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No.7 柔らかな温もり

 突如俺の背後から、聞き慣れた声が聞こえてきた。




「私を置いていくなんて、酷いじゃないですか……童貞くんっ」

 


 その甘い誘惑の様な優しい声はーー



 振り返るとそこには、俺が置き去りにした美少女ーー死神。アスフィア・リ・コンソラトゥールの姿があった。



「アスフィー……!?どうして……!?」



「ふふっ。私が童貞くんの傍を離れるわけない……いや、離れられないんですよ私たち。深い愛で繋がってるんですから」



 

 アスフィーは不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと俺の元へ近付いてきた。


 突然の出現に、この場に居合わせた人は皆困惑してザワついていたが、怪物ーーゴブリンゾンビはそんな事をお構い無しに動いている。



 手前の一体が俺の目前で、左右の爪を使った猛攻が襲い掛かる。


 俺は刀を使い、素早くそれらを捌くように弾く。



 相手は所詮、知能の低いゴブリンゾンビだ。

 単調な攻撃を回避するなど造作もないが、今は時間を悠長にしてはいられない。



「アスフィー下がってろ!近づくと危ない!」

 


 こちらに近づくアスフィーに警告。


 それより俺は、少女の方が今にも絶体絶命な状態であったことに気付いていた。



 体制を崩した少女は、為す術もなく押し倒される。


 そして少女の悲鳴と共に、ゴブリンゾンビは大きな口を開けーー少女の右手に噛み付いた。



「いやぁぁぁ!!」



 まさにゾンビ映画のような光景。


 恐怖と痛みで泣き叫ぶ少女に、いよいよ民衆は青ざめた表情を見せた。


 しかしそれでも尚、傍観者であるそれらが少女を助けに動く者はいない。


 

ーーそんなにお前ら……!自分が痛いのが嫌なのか……!自分が大事だもんな……!



 呆れが怒りに変り、頭に血が登って感情が爆発した。



「退けぇぇぇ!!」



 目前のゴブリンゾンビを、突き飛ばすように押し返す。


 くるりと刃を真下に向け、敵の首元を狙って突き刺した。



 ズダン!



 刀が首下を引き裂いた。

 しかしゴブリンゾンビの致命傷にはならず、刀を固定するように、俺の右手にしがみついた。



「なっ!?離せ!くそっ!俺はあの子を助けるんだー!」



 当然俺の叫びがバケモノに届くはずも無く、気色の悪い奇声を煩く喚いていた。



「うるせェんだよおい!退けよ!」



 デカい図体を踏み付け、刀を引き抜こうとする。


 けれど腐ったゴブリンゾンビの骨肉が、俺の刀を引っ掛けて離さない。

 


 早くしないと、少女が取り返しのつかないことになる……!



 その時だったーー



 野次馬の人混みを潜り抜け、颯爽と中央に一つの人影が現れた。


 

「遅くなった!」



 謎の女の声と同時に、倒れていた少女の目の前にーー光が突如現れる。



 刹那。



 少女の上に乗っていたゴブリンゾンビが、たちまち一点の光に包まれる。


 それは突如現れた女による、光輝く眩い斬撃ーー



「アビリティ”ソードプレイ”ーー」



 女は魔法のようなーー光り輝く斬撃を繰り出した。



「ーー『ライトニング キル』」



 まるで光の斬撃で浄化させるような、女の鋭い一突きで、ゴブリンゾンビの身体を跡形もなく消し去った。



 俺はその光景に目を疑ったが、ここが異世界であったことを改めて思い知らされる。


 しかしその直後、俺の感情は”全く別の物”へと変わってしまうーー



「……!!」



 

 光がすっと消え、長い槍を突き上げるように立っていた女の姿を確認した。



 俺は目を疑い、開いた口が塞がらなかった。



 綺麗なライトブラウンカラーの、長く美しい髪。


 頭に雪結晶の白い髪飾り。


 整った顔立ちで、成長した身長と体格ーー



 凛々しい顔の女は、ゴブリンゾンビを討ち取ると槍を下げ、怪我をする少女に振り向いてーーニコッと笑顔を見せた。



「大丈夫?遅くなってごめんね!」



 その優しい笑顔を見て確信した。

 そして他人の不幸を放っておけず、勇敢な正義感を持って立ち向かう女性。


 目の前に見える女はーー成長した幼馴染。



ーー間違いない!白雪あかね……!



