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魔王様、転職したらあきまへん


「なぜだ!」

 いつものように広い玉座の間に魔王様の声が響き渡る。いつもと同じ過ぎて冷や汗が出る。変化が欲しい。鉄板というやつでもなさそうだ。


「魔王様が転職するなど、聞いた事がありません」

 前代未聞で言語道断です。

「ズルいぞよ!」

 ズルいですと? 顎を梅干しのようにシワシワにして唇を尖らせないで欲しい。

「いったいなにがズルいのでございましょうか」

 理解に苦しみます。

「人間界では勇者や勇者パーティーが転職やジョブチェンジを繰り返して強くなっていくではないか!」

「――転職やジョブチェンジ!」

 どっちも同じ!

「それなのに……魔王は魔王のままであれば、それ以上強くなる要素がないぞよ。いつかは負けるぞよ。予が負ければ魔王軍は統制が取れずチリチリバラバラになり、人間共に支配される時代がくるぞよ」

 しおらしく言わないで。絢爛豪華な玉座に座りながらモジモジして言わないで――。

「その心配はございません。四天王が……いえ、この私、宵闇のデュラハンが魔王様以上の統制力にて魔王軍全体の指揮を取り今以上に強い魔王軍となりましょう。なにもご心配はございません」

「……腹立つのう」

「どーどー。冗談でございます」

「……」

 魔王様の額の血管がピクピクしているのがお美しくて微笑ましい。


「勇者が羨ましいぞよ。勇者になる前に戦士や格闘家などあらゆる職業で力やスキルを身に付け、ようやく勇者になるのだ」

「まあ……それなりの能力がなければ本来は勇者になれないですから」

 誰も勇者として認めてくれないだろう。

 自分で「勇者になったどー」などと言っていれば……ある意味、寒い。「私が俗に言う天才で~す」って言っているようで……恥ずかしい。少し痛い。

「たしかに、それと比べれば魔王様は生まれた時から魔王様。あるいみチートです」

 メダカの子はメダカ。というよりは、クジラの子はクジラです。

「――チートではないっ! 宿命というかなんというか……とにかくズルではないのだ! 予も予の努力と努力で魔王となったのだ!」

 どんな努力だと聞きたい……聞いて差し上げたい。


「遺伝子情報を強制的に左右させ、魔王の子孫として生を受けるよう努力し操作したのだ。無限の魔力で」

 ――!

「ガチで怖ろしいことを言わないでください」

 無限の魔力が魔王様を生み出した論……冷や汗が出ます。怖くて。


「だが、小っちゃな頃から魔王のままだ。魔小学、魔中学ではクラスチェンジしたが、転職などはしておらぬ」

 クラスチェンジって……一年一組が四月から二年二組になったとかか……。

「組替えなど、どうでもいい話です」

 一組より二組の方が雰囲気いいとか、一組は賢い生徒ばかりとか、三組は可愛い女子が集まり過ぎとか……魔都市伝説でございます!

「そんなクラスチェンジではなく正真正銘の転職、ジョブチェンジがしたいのだ! 勇者パーティーは転職を繰り返して強くなると言ったが、勇者になる前に何をやっておるか卿は知っておるか」

 勇者パーティーの職種? ジョブ?

「戦士や格闘家などでございましょう」

 勇者になるために必要な腕力や体力を身に付けなくてはなりません。

「それだけではない! 盗賊やシーフもあるのだぞよ。……聞こえはいいが、シーフって泥棒や盗っ人ぞよ」


 ――泥棒や盗っ人!


「よく考えてみて~! 国王の城で物品を盗んだり、通行人から財布や鞄を盗んだりひったくりしたりする職業があるのは大問題ぞよ」

 ――!

