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彼らは何者か、どこから来、どこへ行くのか

ほぼ説明回です


ルシファと呼ばれるもの達がいる。


それは初めてその力に覚醒したものの名前とも、古い言葉で「反逆者」を指す言葉とも言われる。

ただ一つ明らかなのは、この世界から神が身を隠してから彼らは現れた、ということだ。


彼らは人々が扱う法術を使えない。

法術を構成する”増幅”、”変質””消滅”のどの法術も使えないのだ。

その代わり、彼らは危機に瀕した時、それぞれ固有の妖術に目覚める。

妖術はつららを自由自在に操る、冷気を操る、炎を操る、など

おおよそ法術では再現ができない能力だ。


ルシファに目覚める前は、ただ法術が使えない人間だ。

法術の腕は人によって大きく異なるため、「法術が使えない」=ルシファに覚醒するとは言い切れない。

しかし、彼らは自分や、自分が大切に思うものが危機に瀕した時覚醒し、

どこか体の表面に宝石のような石が現れる。

ルースと呼ばれるその石は妖術の起点となるのか、ルシファはルースと同じ色をした霞のような翼を出現させて妖術を発動する。

どうにもルースに宿った力を翼を媒介に発動させているようなので、

可能な限り翼を出現させる前にルシファを殺すことが、ルシファを狩る立場の人間の中では定石となている。


散発的に表れるルシファへの対応は、この王国においては

治安維持を目的として構成される騎士団が、4,5名のチームでそれぞれ対応し、

騎士団が向かうことのできない田舎町においては、地域の狩人か行っている。


騎士団に属する第三王子ハルト、第四王子カイ、騎士団副長ヴァイツはその個々の能力の高さから

例外として3人チームで対応を行っていた。





「兄さん、近隣住民への説明等終わりました!その子は僕とヴァイツ殿で連れていくので、治療してもらってください。ミラさんには連絡お願いしましたんで!」


現場となった家で残された意識のない娘を抱きかかえるハルトへ、根回しを済ませたカイが声をかける。

散乱した血はハルトが消滅の法術で消し去っていたが、いくらそばに置いても首は離れたまま。

娘が意識を取り戻し母親の無残な死体を見ることの無いよう、カイは女の首を変質の法術で繋いだ。


「流石は次期国王と噂されるカイ殿は仕事も術も早いなぁ。」


「兄さん!?もう、茶化さないでくださいよー。

仕事はヴァイツ殿に付き従ってるだけですし、今回も大事な所は全部兄さんとヴァイツ殿がして下さってます……。

本当は兄さんの傷も僕が治療できたら良かったんですけど……。」


カイはハルトと同じく正妻の子ではなく第四王子という身分ではあったが、全ての法術への高い適正、

そして正当な王位継承者に表れるとされる特徴から次期国王の筆頭であると噂されていた。


「こればっかりはしかたない。人の法術が効きづらい自分の体質を恨むさ。でも治療できる人がいるんだ、幸運だよ。」


「……。そう、ですね。」


「おーい、警邏隊への連絡は終わった。じきにこの家のかたずけに来るから、残りのルシファ連れて行くぞ。」


ヴァイツも現場の家に戻ってきた。


「はい、わかりました!じゃあ兄さん、その子は僕が連れていくんで。」


ハルトはカイに娘を渡す。


「頼んだ。」


「はい。ところでちゃんとミラさんに治療してもらってくださいよ?

兄さん、何でもない顔してるけどその肩、けっこうなケガですよ!!」


「…悪い。」


「兄さんには前科がありますからねぇ。絶対ですよ!」


娘を抱きかかえたカイはヴァイツとともに研究所へ、ハルトはミラが待つ王城へと向かった。




「うわ、痛そう……。」


簡単に止血に巻いていた包帯を取り、傷口をミラに見せる。

騎士団の救護隊に属し、現状唯一ハルトの傷を治せるミラは顔をしかめた。


「いやでも、見た目そうかもしれないけど、そんな痛くはないよ?大丈夫、大丈夫。」


「またそんなこと言って……。前に傷悪化させて倒れたの忘れてません?」


「いや、その、はい。」


傷口に手をかざし、ミラはハルトの傷を、そしてついでに服の穴を、増幅の法術で治した。


「はい、終わりです!いくら私がハルト殿下よりは年下で、入隊から浅くても、これくらいならすぐ治せます!」


「……ありがとう。」


「申し訳なさそうな顔しないでください。

これが私の仕事ですし、前みたいに悪化させない限りは何でもないんですから!」


「その節は申し訳ない……。」


以前ハルトはケガをした時、自分の痛覚が弱いこともあり、大したケガではないと簡単な手当だけで放置した。

その結果傷が悪化し、患部を大きく削り取って治療することになってしまった。

最終的にミラはかなりの法術を行使することになり、倒れて一晩寝込んだのだった。

この時のようにならないよう、カイはミラに連絡を入れていたのだった。


「うふふ。」


「どうしたの?」


「ハルト殿下と初めてお会いした時のこと思い出して。」


ハルトはバツの悪い顔をした。


「どう見ても重症なのに、殿下はさっきみたいに、大丈夫としか言わなくて周りばかりオロオロしてました。」


「実際痛くはなかったし……。それに治療ができる人もいなかった。

まさか通りすがりの新人さんが治してくれるなんて思いもしなかった。」


「うふふ。そうですね。私もあの時は、どうして誰も治療しないんだろうってオロオロしてたなぁ。」


「そういえばあの時ミラと出会ってから、というかミラが騎士団に入ってから、もうすぐ一年か。」


「わぁ、そうですね!なんだかんだ早いなぁ。」


「俺たちから何かお祝いさせてよ。普段お世話になっているお礼?」


「え!いいんですか!?」


顔を赤らめるミラ。そこへカイがやってきた。


「あー!兄さんが奥手そうに見えて、またミラさんたぶらかしてる!」


「カイ、俺はそんなつもりじゃ、」


「いや、僕は兄さんが市民の皆さんからなんて呼ばれてるか知ってるんですよ。

その名も、純朴人たらし。あんまり感情が出ない人だから怖いと思ってたら、不意に物凄い優しさを見せて、数多の老若男女を落としてきたという。」


「なにそれ初耳。というか、老若男女なんだ。」


ミラは話を聞きながらヒイヒイ笑っている。


「というかかなり早いけど、施設への搬送は終わったの?」


「終わりましたよー!言っても研究所は王城のすぐ隣ですし、手続きはオレがやっとく、ってヴァイツさんが先に帰してくれたんです。」


「なるほど。ではなくて、ヴァイツ殿は俺たちの補佐と護衛と教育のために組んでくださっているのだから、カイも一緒に手続きを学ぶべきだったのでは?」


「あ、いや、その、兄さんが心配で……、つい……。」


「あー……。それは過去の俺が悪いから、すまない。」


「それより、ミラさんと何話してたんですか?」


「ミラが騎士団に所属するようになって、俺たちと出会って、もうすぐちょうど一年だから、なにかお祝いしたいなーと思って。」


「いいですね!僕、何用意しようかなー!」



何気ない日常。

それがもうすぐ無くなること。

一年のお祝いは出来ないこと。

誰もそれを疑うことは無かった。



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