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7.

 その夜、アンデルソンさんが帰ってから、僕は祖父のために酒屋へ行って上等な惑星ハーヴェスター産のパープル・ワインを買い、自分用に炭酸入りフルーツ・ジュースを買った。

 それから肉屋へ行って、クリスタル・ゴキブリのスーパー・サーロインを買った。

 こんな事になるなら、狩ったゴキブリのサーロイン肉を家に保存しておくべきだった、と思った。僕も他の猟師と同じく、上等な部位は肉屋に売って家計に足し、質の悪い硬い部位だけを自分たち用に家に保存していた。

 家に帰って、サーロインを焼いて、ワインとフルーツ・ジュースで祖父さんと乾杯し、ステーキを食べた。


 * * *


 それから、祖父さんは〈首棺桶(くびかんおけ)〉を持って自分の部屋に入った。

 自室に入る前、祖父は僕に「明日の朝八時に葬儀屋が来る。部屋の鍵を開けておくから、案内してやれ。八時直前に〈首棺桶〉の頸部切断スイッチを自分で押す。自動止血装置搭載バージョンを奮発して買ったから、部屋を汚してお前に面倒をかけることも無いだろうさ」と言った。

 僕は(うなづ)いて、祖父が自室に入るのを見届けてから、自分のベッドに入って寝た。


 * * *


 翌日、アンデルソンさんは約束通り八時きっかりに来た。

 僕が祖父さんの部屋に案内すると、彼は部屋の扉を開けながら「ソウタくんも部屋の中に入るかい?」と()いてきた。「死体を見るのが嫌なら、私だけで処理するが……」

 僕は少しだけ迷ったけれど、祖父さんの部屋に入ることにした。ずっと一緒に生活してきた家族の死体を見るのは嫌な気もしたけれど、見ないまま処分されるのも嫌な気がした。

 入ってみると、祖父は寝巻きを着てベッドに横たわっていた。

 枕は床に落ちていて、頭部は〈首棺桶〉でスッポリ覆われていた。

 首が切断されている事は、見た瞬間に分かった。

 言った通り、血は(ほとん)ど出ていなかった。

 僕とアンデルソンさんは、頭部を切断された祖父の体を窓まで運んで、そこから巨大縦穴に体を落とした。

「さようなら、ヴァサゼフさん……達者でな」アンデルソンさんが落ちていく体を見下ろしながら(つぶや)いた。

 僕は、声には出さなかったけど、心の中で同じ事を思っていた。(さよなら、祖父さん……人間が死んだら何処(どこ)へ行くのか知らないけど……何処であれ、行った先では元気に暮らせよ)

 祖父の首から下を縦穴に落とした後、葬儀屋のアンデルソンさんは祖父さんの頭部が入った〈首棺桶〉を持って帰った。

 その帰りぎわ、彼から金を受け取った。

 祖父の脳みその代金だ。

 金額を(あらた)めると、相場より高いのか安いのかは分からなかったけど、僕らの生活水準からすれば結構な額なのは間違いなかった。

 しばらくは猟に出なくても美味い物が食えるだろうし、家の補修も少しは出来るだろう。

 でも、今の暮らしを大きく変えられる程の金額ではなかった。十五歳の僕にも、その事は分かった。

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