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No.8 幼馴染と下心

「私がいます……だから、白雪あかねさんの事は忘れてください」



「えっ……!?」



「これは、童貞くんのために言っているんですよ」



 どういうつもりか全く見当もつかない。


 アスフィーの目的が、まるで読めない。



「何言ってんだ……!?俺が白雪を忘れるわけないだろうが……!」



「童貞くん……貴方が白雪あかねさんを覚えていても、白雪あかねさんの方はどうでしょうか……」



 それは考えもしていなかった問いだった。


 

「覚えてるに決まってるだろ!さっきも言ったが、俺達は昔からの幼馴染だ!忘れるわけーー」



 俺の台詞の途中で、またもアスフィーは中断させるように割り込んだ。



「どうしてそう言いきれるんですか?改めて言っておきますが、ここはーー異世界です」



「は?だから何だ?」



「貴方はこの世界では、ただの一般人に過ぎません」



「だから何言ってんだ?俺は元々ただの一般人だろ?」



「ふふふ。だから私は、貴方を理解しているって言っているんですよ。貴方は向こうの世界で、周りから特別扱いされていましたよね?」



「特別扱い……」



 国会議員である親父の存在ーー


 その一人息子の俺は、周りの人間から妬まれて生きてきた。


 一方で、親父に近づくために、表面上では俺に媚びを売る奴も多かった。



「貴方に今まで、なんの見返りも求めず、下心無しで優しくしようとした人間がいましたか?」



「白雪だ!白雪がいた!」



「本当にーー白雪あかねさんに下心がなかったと、貴方は断言できますか?」



「あいつは他の奴とは違う……!優しくていつも助けてくれて……!」



「童貞くんのお父様が、国の偉い人だったから……」



「違う!!」



「言いきれますか?」



「……!」



 俺はその瞬間恐怖した。


 アスフィーの台詞を、即答で否定する事ができなかった。



 勿論白雪の事を信じている。


 けれどーー心ではそう思っているはずなのに、言葉がすぐに出てこなかった。



「地位も立場も、全て向こうの世界に置いてきた童貞くん。果たして白雪あかねさんは、貴方と親しくなってくれるでしょうか……」



 考えたくない。

 

 今の俺の取り柄は何だ?



 それに重要な事に気がついたーー



ーー白雪は……”俺の幼馴染だったから”殺された……!



 もし白雪が心に深い傷を作っていて、俺を恨んでいたら……!?


 考えたくはないが、逆に会いたくないとさえ思っていたらどうだ。



「ああああああ!!!!」



 俺はアスフィーから離れるように、その場に膝をつきーー頭を抱えて大声をあげた。



 そんな俺を、アスフィーはニコッと笑い、優しく上から包み込むように抱きしめた。


 胸の谷間を俺の頭に押し当てるように乗せ、背中を何度も撫でながら言った。



「大丈夫です。私は、地位も立場も関係ないーーどんな貴方も大好きです。ずっとずっとずーっと、私は貴方を愛しています」



「……アスフィー」

 


 人生初めて言われた言葉ーー愛していますの一言。


 アスフィーの台詞に嘘偽り無く、こんな俺を受け入れて包み込んでくれる。


 俺は心が救われていくような感覚だった。




 次の瞬間ーー突如上空から、高速の何かが急接近した。



 咄嗟に気が付いた俺達は、急いでその場から離れるように横に跳んだ。


 すると躱す直前にいた地点に、飛来物が激突する。

 そしてレンガ造りの壁が、一気に飛び散るように爆散した。



「うわっ!何だ!?」



 幸い咄嗟の回避が間に合って、俺もアスフィーも怪我をせずに事なきを得た。


 明らかにこれは、何者かの攻撃であると考えた俺は、すぐに飛来物が飛んできた方角に視線を向けた。



「誰だ!?」

 


