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No.14 私が貴方の一番になるんです




 同時刻ーー



 俺ーー照井悠也てるいゆうやは、洞窟の奥で白雪あかねと再開した。



 しかし白雪は、自分を含む全ての記憶を失っていた。



「白雪……!?何で……!?俺だよ!悠也だ!」



「ご、ごめんなさい……!貴方は誰ですか……!?」

 


 白雪は怯えたように、何度も俺の問いに首を左右に振った。



「そんな……!嘘だろ……!?」



 頭を抱えている所で、諸悪の根源とも呼べる女が現れた。


 その女は、突如壁にできた黒い扉から現れ、恐ろしい第一声を放つ。



「やっと死にましたー」



 満面の笑顔で現れた、死神ーーアスフィア・リ・コンソラトゥール。


 黒マントがあちこちボロボロで、足を引きずった様子での登場だった。



 何かと戦闘した様子だったが、手足の凍傷と凍ったマントが、誰と戦ってきたのかを容易に想像させられる。


 そしてその想像の後、俺はやはり先程の聞き捨てならない台詞を聞き返した。



「……死んだ!?おいアスフィー……!お前まさか……!」



 問われたアスフィーは、屈託のない満面の笑みで言い放った。



「はい!やっとやっとやーっと!あの妹もどきを殺れました!ゾンビモンスター大量に送り込んだんです!私の転移『プレイ』は便利なんですよー!」



「あいつらをまさか……!お前ー!」



 俺は怒り狂ったように、刀を構えて飛びかかる。


 しかしーーアスフィーの言う転移のそれは、俺の攻撃を容易に躱す。



「アビリティ”マジシャンプレイ”ーー『アナザーゲート』」



 空間に黒い光を発生させ、俺を一瞬にして呑み込んだ。


 そして俺を目の前に、背中向きで出現させた。



 すぐに何処に移されたのか分からないまま、アスフィーが俺の背中に飛びつくように抱き締めた。



「捕まえましたよ童貞くんーー」



 ぎゅっと優しく抱き締める。


 暖かく柔らかい身体を押し当てて、耳元で甘い吐息混じりで囁いた。



「ーー私に乗り換えてください。この身体を思い通りにしていいんです。貴方なら、私はいつでも濡れて……」



「ふざけんな!それよりあいつらをどうした!?」



「……相変わらず、私には興味なしですか?白雪あかねさんがいるからですか?」



 俺はアスフィーを振り払って言い返す。



「何度も言うが!俺は白雪の事をーー」



 俺の台詞を、アスフィーが遮って言った。



「白雪あかねさんは……もう貴方の事は覚えていませんよ」



 それをアスフィーの口から聞いた瞬間、すべてを理解した。


 

「……お前が」



「はい?」



「お前が……!白雪の記憶を消したのか!?」



 するとアスフィーは恍惚の表情で、まるで至福の喜びのように、満足そうに声を上げた。



「正直これほど上手くいくとは思いませんでした……!」



「……な!」



「忘れたい記憶ーー白雪あかねさんにとって、現世で殺された瞬間の記憶を、何度も掘り起こさせて頂きました。人には言えない事もされたでしょうし、生きたまま身体を引き裂かれたスプラッタ……その記憶を思い出してもらって、おまけに密室に閉じ込める恐怖を植え付けました」



ーーこいつは何を言ってるんだ……!?



 理解ができない鬼畜さに、もはや俺の感情が憎悪で埋め尽くされていくのを感じた。


 開いた口が塞がらない。


 

