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愚かな姉妹  作者: 京泉
3/5

レーナ・ラックノーツ


兄のローワンがレーナに持ってきた縁談相手は伯爵家の嫡子アゼスト・テンネル。

自分と同じ金色の髪に若葉のような緑の瞳。優しい瞳のアゼストは王子様の様だと一目でレーナは好きになった。


アゼストは兄と同じ伯爵位継承を控えた未来の伯爵様。


──ライリーの相手にはない約束された爵位──


レーナの自尊心を満たすものそれはライリーより優遇してもらう事。

いつも公平だと同じものを渡してくる兄がライリーの相手よりも優しくライリーの相手にはない爵位が約束されたアゼストをレーナの相手に選んだ。

兄は自分をライリーより優遇している。そう思うだけでレーナは満たされた。


アゼストは湖や草原や砂浜にレーナを誘い、頻繁ではないが観劇や食事にレーナを連れて行ってくれた。

アゼストは物作りが好きで一緒に出かけた先で手にした木や草花や貝殻でレーナへのプレゼントを作ってくれたりもした。

いつもライリーと同じものを持たされていたレーナが自分の為にアゼストが作る一点物に特別感を感じ、アゼストに夢中になるのにそれほど時間は必要なかった。



今日はアゼストと砂浜へ出掛け、綺麗な貝殻を拾っていた手元を眺めて次は何を作ってくれるのか楽しみだとレーナは微笑んだ。

別れ際、アゼストが「家の中で開けてね」と渡して来た箱を開けるとそこには若葉色の宝石が付いた銀細工のネックレスが入っていた。

レーナは嬉しさのあまりローワンの元へ急いだ。


「お兄様!アゼスト様からこんな素敵なものを作っていただいたのよ」


実務机で書類を封筒に入れながらローワンはいつもの穏やかな笑みで「良かったね」とレーナの頭を撫でる。満足気にレーナは頬を緩ませいつものおねだりをローワンに向ける。


「お兄様、わたしアゼスト様と婚約したいわ」

「まあ、まてまて、そんなに急ぐ事はないよ」

「だってアゼスト様はわたしを優遇してくれるのよ。私だけのものをくださるの。お兄様の様にお姉様と同じものじゃないのよ?」


兄の気の利かなさを責めるレーナにローワンは「婚約はもう少し様子を見てからだよ」とレーナを宥め、部屋へと返した。



レーナはライリーのネックレスを見てショックを受けた。

自分の持っている同じ若葉色の宝石が付いたライリーのネックレスがとても大きく、とても贅沢なものだったからだ。


「お姉様はズルイです!」


そんな大きな宝石をもらうなんて。


ライリーの縁談相手はクローバー侯爵家の次男、ジュリアン・クローバー。そのジュリアンがライリーに贈ったネックレスの宝石はジュリアンの瞳の色でもある。

髪の色、瞳の色。レーナの相手アゼストと同じなのだからローワンは縁談相手も「公平」にしたのだと呆れたが、それでもレーナにはライリーの相手よりも優しく未来の伯爵様のアゼストを選んだのだと満足して、レーナはあまりライリーの縁談相手に興味を持って来なかったのだ。


「何がズルいのかしら?」


ライリーがムッとしているのが分かる。


縁談がうまく行けばライリーはいくつものホテルやレストランを経営し、お金に不自由しない贅沢な生活が出来るのだ。現に宝石もドレスもライリーは沢山贈られている。そこでレーナに嫉妬が芽生えた。


いくらアゼストが伯爵になったとしても表だって贅沢をさせてはくれないだろう。領地経営をする貴族ならそこからから得る収入で生活をしているのだ。領地を持ち、爵位のある貴族は「品位」を求められる。品位を無くした貴族がその権力を勘違いした時、民衆は容赦なく牙を剥く。

だからこそ清貧を求められる。


ライリーの相手ジュリアンは貴族ではあるが爵位はない。しかし莫大な資産を持ちその伴侶は贅沢が出来る。

その証拠と言わんばかりのライリーのネックレスは大きな若葉色の宝石を色取り取りの宝石が囲んだ贅沢なものだ。

繊細な銀細工に取り付けられた小さな若葉色の宝石が一つだけのレーナのネックレスが見窄らしくなった。


正直言ってジュリアンの贈ったネックレスの方がレーナの好みだ。


「アゼスト様は伯爵になる方。その様な方からレーナを思って作られたそのネックレスの方がどんな宝石よりも輝いて見えるわ」


宝石は大きな方が輝くと言うのにライリーは何を言っているのか。


アゼストから贈られるアクセサリーは全てアゼストの手作りだ。センスは悪くないが宝石が少ない。

観劇も食事にも連れて行ってくれるが本当に「たまに」なのだ。ほとんどの行き先は湖や草原、砂浜だ。

いくらレーナでも気が付く。アゼストが連れて行ってくれる場所は「お金」がかからない所だ。


確かにアゼストは顔合わせの時に「テンネル家は領民あってこその家だ贅沢はさせられないだろう」とレーナに詫びていた。

だからこそ手作りのプレゼントをしてくれる領民思いの優しい人なのだとアゼストに一目惚れしたレーナには問題のない事だったが⋯⋯ジュリアンがライリーに贈るプレゼントの豪華さと贅沢さを「羨ましい」とも思っていた。

一度羨ましいと思い始めると人が手にしているものが良く見えるものだ。ライリーが手にしている一つのネックレス。質素だと思い始めればなんと見窄らしく見えるのか。ジュリアンは構えないお詫びだと贈ったと言うがそんな贅沢なものが貰えるのなら構われなくても良い。寧ろ自由にさせてもらえ、贅沢が出来る。

そのネックレスがレーナは無性に羨ましくて仕方がなくなってきた。


ライリーはお詫びで「贅沢」が出来る。レーナは「愛情」と言う名の我慢を押し付けられる。


アゼストの愛情が重く感じる。

贅沢が出来るライリーが羨ましい。


自分の方がジュリアンに相応しい。レーナの心はライリーからジュリアンをどうしたら奪えるのかと忙しく動き出した。




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