 建物の屋根の上ーー三階相当の高さに、俺達を見下ろす様にその人物は立っていた。


 その人物は、先程俺が一度出会っていた少女だった。



「お兄ちゃんーー」



 白雪を見かける前の、この異世界に来てすぐの時。

 店前で、俺の裾を掴んできたあの少女。



 身長130センチ程の、小学校高学年くらいを思わせる小柄な少女。


 くりくりとした綺麗な瞳に、ピンクカラーのロングヘアーと、頭部の大きな白リボンが似合う美少女。


 童話の世界に出てくるような、フリルの着いたピンクのワンピース。

 そして腰にぶら下げた一本の刀が目立つ。



 その少女が屋根の上で、自分の身長ほどの長弓を持って立っていた。



「ーーその女の人から離れて……!」



 突然アスフィーを敵視した台詞で、再度攻撃の構えを始めた。



 アーチェリーに近い造形の弓で、弦を含め全てがクリアなピンクカラーの物を手に持っている。


 同じくクリアピンクの矢を、背負っていた矢筒から一本抜き取りーー構えて上からアスフィーに狙いを定めた。



 いきなり現れて、突然の攻撃ーー


 流石に理解が追いつかない。



「待てよおい!いきなり何するんだ!?」



「下がっててお兄ちゃん……!その女の人は私”逹”が倒す!」



ーー逹”!?



 明らかにピンク髪の少女しか見当たらないが、考える余地はなく、少女は第一射を容赦なく放つ。



 矢は真っ直ぐアスフィーに向かって放たれた。


 アスフィーは直ぐにデスサイズを拾い上げ、向かってくる矢を狙って振り払った。



「邪魔です!」



 デスサイズの刃で、矢を打ち当てたその瞬間ーーアスフィーの予想を超えた出来事が起こる。



「ううん。邪魔はそっち」



 ドカン!



 突如まさかの矢が、アスフィーの目の前で爆散。


 爆風がアスフィーを後ろに吹き飛ばし、衝撃で後ろの壁に激突した。



「あぁっ!」



 少女がふぅと息を吐き、右手に光る赤い炎を見せつけるように言った。



「アビリティ”マジシャンプレイ”ーー『フレアシューティング』」




「アスフィー!!」



 直ぐに俺は、倒れるアスフィーの元へ駆け寄った。


 けれどそれを見たピンク髪の少女は、大きな声で呼び止めた。



「ダメ!!」



「えっ!?」



 俺は思わずその声に立ち止まり、少女の方へ振り返る。


 すると少女は、高い屋根の上からスッと飛び降りてーー今度は両脚に赤い光を灯す。



「アビリティ”サポートプレイ”ーー『フロートダンス』」



 赤く光った両脚が、地面に到達する直前。


 まるで見えないトランポリンで飛び跳ねたかのように、一度だけ空気を蹴って浮き上がり、その場で華麗に着地した。



 先程からアスフィーや白雪も含め、この少女も何やら多彩な異能力を扱っている。


 まったく一つも持ち合わせていない俺は、この少女に勝てるかは分からないが、刀を抜いてアスフィーを守るように前に立った。



「止まってくれ!女の子は斬りたくない!」



 アスフィーを庇う俺を見て、少女はキョトンとした表情で言い返した。



「その女の人から離れて……って、お姉ちゃんが言ってるの」

 


「は?お姉ちゃん?」



 さっきからこの少女は誰の事を言っている?


