No.4 絶滅危惧種
「待っててくれ白雪……!今逢いに行く!」
アスフィーの大鎌ーーデスサイズを強引に奪い、逃げ込むように異世界へのゲートを潜り抜けた。
そして自らの目的ーー白雪あかねともう一度出会う為、俺は異世界へと足を踏み入れる。
アスフィーのいる場所を繋ぐゲートは、俺が斬って消滅させ、それを作り出せる唯一のアイテムーーデスサイズは俺が握っている。
「デスサイズはこっちにあるし……アスフィーはこっちに来られない。で……あってるよな?」
右も左も分からない。
正解も誰かが応えてくれるはずもない。
ーー俺に何故か好意を寄せてくれているアスフィー……あいつには悪いけれど、どうしても白雪に会わなくちゃいけないんだ……!
首を傾げながら、とりあえず周囲を見渡した。
……ゴホゴホ。埃っぽい。
少し薄暗い場所だったが、天井に幾つか空いた隙間から差し込めていた陽の光が、この場を明るく照らしてた。
木箱や樽がかなり乱雑に置かれ、その上に埃が白く掛かっていた。
「……倉庫みたいだな。ほんとにここは異世界なのか?」
とにかく外に出て確認しないとーー
散らかった足場だったが、物を掻き分けて前に進む。
壁沿いに出口を探すと、すぐに古い木の扉を発見した。
「……異世界。果たしてこの世界は、どう俺を受け入れてくれるのかなーー」
重い扉を引きずるように開き、眩い陽の光が俺の視界を覆うが、ゆっくりと目を開く。
するとそこには、現実とは思えない光景が広がっていた。
「うわぁ……すげぇ……!」
ファンタジーRPGでよくあるような、西洋を舞台とした城下町。
レンガでできた壁や地面。
街の奥には、何やら大きな城がそびえ立っているのが見える。
様々な市場や商店がずらっと立ち並び、それぞれが和気あいあいと賑やかな盛り上がりを見せていた。
先ず真っ先に目に飛び込んで来るのが、そこらで動いて喋る住民の姿だ。
どれも二足歩行の人型で、普通に通じる言葉を話しているのだが、明らかに俺と大きく違う点があった。
「すげぇほんと……!」
見渡す全ての人が、アニメやゲームで登場しそうな獣人のような姿をしていた。
犬や猫の顔をした商人や、鳥の顔をした兵隊などーー
ここが正真正銘異世界であると、この光景を見て疑う者はいない。
「ほんとにここは異世界なんだな……!」
賑やかに並ぶ商店と、街の彼方に大きく聳え立つ城のような建物。
そして店の殆どが、剣や盾をはじめとした、冒険に必要な装備品を店頭に揃えている。
ーーどうやらここは、ゲーム始めたての初心者用チュートリアルと言った最初の街で、装備をしっかり買い揃えろって事か……しかしーー
俺は忘れていたが、異世界に部屋着の無地のスウェット姿で、着替える間もなくそのままここに来た。
当然小銭すら手持ちが無い。
ーーそもそもこういう世界では、円もドルも通用しない……まぁどんなクソゲーでも、スウェット姿の主人公を、急に草むらダンジョンに放り出すなんて事はしないだろう……
右手に握る死神の鎌ーーデスサイズをマジマジと見つめ、思わず大きな溜息を吐きこぼす。
ーースウェットに大鎌って、どんな組み合わせの装備だよ……!スウェットってそもそも有り得ないだろ!こんな服装じゃコンビニに行くなら未だしも、ダンジョンに出た瞬間、即ゲームオーバー間違いなしじゃねぇか……!
キャラクターのステータスパロメーターにおいて、DEF(防御力)という数値は無視出来ない、最重要項目であると俺は問いたい。
”攻撃こそ最大の防御”と唱える者も多いが、敵に此方の一撃を仮に躱され、許してしまった反撃で倒されてしまっては元も子も無い。
ーースウェットで魔法や斬撃を受け耐える自信がない……
適当な店に立ち寄り、俺はキメ顔で右手の物を差し出しながらこう言った。
「すいませーん。この鎌売ってお金に変えたいんですけどー」
ーー死神から奪った盗品を質屋に入れる主人公なんて、もしかして俺が世界初なんじゃないか?
