出したはいいが。どうするのだ
玉座の間に禍々しい禁呪文の声が響き渡る――。
「リテッコタカンメ、ウョチッインメーラ!」
どうでもいいが、どうにかならないのだろうか、くだらん禁呪文。
「……業界用語のような禁呪文はおやめください」
魔王様の手にドンブリが現れ、中には湯気が立つ熱々のラーメンが入っている。
「たわいもない」
「……」
……これを無限の魔力で出せるのなら……毎日玉座で食べているポテチも禁呪文で出せと言いたい。
いや、言わない方がいいのかもしれない。ほんまにやりよる。
「食べてみよ」
……。
「いや、お腹一杯です。朝ごはんを『ゆかり』でお代わりしたので……。それより、魔王様が出したのですから魔王さんが試食なさってはいかがでしょう」
「予は魔王だぞよ……味の想像はつく」
「……」
「……」
玉座の間に沈黙が走った。
「……とりあえず、他の四天王に食べさせてみましょうか……」
禁呪文で出したラーメンでも巨漢のサイクロプトロールなら疑いなくズルズル食べることでしょう。
「ならぬ」
「ホワーイナット」
なぜ。どうして。
「魔族であれば皆が必ずや『美味しいでございます』と言うに決まっておるではないか」
――忖度! 美味しければいいのだが……。
「だったら人間界の……女勇者に食べさせましょう。きっと腹を空かせています」
お腹が空いているから必ず、「美味しい!」と言ってくれることでしょう。
「デュラハンって……意外に鬼のような一面があるぞよ」
「御意」
私はこれでも魔王軍四天王の一人、宵闇のデュラハンなのです。魔王様のためであれば人間共には容赦しないのです。
「作戦名『出来レース』でございます」
「……いい作戦名ぞよ」
褒められたと喜んでよいのだろうか……。
ラーメンを持たされ、魔王様は瞬間移動の呪文を唱えられた。
「熱っ! くっそぉ」
瞬間移動の衝撃で汁が少し手にかかった。なんの罰ゲームだこれは。銀色のガントレットだから火傷はしないが……なんだろう。無限の魔力でいくらでも出せるラーメンなら瞬間移動してから出せばよかったのに。アチチ。
「しっかり持っておれ」
「仰せのままに」
自分で持てよと言いたい。人間界に着地した時にもまた少し汁が零れた。
コンコン。
女勇者の住む小屋をノックする。突然の訪問だから不在でなければいいのだが……。
「はーい。どちらさまですか」
扉向こうからの返事が可愛い。小屋はぼろい。雪が降る冬をよくトタン板と波板の小屋で乗り越えられたと感心してしまう。室内が外と同じくらい寒いのだ。
「こんにちは。デュラハンと魔王です。出前を持って来たのだが、……食べるか」
流行りのウーバーイー〇のようだ。これなら……まさかラーメンが魔王様の禁呪文で出された物とは気付かないだろう。
「嬉しい! 毒でもなんでも食べるわ! お腹ペコペコだったの」
「ハッハッハ、毒は酷いぞよ」
「フッフッフ、毒は食ったらあかんやろ」
ニッコリ微笑む女勇者と魔王様。私もニッコリ微笑んでいるのだが、顔が無いので分からないだろうなあ……。
扉が開き、小屋の中に入れて貰った。
小屋の中は外と同じ室温だが、風が無いので少し温かく感じた。
「三日くらい水だけの生活だったのよ。早く春にならないかなあ」
「そうだな、春になればフキノトウやツクシが芽を出すからな……」
グーッグルグルグルグル……。
「キャー美味しそう! 恥ずかしい、お腹が鳴っちゃった」
「「……」」
フキノトウとツクシに反応してお腹を鳴らさないで~! 聞こえたこっちも恥ずかしいから……。
小さな丸いテーブルにラーメンを置いた。
湯気は無くなり麺は汁を吸って伸びてしまっている……。魔王様をチラッと見ると、「大丈夫だ。問題ない。油そばだから汁が少ないとか適当に誤魔化せ」と顔に書いてある……。
「ま、魔王城で作ってきたラーメン? だ。ぜひ食べてみて欲しい」
「ありがとう! いただきまーす!」
ズズッと豪快に食べる。ラーメンを食べる時って……みんなそうだよなあ。
「美味しいわ!」
ホッと胸を撫でおろす。得体のしれないラーメンだが、どうやら味はまともだったようだ。
「喜んで貰えて嬉しいぞよ」
「三日間も何も食べていないのなら何を食べても美味しいだろう。とは言わない」
「言ってるし~!」
しまった。口が滑ってしまった。首から上は無いのだが。
女勇者は三口ぐらいですべての麺を食べ尽くした。
「ご馳走様でした! ありがとう魔王様、デュラハン。おかげで生き返ったわ」
汁まで全部飲んだ。本当に美味しかったのだろう。空腹だったのだろう。
「嬉しいぞよ! これこそ感謝される喜びぞよ!」
「よかったですね、魔王様」
作戦大成功だ。女勇者にこそありがとうございましたと言うべきだな。
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