 そこまでされた白雪は、自己を守るために本能的に、記憶を消してしまったという訳だ。



 世界の全てが分からなくなった白雪ーー


 頼れる物が何も無く、言わば信頼できる人のいない孤独。



 自分さえも何者か分からず、全てに対する疑いが止まらなくなる。


 俺はその気持ちを知っているーー



 世界の全てが“嘘”にまみれた孤独。



 おそらく白雪は、以前の俺と同じ立場で”嘘”の世界に取り残されている。



 アスフィーが続けて俺に、説得するように言い聞かせる。



「白雪あかねさんは、童貞くんのことを綺麗さっぱり忘れてしまいました。つまり、もう貴方の知っている幼馴染は死にました」



「……どうして白雪の記憶を消した?」



「貴方は白雪あかねさんが死んだ後も、ずっと想い続けていました……!ならばいっその事ーー存在そのものを消してみようと思いました!」



 白雪の中で、俺という幼馴染の存在が消えたーー


 確かにこれは、死ぬよりも残酷で悲しく辛いものだった。



 幸せだった思い出ーー


 白雪とした何気ない話や、過ごした日々を俺は覚えている。


 しかしその記憶が、白雪の中で消えてしまった。



 つまり白雪にとって、全てが無かったものとなったーー



 俺はゆっくりと白雪に手を差し伸べる。



「……し、白雪……」



 けれど俺の手すら、白雪には恐怖を感じる対象になる。



「いやぁ!来ないで!」



 生まれて初めて、俺の唯一の拠り所だった白雪に、激しく拒絶された。


 全てはアスフィーの思惑通りーー



「無駄です!その人は”男に”乱暴され殺されたんです!記憶は消えても、トラウマは身体に染み付いて離れない……!反射的に貴方のことも敵として、怯える恐怖を感じてますよ」



 アスフィーはやけにご機嫌そうに、ニコニコとした笑顔で言っていた。



 確かにはっきり言って、白雪の拒絶は胸が張り裂けそうになるほど苦しいものだった。


 心が折れそうになったーー



 けれど俺がここまで挫けず踏ん張ってこれたのはーー俺の記憶の中にいつもいた、笑顔で励ましてくれた白雪のおかげだっだ。


 白雪はいつだって俺に手を差し伸べて、一番近くにいてくれたーー



 この人は他人の不幸を一緒に泣き、喜びを誰よりも笑ってくれる人なんだ。



 “嘘”にまみれた世界の中で、たった一人の天使だった。



 “嘘”に苦しめられた時ーーその時の白雪と同じ事を、今俺がやってやる。



「白雪……怖がらずにどうか聞いてくれーー」



 白雪にもう一度手を差し伸ばし、記憶の中の笑顔と同じ、心から安心の笑顔を見せて俺は言う。



「ーー俺はいつまでも、お前の味方だからね」



 これは以前白雪が、何度も俺に言った台詞だった。


 あの時この台詞があったから、俺は何度も立ち上がって来れたんだ。



「……味方」



 白雪の表情から、少しずつ震えが静まっていくのを感じた。



 想いは心から伝えれば通じるーー


 お前は覚えてないかもしれないけれど、俺にそう教えてくれたのはお前なんだ。



 俺は白雪の頭を優しく撫でて、くるっとアスフィーの方を振り返った。



「悪いけどアスフィー……俺は、白雪あかねを死んでも愛してる!俺はこいつと、泣く時も笑う時も、隣に立って手を引いて歩いていく!それが俺の生きる意味だ!」



 それを言われたアスフィーは、絶望したように笑顔が消え、その場に膝をついて崩れ落ちた。



「そんな……!何で……!?何ですか!?もう貴方のことを覚えてないんですよ!?白雪あかねの中にいた貴方は、もう死んだんです!」



「そうかもしれない……」



「そうです!だからーー」



 アスフィーがそこまで言った所で、俺は構わずーー白雪を抱き寄せて立ち上がらせる。



「白雪の中にいた俺は確かに死んだ……けどな、俺の中にまだ白雪が生きている!」



「……!」



「それに、もう別に関係ない」



「関係ない……!?何がですか!?」



「これから俺が、白雪を隣でずっと笑わせる!それだけだ!」

 


 

