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幼馴染も義妹も……誰も俺を信じてくれなかった。今さら信じているなんて言われても、もう手遅れです  作者: 野良うさぎ(うさこ)
三章

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たぬき


 チラホラと学生らしき人が増えてきた。

 生徒の顔をほとんど認識していないからわからないけど、多分うちの学校だろう。


 エクスデスを一通り回った俺たちは初めの中央広場に戻った。

 先生が私服姿の生徒に向かって、集合場所へ行くように指示をしていた。


 篠塚が俺の袖をクイクイと引っ張る。


「ねえねえ、そろそろ集合場所行こ? な、なんか視線を感じるし……」


 確かにさっきから視線を感じる。あまり嫌な視線じゃなかったから気にしていなかった。きっと、俺たちの私服が珍しかっただけだろう。


「そうだな、向こうで待機しよう。……あっ、今日の更新を忘れていた」


 最新話は出来上がっているが、更新自体を忘れていた。


「あ、やっぱり! もう、じゃあ待機場所で更新しなよ」



 俺たちは地上の駐車場へと向かった。





 すでに沢山の生徒が駐車場に集まっていた。

 遠足の嫌な空気を思い出してしまう。

 隣にいる篠塚を見ると、やはり青い顔をしていた。


「……なんかね、この空気が苦手なんだよね。みんなテンション高くて、悪ノリしてて……、グループで固まっているのって」


「俺も苦手だ。だが――」


 俺は先程スマホで撮った写真を見せる。

 そこには笑顔の俺たちがいた。


「今は二人だ……問題ないだろ?」


「……うん、そうだね、気にしないようにしよっと! ……せっかくなら他の生徒がいない時に行きたかったな」


「遠足だから仕方ない……」


 俺たちは話しながらうちのクラスの集合場所まで向かった。

 何気ない話だけど、確かにそうだ。生徒がいない時……、それは……遠足じゃなくて、篠塚と二人っきりでディスティニーに来るってことだ。


 ……心に留めておこう。




 クラスの場所に着いても、俺たちはいつもの教室と変わらなかった。

 俺と篠塚は隣同士。俺は更新を終えて、篠塚が読み終わるまで他の作家さんの更新をチェックする。

 ……この『パグ子』って作者がノリに乗っているな。昔から名前をいつも見かけるな。むむ、ランキングで俺の一個上か。……よし、勝手にライバルとして認定しよう。


 ポメ子にパグ子……、流行りなのか?


