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愚かな姉妹  作者: 京泉
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ローワン・ラックノーツ


「ローワンのお土産はいつも同じ。違う物にして」

そう言われても変えるつもりはないし、同じでなければ意味がない。



自分の爵位継承が近付いた二年前の春。

ローワンは妹達にそれぞれ縁談を用意した。


ライリーにはクローバー侯爵家の次男ジュリアン。

レーナにはテンネル伯爵家の嫡子アゼスト。


流石に縁談相手まで「公平」に同じ人を持ちかけるわけにはいかない。だからこそ、爵位は継げないが資産を持つジュリアンと爵位を継いで伯爵となるアゼストは完全な「公平」ではないが「お金」と「爵位」互いに持っていない物が、妹達が要求する「違い」であり、ある意味で「公平」だと話を受けた。


ジュリアンとアゼストは妹達の性格を知っても「ラックノーツとの繋がり」を優先した。

ジュリアンはラックノーツ領地内にある温泉にホテルを建てたい。

アゼストはラックノーツ領地の通行料を無くしたい。


利益の為の縁談だとしても二人は紳士的に、出来うる限りの礼儀を尽くしてくれている。


「やっぱりと言うか、そうなると思っていたから僕は驚かないけどね」

「私はどちらでも。ローワン殿とアゼスト殿と友好な関係を築きたいのだから」

「ええ、私もです。ローワン殿とジュリアン殿と親戚になれるのであればどちらでも」


貴族の婚姻に恋だの愛だのは関係ない。

だからと言って蔑ろにしていい物では無く、最低限の礼儀は必要だ。

二人は最低限どころか妹達を思い遣ってくれている。


「しかし、本当に良いのかい?あれらはこれからも互いを「羨ましい」と言い続けるよ?」

「それなら、誰を充てがっても同じだろ」

「貴方達と友好を結べるのなら些細な事」


ローワンは爵位を継ぐに当たり身辺をキレイに整えたい。彼らが良いと言うのならと二つの封筒をテーブルに並べた。


「こっちが「今まで通りの婚姻届」こっちが「交換した婚姻届」さあ、君達はどちらを選ぶ?」


迷わず二人は声を揃えて「どちらでも」と答えた。



ローワンが無事にラックノーツ伯爵を継いで二年が過ぎた。その間に妹達も「希望通り」に嫁ぎ、今ではそれぞれ一歳になる子供がいる。

子供は二人とも男の子。

「結婚も同じ、子供も同じ。本当に仲の良い姉妹だ」と人々は言う。


「次はローワンだ」と揶揄われてもその都度爵位を継いだばかりだからと言い訳をしているが、そろそろそれも、通用しなくなりそうだ。


ローワンが伯爵を継いでからもラックノーツ領は順調に統治されている。

ジュリアンの事業も温泉に貴族向け高級ホテルと庶民でも使える低価格ホテルと分けた為に双方利益を上げている。

アゼストと取り決めたテンネル領とラックノーツ領互いの通行料は撤廃され、互いの産業利益は安定して出せている。


「今年は葡萄の出来が良いね。通行料がない分安く売りに出せる。薄利多売ってやつだ。

ジュリアンのホテルからも売り上げの二割がラックノーツ家へ入っている」


これで領民に掛ける税を軽くする事が出来るだろう。


ローワンは家の為に嫁いでくれた妹達に感謝する。


「僕はいつも「公平」だからね」


血の繋がった可愛い妹達だ、不幸ではなく幸せを願っている。


「僕は望んでラックノーツ伯爵になるのに妹達が望んだ結婚ができないのは「不公平」だもの」


貴族の政略結婚は当たり前だが妹達は無理矢理にではなく「望み」「選んで」嫁いだ。

ライリーは「愛情」を、レーナは「贅沢」を望んで選んだのだ。


「自分の選択には責任を持たなきゃ」


執務机に同じ封筒が並んでいる。

一つはライリーから。もう一つはレーナから。

中を見なくても二人とも同じ文面だと分かる。


「お読みにならないのですか?お返事は如何されますか?」


家令が便箋と封筒を持ちローワンに伺う。

ローワンは手紙を一瞥して薄い笑みを浮かべた。


「読まなくても分かる。返事は書かないよ。ジュリアンもアゼストもあんなに良い旦那様なのに」


ローワンは手紙を手にするとそのまま卓上ランプに翳し、端から燃え始めたそれを火の気のない暖炉へ投げ入れた。


「僕はね、人嫌いで一人の時間が好きなライリーには距離を置いた関係が合っているとジュリアンを勧めた。自分だけを優先して欲しい我儘なレーナには常に一緒にいてくれる相手が合っているとアゼストを勧めたんだけどね。

でも、二人は互いの相手が自分の相手より「良く」見えたんだよ」


ライリーもレーナも「人の物がより良く見える」。片方を褒めれば片方が拗ねる。だからローワンは常に「公平」に接して来た。


「本当は「公平」なんてただの理想で偽善だ。誰だって「得をしたい」と思うもの。得をした人に嫉妬するし羨望を持つ。けれど諦める事や他に目を向ける事で気持ちに折り合いをつけるものなんだ」


ローワンが完璧かと言えば欠点の多い男だ。

人の意見が気になるし、人の目が気になる。人が得をすれば嫉妬するし、人から良く見られたい。

だからこそ妹達を「公平」に扱う事で「妹思いの良い兄」の評判だけは手にする事が出来た。


「僕は妹達が可愛いよ⋯⋯そうだ、やっぱり返事を書くよ」


何かに気付いたローワンは家令から手紙のセットを受け取り「公平」に同じ文面で妹達へと手紙を書き、丁寧に封蝋を押した。


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