 俺はまっすぐ真剣な眼差しで言い放った。


 返す言葉を失っていたアスフィーは、肩を落として落胆する。



 構わず俺は振り返る。


 白雪を抱き抱え、身体を横にしてお姫様抱っこ。



ーーい、一度やってみたかった……お姫様抱っこ



 首と膝下をしっかりと持ち、落とさないよう抱き抱える。


 白雪が落ちないように、俺の首の後ろに両手を回す。

 お互い顔がーー息がかかるくらい、距離が近くなっていた。


 キョトンとする白雪とは反対に、俺は思わず赤面して恥ずかしがった。


 けれど両手は白雪を抱いていて塞がっている。

 当然ながら照れを隠せない。



 改めて白雪の顔をよく見ると、あまりの美人ぶりに、俺の心拍数が急上昇。


 昔からアイドル顔負けの美少女だったが、成長した白雪は、全身に大人の色気と魅力を漂わせる。



 その憧れの愛しい白雪が目の前で、俺の腕の中にいる。



ーーすぐにここから出ないと……!今度はもう絶対に、白雪のことを離さない!



 白雪を抱いたまま、座り込むアスフィーを横切って、早足でこの場から離れた。



 

 走る俺を下から見上げていた白雪が、恐る恐る俺に問う。



「……わ、私は……貴方の何だったんですか?」



 いきなり答え辛い質問に、俺は思わず笑いがこぼれ出た。



「そうだなぁ……こんな形になってからでごめんだけど、俺は幼馴染で、白雪ーー君のことが、大好きだったんだ」



「えっ……!そ、そそそ!」



 それを聞いた白雪は、顔を真っ赤に染めて照れる。


 昔からそうだ。

 白雪は表情が分かりやすく、真っ赤に染めて恥ずかしがる。



 その昔と同じ白雪を見て、俺は思わず嬉しくなった。



「もう君には、ありがとうじゃ足りないくらい、素敵な想いをたくさんもらったんだ。だから今度は俺が、君に幸せな想いをあげる番」

 


 洞窟の出口が近づき、外が見えてきたその時ーー



 突如俺の目前に、黒い光の門が現れた。



 中から出現したーー俺たちよりも遥かに大きい、4メートルはある巨大なモンスター。


 手に持っている俺くらいの大きさはある鉄の棍棒を、出現と同時に振り回す。



「ぐわぁっ!」



 白雪と俺は同時に叩きつけられた衝撃で、壁に激突するように突き飛んだ。



 すぐに立ち上がり、そばで倒れていた白雪に近寄るがーー


 

「白雪!おいしっかりしーー」



 今にもこちらを殺そうと、棍棒を振りかざすモンスターの姿に気がついた。


 白雪を強引に抱き寄せて、すぐさま一緒に右へ飛んで回避する。



 棍棒が地面に落ちた瞬間、重い衝撃が地面を伝って響いてきた。



「何だいきなり!?くそっ!」



 俺は刀を素早く抜いて、隙ができたモンスターの懐を狙って突き刺したーー


 刀に光を灯し、重い一撃を放つ。



「アビリティ”ソードプレイ”ーー『プロミネンス』」



 この『プレイ』は、相手に重い一撃を与え、身体の内部を一瞬にして焼き尽くす技である。


 しかしーー



 ガキーン!!



 刃がモンスターの硬い皮膚で弾かれ、俺はよろけてふらついた。



「なっ!しまっーー」



 一瞬の晒した隙により、モンスターの棍棒が俺を更に吹き飛ばした。



 『プロミネンス』は内部を焼き尽くす協力な技であるが、敵内部に刃が突き刺さらなければ効果は得られない。



 絶体絶命の中、不敵に笑うアスフィーが、黒い光と共に現れた。



「こんにちは童貞くん。私で童貞捨てる気になりました?」



「なっ……!アスフィー……つまりこのモンスターは」



「はい。私が召喚してあげました。名前はトロールゾンビです。動きが鈍いですが、強大なパワーと強固な硬さを持っています」



 あのアスフィーが、俺に攻撃を仕掛けてきたーー


 つまりそれは、アスフィーにとって吹っ切れた証。



「お前……!俺を殺しに……!?」



「いいえ。貴方も白雪あかねと同様、記憶をリセットしてあげようかと思いまして」



「なんだって……!?」



「貴方の中にいる白雪あかねを殺して、私が貴方の一番になるんです」


 

