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No.15 消えない『好き』


「ーー一緒に行こう白雪!俺と一緒に、世界の色んな所を見に行こう!」



 それを言われた白雪は、ニコッと笑みを浮かべ、俺の手を優しく握り返した。




 白雪を外に連れ出し、真っ先にある人物が俺の視界飛び込んできたーー


 洞窟の外で倒れていた、モモ・パレットカラーの姿。



「モモ!」



 すぐさま駆け寄って抱き起こす。


 モモは目をゆっくりと開き、俺の顔を見るとーー



「お、お兄ちゃん……お姉ちゃんが消えちゃった……!」



 涙を流し、俺の胸に顔を埋めてーー大声を上げて泣いた。


 俺の服がモモの涙で濡れていくのを感じる。



 脳裏に浮かぶ、思い出すブルーベルとの記憶ーー



 短い付き合いだったが、ブルーベルのおかげでここまで来れた。


 あいつがいなかったら、俺は何処かで死んでいた。


 この右も左も分からなかった異世界で、俺はきっとのたれ死んでいた。



 俺がこの異世界で最初に出会った、かけがえのない親友であり、返しようのない恩人。


 思い出すブルーベルの、怒った表情や笑った表情。

 そのどれもが愛らしく、もう二度と帰ってこないと思うと辛くなる。


 

 ほんの少しの時間一緒だった俺が、これだけ辛く悲しい想いなんだ。


 妹のモモの心情を察すると、とても胸が苦しくなってくる。



 そんなモモの頭を抱き締め、受け止めながら優しい声を掛けた。



「モモ……!お前達姉妹には、一生返しきれないほど感謝してる……!ブルーベルの想いは、俺がしっかり受け取った……!俺と一緒に行こうモモ……!」

 


「一緒に……」



「そうだモモ……!俺がお前の事も守ってやる!ずっと俺と白雪が、お前と一緒にいる!お前は独りぼっちにはならない!」

 


「ほんと……!?」



「ああ!誓うよ!約束する!俺はお前とずっと一緒にいる!それになモモ……!お前のお姉ちゃんは、ずっとお前のことを見守っててくれる……!幸せを一緒に探しに行こう!それがブルーベルの想いだ!」



 それを聞いたーーアスフィア・リ・コンソラトゥールが、発狂しながら泣き叫ぶ。



「何で!?何でですか!?私の事は拒絶して、どうしてその女は受け入れるんですか!?私も貴方と一緒にいたいのに!!」



 アスフィーの叫びに、聞いたモモと白雪は怯えて俺の後ろに身を隠す。


 俺はそんなアスフィーに睨みをきかせ、立ち上がって刀を向けたーー



「アスフィー……その答えが分からない以上、俺はお前を一緒に連れて行けない……!」



「答え……!?何ですか!?何なんですか!?」



「答えは簡単だ……!お前は他人を蹴落としてまで、自分の幸せを勝ち取ろうとしたんだよ……!そんなやつを、俺は一緒に連れてけない!」



 睨む俺と、その持つ刀を見たアスフィーは、とうとう俺に殺意を向ける。



「……もういいですよ!だったら私は、貴方を殺して私も死にます!」



 自分も死ぬと言う異常な覚悟に、俺は今まで抱いていた素直な感情を訪ねた。



「……どうしてそこまで俺の事を?」



「さっきも言いました!私は生まれてからずっと独りぼっちだったとーー」



 アスフィーが続けて語る、自分の辛い孤独の過去。



「ーー私たち死神は、死んだ人間を導き、裁くためにその存在を許されています……!誰とも交じることなく、当然認めてもらえることも無く、そんなつまらない人生に死のうとさえ考えていました……!」



