6.
右足を失って二年後、僕が十五歳の時に、祖父さんは自ら〈首棺桶〉を被って死んだ。
* * *
ある日、猟から帰ると家に客が居た。
葬儀屋のアンデルソンさんだった。
獲物にありつけず手ぶらで〈大糞穴〉から上がった僕は、いつものように防護服を脱いでシャワーを浴び、普段着に着替えて食堂に行った。
テーブルを挟んで、祖父とアンデルソンさんが向かい合って座っていた。
テーブルの上には、人間の頭部がスッポリ入るくらいの大きさの箱が置かれていた。
(〈首棺桶〉だ……)
状況の意味するところは、直ぐに理解できた。
祖父が〈首棺桶〉を葬儀屋に注文し、アンデルソンさんが届けに来たんだ。
……つまり祖父は、これを自ら被るつもりなんだ。
「葬儀屋が言うには……」祖父が僕を見て言った。「このところ脳の相場が上がっているそうだ」
その言葉を受けて、アンデルソンさんが「〈思考装置〉の需要が高まっているんだ」と言った。「戦争を始める惑星の数は、このところ増え続けているからね」
どの惑星でも、どの町でも同じだと思うけど、我がポグマド町でも、葬儀屋は脳の仲買人も兼ねている。
「戦艦を作るから、それで銀河じゅうの星々が脳みそを欲しがっているって訳ですか?」
「まあ、そういう事だ……航行装置に、索敵装置に、兵士支援ロボット……戦場には〈思考装置〉を組み込むべき機械が巨万とある……それに、一部の金持ちの間では、家政婦ロボットの需要が高まっているんだ。そっち方面からの脳の需要も見込まれる」
「高い性能の〈思考装置〉を作るためには」祖父が言った。「質の良い脳が必要だ……脳の質を決めるのは、第一に年齢が若い事、第二に鮮度って話だ。年齢についちゃ、もうどうしようもないが、鮮度なら何とかなる……生きているうちに首を切って、瞬間冷凍すれば良い」