 この場はどう見ても、俺達三人以外見当たらない。



「お姉ちゃんが言ってる。その人は危険だって」



「……お前は?」



「私?私の名前はモモ。モモ・パレットカラー。十歳なの」



 御丁寧にフルネームと、年齢まで教えてくれた。



「お、おう。そうか……」



「うん。そして、お姉ちゃんの名前はブルーベル。ブルーベル・パレットカラー。十七歳だよ」



 何故か姉とやらの自己紹介まで済ませてくれた。


 この場にいない姉の情報は、全くもって聞いていない。


 しかしなから、丁寧に自己紹介をする所を見ると、俺には全く敵意はないらしい。



「モモ……!とにかく、この紫髪の人は敵じゃない!アスフィーって言って、こいつはーー」



 アスフィーの代わりに紹介しようとした。


 しかしその途中で、モモは割り込んで話し出した。



「グリムリーパー」



「え?」



「死神だよね?その人……」



「……そうだけど」



 しかし死神であるが、敵ではないーー


 俺はそう説得しようとした。


 だが先に、モモは衝撃の事実を告白した。



「だってモモ見たんだもん。そこの死神さんがーーさっき女の人に、ゴブリンゾンビを襲わせていたから」



「……え?」



 俺は思わず、返す言葉を失った。


 もしそれが本当ならかなり恐怖の感じる話だ。



 少女が真剣な表情で、俺を真っ直ぐみつめている。


 その真っ直ぐな眼差しは、とても嘘をついているとは思えない。



「……モモとか言ったっけ!?ほんとに見たのか!?人違いじゃないのか!?」



「……その死神さんに聞いてみて」



 モモは言う。


 俺はすぐにアスフィーに近づいて確かめようとしたーーするとアスフィーは素早く起き上がり、デスサイズを持ってモモめがけて急接近。



「黙って下さい……!」



 容赦のない一振りを放つ。


 けれどモモはそれを上回る速さでーー腰にぶら下げていた刀を抜いて、アスフィーの一振りを受け止めた。



「どうしたの死神さん?焦っちゃったの?」



「……なんですかそれ?煽りですか?」



「ううん。煽ってなんかないよ。私はね……私”逹”はねーー」



 そこまで言ったところで、モモの様子が一変した。


 手に持っていた刀が、先程の手や脚とは違うーー青い光を放つ。



 モモはその瞬間、キョトンとした大人しそうな表情から一変。


 好戦的な口調へと変わり、表情がニヤリと不敵な笑みを見せた。



「私”逹”はねーーお前みたいな死神が大嫌いなだけだ!」



「きゃっ!!」



 デスサイズを打ち負かし、再びアスフィーを壁の方へ突き飛ばした。



 青い光を放つ刀を構え、モモは先程とは見違えて変わり果てた容姿となっていた。



「悪いね死神。”私ら姉妹”はこの世界最強なんでーー」



 モモだった人物が一変ーー髪や瞳がアイスブルーに色を変え、ピンクだったワンピースでさえも同色に変化した。



 まるで別人のようにーーではなく、中身が完全に別人へと変貌したのだ。


挿絵(By みてみん)

「ーー私の名はブルーベル・パレットカラー。モモのお姉ちゃんだ。見ての通り、妹のモモと身体を共有してるんで、そこんとこよろしく。まぁ、ベースはモモの身体だからちっこいし、ツルペタおっぱいなのが物寂しいが」

 


 二重人格とはまた違う、姉が妹の身体を借りて戦っている。


 一つの身体を使いこなし、今目の前でアスフィーを追い詰めている。



 モモの弓ーー


 ブルーベルの刀ーー


 今は弓を背中に畳んで背負い、両手で刀を構えて立ち塞がる。



 アスフィーはボロボロにはだけるマントで、胸を隠しながら立ち上がる。


 もはやマントと言うより、破れた黒い布だった。


 胸も殆どはだけて、脚やお腹は殆ど素肌が見えている。



「童貞くんと……二人だけで幸せに暮らすんです……!邪魔しないで……!」



「はー?何言ってんだ死神のくせに。それにあんた、さっき街にゴブリンゾンビ放って、女を襲わせてたじゃないか」



「……」



「当ててやろうか?指図、そこのお兄ちゃんを見つけるため、化け物襲わせて騒ぎを作ったって所か?そこのお兄ちゃんなら、きっと人が襲われてたら飛び出して来る……なんて考えたんだろ?」



「……」



 アスフィーは先程から、ブルーベルの言う事に反論しなかった。

 いや、この場合ーー出来なかった。と言った方が正しいか。



「アスフィーお前……!」



 俺は刀を腰にしまい、ブルーベルの手を取って握り締めた。


 それを見たアスフィーは、絶望的な表情を浮かべる。



「童貞くん……!」



「悪いけどアスフィー。俺を愛してくれてるのは嬉しいが、他人を傷つけるやつとは一緒にいられない……!」

 


 バッサリと切り捨てるように、敢えて強い言葉で言い残す。


 そしてブルーベルを引っ張るように、この場をアスフィーを置いて、駆け足で立ち去った。



「お、おいお兄ちゃん!どこ連れてく気だよ!?」



 当然ブルーベルは驚くが、俺には時間がない。

 構うことなく連れて行く。



「ごめん急に。人を探してる……!この異世界の事、お前達の事、そして戦い方を教えてくれ……!」




 俺達が去った後、一人立ち尽くすアスフィーだった。


 その場でしゃがみ込み、悲しみから大きく泣きじゃくる。



「童貞くん……!童貞くん童貞くん!うえええん……!私を一人にしないで……!貴方がいないと、私は生きていけないよ……!行っちゃ嫌だ……!ごめんなさい……!ごめんなさい……!」



 しばらく涙は止まらず、深い反省に溺れていた。


 そしてアスフィーは、心に一つの決意をして立ち上がるのだった。



「……今度は、バレないように気をつけなくちゃ……!」


次回投稿は11/17です!

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