが、それは1日で覆されてしまった。
そもそもよくわからないから魔法と言われればそのとおりだが、そこに法則性や仕組みが無いとは思えない。
もし、本当に法則性や仕組みがないなら、それこそスケルトンはそれぞれが独自の動きを統率なく行うはずだ。
うーん?
今考えても仕方がない事のような気もする。
とりあえず、今は一つの油断や気の緩みが本当の意味で命取りになりかねないダンジョンの内部だ。この件は保留にしよう。
そう考えながらすぐ後ろに付いてくる絨毯に乗せられた袋の1つに魔石を仕舞った。
「少し休憩しましょうか」
それから少し進んだところの出入り口が一つしかない直径20メートル程のほぼ円形の部屋でササリアが言った。
この部屋なら出入り口とは反対側の壁のそばで、出入り口を見張りながら休憩することができる。
出入り口から魔物が来ても接近されるまでに戦闘態勢を整えることができるはずだ。
西の地下迷宮と呼ばれるダンジョンに入って2時間くらいだろうか?戦闘ごとに水を口に含んではいたが本格的な休憩は初めてだ。
先程の総士郎の様子を見てササリアは休息をとることにしたのかもしれない。
「ふう」
それでも腰を降ろすと自然と大きな息が吐かれた。
「戦闘は楽な相手でも緊張で疲労します。こまめな休憩は、とれるならとった方が安全にも繋がります」
ササリアはそう言いながら絨毯の端に置かれた大きめの袋から小さな袋を取り出す。
絨毯にはそれ以外に人の腰ほどの高さの大きな樽が2つ、3つの麻の袋、それと総士郎のリュックサックが積まれていた。
「どうぞ。甘味は疲労を和らげてくれますよ」
そう言って袋から取り出したものをひとつまみ渡してくれた。
干しブドウだ。10粒程が手の平に乗せられている。
一粒摘んで口に入れる。
酸味が強い気がするが甘みも強い。
疲労が回復した、というよりは抜けきらない緊張が一段緩んだような感じがした。
「そう言えば「疲労回復」の魔法は試したことがないな」
「疲労」で魔法のことを思い出して呟いた。
「えっと、あの魔法は眠くなるので今は使わない方がいいです」
総士郎の呟きにササリアが答えた。
「そうなのか?」
「ええ、短時間、普段の半分ほどの睡眠時間で疲労を回復させることができる魔法ですが、眠りが凄く深くなってしまいます。ダンジョンに大勢で数日潜る場合は使いどころもあるかもしれませんが危険もありますね」
「なるほど」
「どちらかと言うと風邪や病気の時に使うことが多い魔法です」
疲労回復と言っても瞬時に疲労が回復する訳ではなく、休息による回復効果を高める感じなのか。
それでも、一日の睡眠時間が半分になるなら忙しい現代日本のみなさんには垂涎の魔法のように思えた。
「あと、連続して毎日使うと効果が薄れていくらしいです」
しかし、そんなうまい話は無いようだった。
「少し胸当てを外してもいいか?どうにもまだ慣れなくて」
総士郎は身に着けていた硬革の胸当てを指差してササリアに聞く。
ダンジョンに入るにあたり急いで用意したものだ。他にも膝当て、脛当て、靴、肘当て、肩当てを装備している。
そして、右の篭手は硬革製だが左の篭手だけは金属製である。盾を強く勧められたが扱える気がしないので断った。そうしたら「せめて篭手だけは金属製にしてください」とお願いされた。
バックラーでの防御をメインに、現代日本のゲームで言うならタンク的な戦い方を基本としているササリアとしては精一杯の譲歩のようだった。
結局、押し切られる形で左の篭手だけは金属製の丈夫なものを身に着けることになった。
そして、右手に持つ武器はササリアのものよりも小振りのメイスだ。刀剣類も上手く攻撃を受けられない気がしたのでほぼ鉄の棒のメイスを選んだ。どうせ攻撃は魔法で行うのでこちらの方がいいとの判断だ。
「短時間ならいいですよ。でも、油断はしないでくださいね」
ササリアがしょうがない、というふうに答えた。
脇の下のベルトを外す。
総士郎は胸当てと言ったが正確には背面も硬革で守られる胴鎧である。
それは前面と背面の2枚の曲面の硬革の板を両の肩と両の脇の下のベルトで結ぶ形で身に着けるようになっていた。
そして、その下にも柔らかい革製の上着を着ている。これを着ないと硬革の鎧と擦れて痛くなる部分が出てくるらしい。
総士郎はその革の上着を掴んでパタパタと服の中に風を送る。
ダンジョン内は涼しい。むしろ、肌寒いくらいの気温だが鎧も含めれば厚着をしているのと、革には通気性がないせいで汗が溜まって不快だったのだ。
鎧の素材となっている硬革は厚めの革を蝋で煮た後に冷ましたもので、冷ました後はかなり硬い。少なくとも普通の人間の総士郎レベル、ササリアやリナの蛮族レベルは除外、に素手で殴られたくらいならビクともしない。
それでいて熱を少し加えれば自由に形を作れるので鎧の素材としてはなかなか優秀だ。
刃物などへの耐性、防刃性はそれほど高くないがそれでもただの布とは比べ物にならない。
走ったりする必要があり、あまり重さのあるものは選べない冒険者や警備の兵士などの一般的な防具である。
しかし、結局は革なので通気性は皆無であった。
「内部の汗や湿気を発散、そして、外からの空気が通るように適度に穴を開けた防具を考案してもいいかもしれない」
総士郎は服の中に風を送りながらそんなことを真剣に考えていた。