 孤独の人生は、同じ経験を味わった俺にはよく分かる。


 生きる意味を感じずに、そんな毎日に絶望していた。



 アスフィーの場合ーー優しく手を差し伸べてくれる相手に出会えなかった。


 しかしこれは、俺も世界で白雪しか出会えなかった事。



「そんなある日、人間を空から眺めていた時ーー街で悪と闘う貴方を見かけました……!」



「俺……!?」



「貴方は不良数人に囲まれ、木刀1本で喧嘩をしていたんです……!それを毎日です……!」



 確かにアスフィーの言う通り、毎日俺の家の金を狙った不良や犯罪者が毎日押し掛けて来ていた。


 家で引きこもる直前まで、トラブルの無い日は一日もなかった。



 白雪が亡くなって、その悲しみから、俺は力を抑えず暴れ回っていたーー



「見てたのか……!」



「貴方の事を調べ、その不幸な人生に正直ーー早く死ねば楽になるのに……と思っていましたよ。ですが貴方は、独りになっても死ぬ事に逃げなかったんです……!」



 俺はどんな相手が攻めてきても、必ず立ち向かってこう言っていたーー



『かかってこい!相手になってやる!』



「そんな貴方を毎日見てる内に、私はこの人と一緒にいたいと思うようになりました……!」



 アスフィーはだんだんと、苦しむように涙を流す表情になっていたーー


 それを聞いた俺は、アスフィーの想いに同情しているのを感じていた。



 けれどやはり、アスフィーの想いを受け止める訳にはいかないーー


 俺には心に決めた、揺らぐ事のない愛と決意がある。



「そうかアスフィー……お前は、強い俺に惚れて、好きになってしまったんだな……」



「う、うぅ……!」



 泣き崩れるアスフィーに、俺がしてやれることは無い。


 しかし素直に、アスフィーの好きという気持ちは嬉しいんだ。



 けれどここで終わりにしようーー



 アスフィーが好きだと言った、強い俺はお前の弱さを殺してやる。



 あの時の俺と同じーー刀を構えて立ち向かう。



「アスフィー……!『かかってこい!相手になってやる!』」



 そんな俺を見て、どうしても消えない『好き』の気持ちに胸を苦しめる。


 涙を袖で拭い、デスサイズを構えで向かい合う。



「……私が貴方に勝てば、私の望みを聞いてください……!」



「……あぁ分かった。お前が勝てば、俺はお前の物になってる。約束する」



「……はい!」



 その直後。


 俺は居合の構えで、アスフィーの懐に急接近。



 敢えて危険な間合いに飛び込んで、アスフィーの攻撃を誘った。


 俺はアスフィーの”ある事”を見抜いていたーー



「……来い!」



「私の勝ち……っ!」



 アスフィーが近づく俺めがけて、大鎌を振り回して迎え打とうとしたーー


 その直前、アスフィーの全身に、謎の激痛が襲い掛かる。


 同時に全身の力が抜け落ち、身体の痛覚を除く全ての感覚が無くなった。



 崩れていくアスフィーの前に、俺は大鎌を刀で弾き飛ばした。



「俺”達”の勝ちだ!」



「……俺”達”!?この全身の痛みはまさか……!」



 アスフィーの身体の異変の正体。それはーー


 見ていたモモは、涙を流してそれを言う。



「これは……お姉ちゃん!」



 そうこれは、ブルーベルとの戦闘で負ったーー凍傷による影響の現れ。


 遅れて今になって、アスフィーの身体に残っていたダメージが、全身麻痺という形で現れた。



 まるでブルーベルが、俺を助けてくれたみたいだった。



「どうだアスフィー?まだ来るか?」

 


「……いいえ。私の負けです……もう動けません……」



 プライドの高いアスフィーの口から、負けの言葉を言わせた。


 仰向けで横たわるアスフィーは、静かに涙を流していた。



「お前が何度攻めてきても、俺はこうして打ち倒す……!」



 全身に力が入らず、立ち上がる事すら困難なアスフィーは、ただ泣き崩れるしか無かった。


 そんなアスフィーをーー俺は背中に背負って歩き出した。



 当然モモは驚いて、俺に思わず問い掛ける。



「助けるの……!?」



 もちろんブルーベルの仇で、白雪を酷い目に合わせた本人を、救うのは正気の沙汰じゃない。


 けれど俺は、迷わずアスフィーを連れていく。

 


「こいつはもう動けないよ。もし来ても俺が叩き潰すし、お前達を必ず守るよ。それにねモモ……以前の白雪ならこうしたと思うんだ」



 隣で聞いていた、記憶を無くした白雪はーーニコッと笑って微笑んだ。



 そんな白雪の笑顔に、アスフィーはすすり泣きながら言った。


 ボソッ呟きながらーー


 

(敵わないなぁ私……)



「え?何?」



「……私、白雪あかねさんに負けないくらい、素敵な女になりますから……!振り向かせてみせますから……!」



「あぁやってみな。但し、正当法でな。俺はーー強くて優しい人が好きだから」



「その時はまた、勝負してくれますか……!?」



「いつでも相手になってやる!その時は、俺たち全員がお前を心から”仲間”だと思える……そんな日が来るのを祈ってるからな……!」



 それを聞いたアスフィーは、安心したようにーー眠るように気を失った。


 ”仲間”という言葉が嬉しかったのだろうか。


 まさか俺の口からそんな言葉が出てくるなんて……



 これらは白雪やブルーベルから教わったんだ。


 これからは俺が、皆を支えて守っていく。



 俺の名は照井悠也てるいゆうや


 この異世界で始まった第2の人生。



 必ず幸せをこの手で掴み、どんな敵も俺が倒してやる……!


挿絵(By みてみん)

最後までお読みいただきありがとうございました!

次回作は12月中旬にUpします!

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