 トロールゾンビが雄叫びと共に、棍棒を再び振り上げる。


 それを見た白雪がーー俺の前に背中を向けて、トロールゾンビ相手に丸腰で立ち向かう。



「止めろ退け白雪!殺されるぞ!」

 


 武器も何も持たない白雪が、無謀とも言える行動に出た。


 確実にこのままでは殺されるーー



 けれど白雪は、そんな状況の中でーー驚きの台詞を口にした。



「貴方は逃げて下さい!私ならどうなってもーー」



 そこから先の台詞は、俺が意地でも言わせなかった。



「馬鹿言ってんじゃねぇ!お前は俺が守るんだ!」



 記憶を無くした白雪は、こんな時でも他人のために、身体を張って助けようとするーー


 俺は白雪がそういう女だから、救われ、幸せという言葉を教わったんだ。



 白雪を守る!俺がこの手で!今度こそ必ず!


 

 俺は白雪の手を掴み、引き寄せて抱き締める。


 そして白雪の背中に手を回しーーキスをした。



 白雪の体温と感触が、俺の中に溶け込んでくるような感覚だった。



 二人は同時に目を閉じーー想いを力に変えた。



 次の瞬間ーー


 白い眩い光が現れ、トロールゾンビの身体を貫いたーー



 俺の刀がその光に包まれて、敵を貫く力を放っていた。


 白雪と繋がった事で、想いを引き継ぐように受け取った力。



「アビリティ”ソードプレイ”ーー『ライトニングキル』」



 それは白雪が以前使っていた、光の斬撃を放つ『プレイ』。


 この眩い光は、強固な鎧さえも貫く。



 それを見たアスフィーは、壊れるように発狂して泣き喚いていた。



「いやぁ!嫌!嫌!嫌よそんなのー!私が貰うはずだったファーストキスがー!!」



 けれどその叫びは、俺達に届く事はなかった。


 

 俺は白雪を守り、どんな奴もぶっ倒す!



 今度は刀の光を黒に変え、貫いた風穴に重い一撃を喰らわせた。



「アビリティ”ソードプレイ”ーー『プロミネンス』」



 敵の内部から、強力な火柱が突き抜けたーー


 灰となった敵モンスターを振り払い、手を白雪に向けて差し伸べる。



「おいで白雪」



 白雪は頷いて、俺の手を握って近付いた。


 泣き崩れていたアスフィーが、最後に大声で問い掛けた。



「童貞くん!何処へ行くの!?これから私抜きでどうするの!?」



「……決まってんだろ」



「……え!?」



「俺は白雪と、どんな世界だろうと一緒に乗り越える!そして無くした記憶は戻らなくても、これから俺がーー白雪をこの手で必ず幸せにする!」



「私……!貴方がいないとダメなんです……!私もずっと、ずっとずっと独りぼっちでした……!同じ孤独だった貴方となら、私の寂しさを埋めてくれると思ってました……!」



 アスフィーも俺と同じ、孤独の人生を歩んで来た。


 けれどアスフィーは俺と大きく違う選択を歩いたんだ。



「だからと言って、他人を傷つけて蹴落としていい理由にはならないだろ……!俺は白雪と出会い、それを気付かされてきた……!だからこの世界で、俺は白雪の傍を歩いていく……!」



「……この異世界で、貴方方二人揃って生き延びるなんて、到底出来ませんよ……!」



「いいや分かってないなアスフィー。どんな強敵が来ようとも、俺は白雪の手を絶対に離さないーー」



 白雪にもう一度、手を差し伸べて選ばせる。



「ーー一緒に行こう白雪!俺と一緒に、世界の色んな所を見に行こう!」




次回最終回は29日投稿予定です!

応援よろしくお願いします!

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