翼を携えしもの
「くるなあああああ!!!」
小さな家のドアを無理にこじ開ける。
力任せにドアを開いた瞬間、冷気とともに、いくつものつららが外へと飛んできた。
何らかの攻撃は予測していたものの対応しきれず、
ドアに一番近いハルトの右肩をつららが切り裂いていった。
「兄さん!?」
「おいおい殿下方、遊んでる場合じゃないぜ?」
気を抜きかけたハルトに、将軍であるヴァイツが注意する。
幼い少女を抱いた若い女は凍りついた部屋の奥から、その背の霞みのような水色の翼を大きく掲げて、こちらを睨んでいた。
「私から、娘まで、、奪うなあああ!」
叫びながら、翼を一振り。再びいくつものつららがカイ達に襲いかかる。
その瞬間ハルトは自分たちに襲いかかる全ての攻撃を脳内に把握、抜刀を起点に消滅の法術を発動し、全てのつららを消滅させた。
「な、」
そのまま流れるように、足元の摩擦が無くなるよう一定距離の床の表面を削除、一瞬で女に肉薄。女の視線に入らない横手から、首筋正面に剣を当てる。
「投降してください。」
「嘘だ。そうやって、殺すんだろ?あの人みたいに、何もしてないのに、この子を、娘を守っただけなのに…!!」
「あれは不幸な事故でした。私たちは殺しません。あなた方を王立研究所へ送るだけです。」
「でも、あの人は、殺された!だから、私はっ!」
女の翼が強く輝きだす。部屋の温度がさらに下がる。
そして、女の首が宙に舞った。
扉の近く、ヴァイツが抜き身の短剣を、逆手で刺すように振っていた。
増幅の法術で、短剣の剣撃を真っ直ぐに増幅させ、女の首だけを落としたのだ。
「マ、」
カイは声を上ゲかけた娘の意識を一瞬で刈り取った。
「殿下方、甘すぎますぜ?こいつらはルシファ、人間の敵だ。
こいつら二匹が同時に襲いかかってくる前にどっちか落とすべきだ。」
「しかしヴァイツ殿、彼女達は怯えていただけで、敵対の意志自体は無かったと思います。」
「カイ殿下は甘々ですな。ハルト殿下は肩を刺されているというのに。いくら敵意を見せて暴れられないように、といっても抜刀くらいはしていただきたい。」
「それは…」
「カイ、いいんだ。俺は大丈夫だから。それよりもこの子を連れて行きましょう。」
「はぁ、全く……。そんなん言ってると死んじまいますよ?殿下方は国の宝なんだから、そういうのはやめてくれないと……。
いくらオレが殿下方を守ろうとしても、死にに行く分にはどうにもできやしない。」
「ヴァイツ殿、申し訳ございません。ですがルシファも元は民。簡単には見捨てたくないのです。」
ハルトは娘を抱き上げながら話す。
「全く甘いんだから……。まあ、こっちはこっちで無理にでも殿下方を守るんで、文句は言わんでくださいよ。」
ヴァイツは戸をくぐり外へ出ていく。
カイはあわててヴァイツに着いていった。
この家の近所へ事態の終息を伝えに行ったのだろう。
ハルトはその背中を、意識のない娘の首筋に光る
とこか冷気を放つ青色の石越しに見ていた。