 

 身長が160センチ程で、大人な女性を思わせる、見違えるほど魅力的となっていた。


 パッと見るだけで、俺の心を釘付けにさせるほどの美しさーー


 純白のドレス生地で作られた、動きやすそうな異世界服。

 胸元や太腿は薄いフリルで透けて見え、相変わらず360°何処から見ても、美少女と言って差し違えなくーー更に成長したお姉さんを思わせる色気は、容姿で男を悩殺させるの破壊力を持っているようだ。


 特にモデルのようにすらっと長く伸びた、細くて綺麗な美脚には、誰もが目を奪われる。



 現に俺はこの瞬間、改めて白雪あかねを惚れ直しーーって、今はそれどころじゃない!

 


「白雪ー!!」



 白雪の名を大声で呼び、俺の存在を必死に伝える。


 俺はここにいる。逢いに来た。と……



 目の前のゴブリンゾンビが激しく邪魔だ。


 俺は怪我をしても構わない。

 相手の猛攻を受け切る途中だが、刺し違えるような勢いで左拳を振りかざす。


 異世界に来る前に受けていた、左肩の傷ーー

 けれど痛みや痺れは、白雪に会いたいという気持ちが忘れさせていた。


 

 今この時も、ゴブリンゾンビの爪が右腕にかすり傷を作り出す。


 しかしそんなものーー恋に走る俺には痛くない。


 力一杯渾身の左拳で、ゴブリンゾンビの顎を殴り飛ばした。



 そしてもう一度、大声で白雪の名を叫んで呼び止めた。



「白雪ー!!!俺だー!!!」



「えっ……」



 遠くにいた白雪が、俺の声に気が付いて振り返る。

 

 俺と白雪が目と目が合うーー数秒前。



「ダメですよ童貞くんっーー」



 誰よりも先に動いたのは、死神の美少女ーーアスフィア・リ・コンソラトゥールだった。


 アスフィーは俺を後ろからギュッと抱き寄せて、耳元で甘い声で囁いた。



「ーーもう貴方は、私だけのモノなんですから」



 そう言ってアスフィーが、俺の背中に右掌を押し付けた。

 そこからは俺の了解を得ない、瞬く間の出来事だった。



「アビリティ”マジシャンプレイ”ーー『アナザーゲート』」



 次の瞬間ーーアスフィーの右掌を中心に、黒い闇が俺の背中を覆い尽くす。



「なっ!?」



 一瞬にして、それは俺の顔や身体を包み込む。


 視界が闇に覆われ、更に次の瞬間ーー



 晴れるとそこは全く違う場所へと変わっていたーー



「……は!?」



 突然の事で俺の頭が混乱した。


 さっきまでいた広場とは一変、人気のない狭い裏路地のような所に、俺一人で立ち尽くしていた。



 先程のモンスターはおろか、あれだけ多数いた民衆は一人としていない。

 当然ーー白雪あかねの姿はいない。いるはずもない。



 全く状況が飲み込めず、動揺しながら辺りを見渡した。



 突然自分の立っている場所が、瞬きの瞬間に変わり果てたら、誰だって動揺する。


 しかも俺は、長年待ち続けーーもう会えないと思っていた、白雪あかねを見つけた瞬間だった。



 ここは何処だーー


 早く元の場所に戻らないとーー



「何処だよここ!?白雪をやっと見つけた所なんだぞ……!?ふざけんな……!」



 辺りを見渡して確認する。

 地面や建物の壁が、先程と同じ西洋風のレンガ造りである事から、幸い異世界の同じ街の何処かという事を予想した。


 しかし車も通れないほど狭い、一本道の路地裏に立っている。

 どちらの方角に走ればいいのかは見当もつかない。



「くそっ……!急がないと、やっと見つけた白雪が、またどこかへ行ってしまう……!」



 考えてる時間すら惜しい……!