「さらにはそんな輩が勇者になり、平気で『世界平和のために魔王を討伐してきます!』 と宣言するのだぞよ!」

 怖いぞ! もと盗賊上がりの勇者は無茶しそうだぞ――! 宝箱以外の物まで盗んで帰りそうだぞ――。魔王城のオブジェとか、絢爛豪華な玉座とか根こそぎに……。

盗人猛猛(ぬすっとたけだけ)しくございます!」

「盗人猛猛しいであろう! 予より先に言うでない!」

「申し訳ございません」

 テヘペロ。

「そんなことがまかり通るのなら登場回数が少ない……いや、サイクロプトロールよりも多い盗賊一味ですら、いずれは勇者になれる可能性を秘めていることになるぞよ」

「あー……あの、盗賊A~Dの、ドンゴロスやズタブクロ達ですか」

 あと、ドノウブクロとポリブクロ。いつの間にか名前を覚えてしまったぞ。名前のあるキャラが少ないから。

「盗賊が転職したからといって勇者になれてはならぬ」

 え、あの盗賊が転職を繰り返し……いずれは勇者にまで上りつめるの? ないだろう。物語的に盛り上がりに欠けるし――。

「ですが、たとえ盗賊のときに悪事を働いたとしても、良いことをそれ以上に繰り返せば許されてもよいのではありませぬか」

 悪いことをした以上に良いことをして罪を償うのです。

「いやいや、デュラハンよ、よーく考えてみるがよい。前科がある犯罪者を勇者にしたらあかんやろ」

 ――前科がある犯罪者……。

 盗賊やシーフ。敵から物を盗むスキルがあるが、敵以外からも物を盗むのだろうなあ。勇者パーティー内でも盗みが行われ、「薬草がない!」「お金が減っているわ!」「どうせ使って忘れただけじゃねーのか」……とかか。宿屋に泊っている間も油断できない。お風呂に入っているときも油断できない。同じパーティーで仲間なのに……信用できない。

 信用できなければそれはもう仲間じゃない! 絶対に裏切りよる!

「強盗って、めちゃくちゃ怖いやろ」

「……たしかに」

 勇者になんかしてはなりません。

「強姦もあかんやろ」

「――たしかに!」

 許せうる行為ではない――! 勇者になんか絶対にしてはなりません!

「であれば、たとえゲームのキャラクターとしてでも、泥棒やシーフや海賊や遊び人などの職業を作るべきではないのだ――」


 ――転職すれば前科はリセットなんて、現実ではありえないのだ――!

 ――面白そうだからといっても、そんな非常識な職業はあってはならぬのだ――!

 ――遊んでいるだけでいずれは立派な職種につけるはずがないのだ――!


「魔王様、お怒りをお沈めください。私に向かって怒鳴らないでください」

 血圧が一三〇をお超えになります。それに、それって私は悪くございません……よね。

「ですから安心してください。ここは剣と魔法の世界なのです」

 剣と魔法の世界では少しくらい倫理やモラルや道徳から外れていても問題はありませぬ。むしろ日常生活から逸脱していてこそなのです。ナーロッパに並ぶ名言でございます。一件落着でございます。

「剣と魔法の世界やRPGの世界と言って逃げてはならぬ! このバカチンが!」

「あいたっ! 暴力反対!」

 慌てて頭をかばう。首から上は無いのだが。

「叩いてはおらぬではないか。あいたっと言うな! 誤解を招くぞよ」

「テヘペロ」

 ちょびっと舌を出す。首から上は無いのだが。

「ひとたびRPGやラノベの世界から顔を上げれば、そこに広がるのは現実の世界なのだ。予と卿の些細なやりとりが、世の中にどれほどの影響を与えるのか、卿は考えたことがあるのか」

 ……ありませんとは……言えません。

「魔王様は……そこまでお考えなのですか」

「無論ぞよ」

「さすがは魔王様でございます。お見それしました」

 でも……だったらバカチンは言葉の暴力ですぞ。さらに、バカチンチンは()鹿()のイチモツに該当し過剰なセクハラにもなります。冷や汗が出る……言いたくても言えない。剣と魔法の世界にもパワハラやコンプライアンス違反を導入して欲しいぞ。


「現実世界でも共感が得られるからこそ、PVが伸びるのだ」

 ――PVっておっしゃらないで! 何の略でございましょうか!

「ページビューの略ぞよ。アクセス数のようなものぞよ」

「……冷や汗が出ます」

 それほど大切なのか……PVや「いいね」……。


 PVや「いいね」目当てでは、いくら良いことを言っても……仕方なくはありませぬか――。


読んでいただきありがとうございます!


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