屋台で商売をしていた店主ーー白と黒の縞模様の毛並みをした、猫族を思わせる人型の猫男が、仕事の手を止めて笑顔で此方を振り返った。
「いらっしゃい!うちはいいのが揃ってるよ!」
服を着た二足歩行の大きな猫が、低く渋い声で接客をやっているーー
耳や尻尾まで見える。
着ぐるみとは思えない、リアルな毛並みと動きをしている。
猫耳というか、猫そのものである。
いざファンタジーの住人を目の当たりにすると、やはり夢の中にいるかのような錯覚に陥ってしまう。
周りを見渡すと、右も左も動物人間だらけーー
人間はーー
俺はそこでふと気がついたが、まるでお祭りかのようにごった返す街の中、人間と呼べる人種が俺の他に見当たらなかった。
この異世界では、人間の俺の方が異端なのか?
すると俺の顔を見た猫の店主は、物珍しそうに声を上げた。
「人間のお客様じゃないか!これは珍しい!」
ーー俺からしてみれば、あんた達の方がよっぽど珍しいが……!
「珍しいのか……?」
「そりゃそうさ!この街が人間で賑わっていたのは昔の話!最近じゃすっかり絶滅危惧種の仲間入りだ!」
「は!?絶滅危惧種!?」
主にそのワードは、人間が他種族に使う事はあっても、自分達に当てはめて言ったことは無い。
猫の店主はしみじみと過去を思い浮かべながら、俺の顔を見て話し出す。
「時々見かけるがね。けれどもうこの世界に、あんたのような人間はどれだけ生き残っているか……」
「……俺の思い浮かべていた異世界と違うのか?」
「あんた人間なのにどうして知らないんだ?」
どうしてと言われても、俺は先程この異世界に転生して来たばかりだ。
魔法や剣で戦いながら、心踊る冒険に明け暮れてーー国の勇者となって可愛いお姫様と結婚する……そんな一般的なファンタジー全開のイメージを持っていたのだが。
まぁ、俺には白雪あかねに会うという目的があるのだが。
それにしても絶滅危惧種とはどういうことだろうかーー
本来絶滅危惧種となる種族は、様々な理由があるが、他種族からの天敵が主な原因とされている。
特に食物連鎖が大きく狂うと、食われる側の種族は激減し、たちまち生き残りを失っていく。
間接的ではあるが、人間が環境を変化させ、絶滅していった種族も多数いる。
しかしこの異世界では、我々人間がその絶滅危惧種というから驚きだ。
もしこの話が本当なら、白雪はおろかーー俺以外の人間に逢えることすら絶望的なのか……!
「……もしかして、人間が軒並み何かに喰われてる……とか?」
俺はじーっと、目の前の喋る猫を睨み付けた。
すると焦ったように、猫の店主は弁解を言い出した。
「ち、違う違う!少なくとも猫は人間なんか食べない!」
必死に取り乱すように否定した。
どうやら”嘘”は言ってない。
もしこれが嘘なら、無知の俺に危機感を持たせるような真似はしない。
危機感は警戒心に代わる。
こいつは俺を狩る獲物ではないーー
「冗談だよ。でも人間が何者かに喰われてるって言う部分は否定しないんだな?」
俺がそこまで言ったところで、何者かが俺の後ろからーースウェットの袖を掴んで来た。
くいっ。
すぐに振り返るとそれは、俺の目線の落としたはるか下でーー
「お兄ちゃん……こんな所にいたらーー」
幼く可愛らしい人間の女の子がーー上目遣いでこちらを見つめ、キョトンした表情を浮かべて立っていた。
次回第5話は11/9投稿予定です!