 俺の頭の中は、白雪あかねの事だけでいっぱいだった。



 俺はいてもたってもいられずーー

 とにかく急いで駆け出そうとした所だった。



 俺の後ろの方から、聞き慣れた女の声が聴こえてきた。



「童貞くん……やっと二人きり……」



 振り返るとやはり想像通り、アスフィーの姿がそこにあった。


 息を切らして、火照った表情で笑うアスフィー。



 俺を何故、こんな場所へ転移させたのかーー



 白雪あかねにもう一度会うーーその事以外頭にない。



 走って白雪の元へ急ごうと、アスフィーの横を過ぎ去ろうとした。


 それをアスフィーが、笑顔で進行を遮るように足止めする。



 ガチャリ。



 アスフィーはデスサイズを片手に、大きく真横に伸ばして道を塞いだ。



「……何処に行くんですか?」



 ニコッと笑って、わかりきった質問を俺にする。


 俺は目前で立ち止まって説得を試みた。



「決まってるだろ。白雪の所だ。あいつがいたんだ。あれは白雪だ。間違いない……」



「……はい。あれは確かに、貴方の”元”幼馴染ーー白雪あかねさんです」



「”元”じゃねぇよ。いつまでもあいつは、俺の幼馴染だ」



 どうしてこいつは俺に突っかかる?


 なぜ俺の邪魔をする?



 その答えはいくら考えても分からなかったが、かと言って尋ねたところで、アスフィーが素直に話すとは思えない。


 短い付き合いだがアスフィーはーー笑って本性を誤魔化して、相手を惑わせるタイプだ。



 惑わせる女の魅力というは、相手に思考の余地を与えない策だ。



 そしてそれが、俺の思考を鈍らせたーー

 


「いいえ。残念ですが、あの白雪あかねという人物は、貴方を既に幼馴染と認識していません」



 急に何を言うかと思えば、呆れて物も言えない。



ーー俺を怒らせたいのか?



「お前に白雪の何が分かるって?」



「白雪あかねという人物は知らないですがーー童貞くんの事はよく知っていますから」



 そう言ってアスフィーは、デスサイズをその場で投げ捨て、突如俺の身体を抱きしめた。


 女性の弱い力で抱きつかれ、ぎゅーっと俺の背中に手を回すように包み込み、顔を埋めて抱擁する。


 

「おいアスフィー!今はこんなことしてる場合じゃ……!」



 柔らかなアスフィーの温もり。


 マント越しで伝わる素肌の感触は、とても柔らかく暖かなものだった。


 全身に伝わる女性の温もりーー特に押し付けるように当たっていた、アスフィーのふくよかなバストが、マシュマロのように柔らかく、心地よい感触を俺に与えていた。



 このまったく同じ状況は先程、霊界とやらで抱き締められた時と似ていた。


 しかし今回のアスフィーは、先程までより過激さが増している。



「いいじゃないですか。ここは今、私と童貞くんの二人だけなんですから……」



 密着していたアスフィーの、マントが肩からゆっくりとずれ落ちた。


 鎖骨や肩だけで留まらず、綺麗な白い胸の谷間が見える所まではだけていた。



 下着を身に付けていないアスフィーは、谷間をわざと見せつけるように俺を誘惑する。



 角度によっては、その下まで見えてしまいそうだ。


 完全にマントがはだけるまで、もはや時間の問題だった。



 そもそもアスフィー本人は、頬を紅潮とさせ、楽しそうにニヤニヤさせている事からーー全身の肌が露わとなっても構わない。

 むしろ望んでいるに違いない。


 その証拠に、アスフィーはズレ落ちていくマントを一切抑えようとしないのだ。



ーー今はそれどころじゃない……!しかもここ、人が居ないとはいえ外だぞ……!



 俺は白雪の顔を思い出し、必死に理性を失わないよう意志を強く持つ。



「やめろアスフィー……!」



「そんなこと言って、童貞くんさっきから私のおっぱいジーッと見てますよ?」



「なっ……!?そんな事ない!」



「いいんですよ?見ても触っても……なんだったら顔を埋めてもいいんです。私の身体は、童貞くんに捧げますよ。何をシテもいいんです」


 

「ふざけんな……!俺は、白雪にもう一度会うんだ……!それまではーー」

 


 そこまで言ったところで、アスフィーが割り込んだ。



「白雪あかねさんには黙っててあげます」



「なっ!?」



「童貞くんが私にどんな事をしても、私と童貞くんとの二人だけの秘密にしててあげますよ」



「そういう問題じゃない!」



 理性を失うなーー


 感情を殺せーー



 白雪に会うまで、俺は一切汚れてはならない……!



 アスフィーは俺を抱き締めたまま、動かすように壁側に追い詰めた。



 ドンッ。



 耳元にゆっくり顔を近づけて、甘い声で囁いた。


次回投稿は11/15になります!

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