 そんな他愛のない事を考えていると、メッセージが来た。


『ポメ子です! えへへ、なんだが登場人物の心情の描写が丁寧になってきたよ。テンポもいいし、今回は特に面白かったよ! ……遠足で小説のネタがあるといいね!』


 俺は篠塚を見た。

 ニヤニヤとした顔をしている。


「ポメ子さんや、顔がにやけているぞ?」


「う、うるさいって! もう、面白かったからいいだろ?」


「ああ、ありがとう」


「ふ、ふん、どういたしまして」


 丁度その時、先生がクラスの集合場所に現れた。

 そこから、点呼を取り、注意事項と説明を始める。


 遠足は学校の行事だから16時までだ。一旦、集合場所に戻り、後は自由解散である。そのまま再入場してもいいし、帰ってもいいらしい。


 悪ふざけをしないように、念入りに注意された。

 クラスメイトの様子を見ると、みんな期待に胸を膨らませている。


 それにしても、俺と篠塚を見る視線の数が多い。

 篠塚は少し嫌なのか、俺の影に隠れた。



「あれって、篠塚? マジで……」

「天使っていたんだ……」

「だれだよ、噂なんて流した奴……絶対嫉妬だろ」

「うわ、新庄君、モデルみたい」

「ていうか、王子? 私服姿ヤバいね」

「おうおう、なんだかわからねえけど、ほっといてやれって」

「うんうん、君たち無駄に話しかけないでね?」



 なんだ? 大柄の男子と小柄の男子は、俺たちに話しかけようとする生徒を制していた。よくわからないが助かる。


 俺は訝しみながらも、一応ペコリと頭を下げておいた。


「あ、新庄、移動するって! ほら、入場するよ!」


 意識を篠塚に戻す。

 篠塚は待ちきれない様子であった。


「走るなよ? 転ぶぞ」


「転ばないって! ――きゃっ!?」


 俺は段差に躓いた篠塚の身体をとっさに支えた。

 右腕で身体を支える。柔らかい匂いが鼻をくすぐる。


「だ、大丈夫か? 気をつけろ」


 もっと優しい言葉をかけたかったが、とっさに思いつかなかった。


「あ、ありがと……、んん、もう大丈夫――」


 そこで、俺が篠塚を抱きしめているような形になっている事に気がついた。

 俺たちはゆっくりと元の体勢に戻る。

 右手から温かい重さが消え去った。


 少し恥ずかしくなって、周囲を見渡すと――

 何故か女子生徒たちは俺から目をそらしていた。







「うわわぁーー! 新庄、ほら、ディスティニーだよ! まちに待ったディスティニーだよ!!」


 なるほど、ここは本当に魔法の国なんだな。転びそうになって落ち込んでいた篠塚は、入園したら直ぐに元気になった。


「あ、ああ、まずはファストパスか?」


「んん、っと、今日は結構混んでるからゆっくり回ろ? まずは……、あっ! たぬきのタッキーだ! うわぁ、イケメンたぬきだよ!!」


 スタイリッシュなたぬきのキグルミが入り口近くの噴水のところで踊っていた。

 子供達がたぬきの周りを囲んでいる。


「写真撮るか? あのたぬきと」


「たぬきじゃないって! タッキーは森のみんなを守るために、自分を犠牲にして魔女の呪いを受けた王子様なんだって!」


「な、なんだか重たい設定だな……。ゆ、夢の国とは……」


「新庄、行こ!」


「あ、まて、走るとまた転ぶぞ。それにこれだけ人が多いと……」


 俺は篠塚の後を追うように、タッキーまで近づいた。

 タッキーに抱きついている子供がいた……。




「ふかふか〜、ふかふか〜、タッキー大好き〜。あれ? ま、真君?」


「た、たぬ、たぬ」


 そこには義妹の遥がタッキーに抱きついていた。

 タッキーは少し困った表情をしていた。というかこいつは音声付きなのか?


 遥は篠塚と俺を見て、少し考えてからタッキーと離れた。


「うひゃ!? し、失礼しました。……え、っと、真君、ひ、一人暮らしは大丈夫? お母さんは心配してるけど、最近お父さんと電話でよく話すから落ち着いているよ。あっ、事務的な連絡だと思って。そんじゃ!」


 俺はなんて言っていいかわからなかった。

 俺を馬鹿にしていた義妹。いきなり距離を縮めようとしてきた遥。

 馬鹿なフリをしているけど、本当は目ざとい妹。


 篠塚が俺の隣で囁いた。


「……新庄、あっち行こうか?」


「あわわっ! だ、大丈夫! は、遥がどっか行くから!?」


「たぬ……」


 慌ててその場を離れようとした遥の頭を、タッキーが撫でていた。

 その姿は、遠い昔の俺と遥を思い出してしまった。

 どこへでも俺に付いていこうとする遥。嫌な事があると泣いてしまう遥。

 俺が頭を撫でると――すぐに泣き止んでくれた記憶がある。


 ……遥は俺を困らせたら構ってくれると思っていた。

 確かそれが理由だったな。

 本当に些細な理由だ。だけど、些細な事から、傷は大きく広がる。


「新庄?」


 まだ、普通に接する事なんて出来ない。

 義妹を見ると、過去の嫌な記憶が蘇ってしまう。

 だけど……、懐かしい記憶も一緒に蘇る。以前よりも嫌な気持ちにならなかった。


 空虚だった心が――篠塚の温かさで埋まった。

 それでも今さら同じ関係になんて戻る事は出来ない。


「えっと、タッキーさん、ありがとうございます。遥は大丈夫です。――えっと、真君、遥は何も出来ないです。言い訳も真君の傷を癒やすこともなにもかも、手遅れです。見守る事も出来ないです。――本当にごめんなさい。……もう真君の前には絶対現れないです。……私はお母さんとお義父さんが仲良くなるようにする事だけを努力します。――二人の結婚式には祝電送ります! お幸せに!」


 義妹は俺たちにペコリと頭を下げて、足早に園内の奥へと向かっていった。

 あっ、コケた。恥ずかしそうに周りを見ながら、また走り出した。

 ――怪我は無いか? 大丈夫か?



 構ってほしくてあんな事を言っているんじゃない。

 義妹は真剣な顔をしていた。それがわからないほどの短い共同生活じゃない。

 なるほど、今のは……本当の決別を意味しているのか。


 大丈夫、俺には関係な、い。

 心は空虚なまま――だ。


 本当にそうなのか? 心が空虚なのか?

 以前よりも、胸の奥が穏やかであった。


 篠塚は俺を心配そうに見ていた――


「新庄、嘘の笑顔じゃないね。……なんだかお兄ちゃんみたいな顔してるよ?」


 俺がどんな顔をしているかわからない。

 だけど、転んだ義妹を少しだけ心配している自分に驚いていた。


「そうか、俺もよくわからん」


 篠塚は俺の手を引いた。


「うん、大丈夫だよ、なんて言えないけど……、あっ!? ってか、け、結婚式って!? ど、どういう事なの!?」


「き、きっと何か勘違いしているのだろう。あ、あれだ、義妹は飛び抜けた天然だから」


 たぬきのタッキーがポーズを決めながら手をクイクイして俺たちを呼ぶ。


「な、なんだ?」


「あっ! 写真撮っていいって合図だよ! ほら、一緒に撮ろうよ!」


 俺は篠塚に手を引かれたまま、タッキーとの撮影会が始まった――

 手を繋いでいる事に違和感を感じなかった。


 ただ、篠塚の優しさだけを感じられた。


いつもありがとうございます!

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