No.12 殺されるのも嬉しい
※
一時間後。
ここは大地が草花で覆われ、広大な草原となっているエリア。
東から北に向けて、超速で移動する2人の人物がいたーー
「早く!白雪が俺を待ってる……!」
ーー俺……照井悠也だった。
幼く軽い身体のブルーベルを、俺は背中に乗せておんぶしながらーー新しく覚えた『プレイ』を使って高速移動していた。
「アビリティ”サポートプレイ”ーー『スピードホッパー』」
俺の両脚に出現していた、黒い影のような暗い光ーー
膝下から覆う、ブーツの様な形状の黒い影。
この影を履いた俺の脚力は、身体が飛び上がる程の跳躍力を実現させる。
本来この『プレイ』は、自分の3倍以上の高さまで飛び上がる技であるが、俺はこの力を縦の高さではなく、前屈みで横軸に跳ぶ力に応用。
一蹴りで5メートル程の高速前進が可能になる。
俺におぶられていたブルーベルが、背中にしがみつきながら声を出す。
「ファングゾンビを倒した時に得たPPを、まさか『サポートプレイ』に振り当てるなんてな」
「別にいいだろ……!もう攻撃技は一まず充分だ!」
「いや、素晴らしい判断だったと思うよ。『プレイ』の何を習得するかは、その人の性格や戦闘スタイルに関係するらしい。現に目的地に早くたどり着きたい悠也にとって、まさに天性の才だな」
しかしこれには大きな懸念点が存在するーー
一度の跳躍で、『プレイ』の効果が消滅する。
つまりその度再度『プレイ』を発動させ、それの繰り返しで長距離移動しなければならない。
ーーくそっ……!面倒だ!けれどこれなら車を使うより圧倒的に早く、白雪の元へたどり着ける。
俺は絶え間なく『スピードホッパー』を使い続けた。
焦る気持ちが先走るーー
「早く……!早く!白雪……!」
着地して、そして再度『プレイ』を使用して跳躍する。
それ繰り返してると、突然後ろのブルーベルが大声で言った。
「おい悠也!無理し過ぎだ!一度止まれ!」
「え……!?」
ブルーベルの大声の数秒後ーー
突如俺に、謎の息苦しさが襲いかかった。
ーーぐっ……!
俺は急いで立ち止まり、ブルーベルを降ろして膝を着いた。
疲労や怪我といった類いとは違う、例えるならまるでーー心臓が削り取られたかのような、意識を失い掛ける苦しみだった。
俺から飛び降りたブルーベルは、すぐさまアイテムを取り出した。
「ったく……だから無茶するなって」
青い液体の入ったガラス瓶。
俺の口に運び、中の液体を飲ませた。
飲み込むと次の瞬間、先程の苦しみが嘘のように楽になった。
「はぁ……はぁ……な、なんだ今の……!?」
「そうだな……ゲームで言う、MP切れって所か」
「なっ!?」
ゲームなどに存在する、HPとはまた違う、もう一つのステータスポイント。
主に魔法やスキルを使用する際に、消費するポイントの事を指す。
先程俺は、『プレイ』を休み無しで使い続け、底が見える程に消耗したと考えられる。
仮にこの異世界にもそのパラメーターが存在するとして、消耗すると苦しくなるなんて話は聞いたことが無い。
「正確には、『プレイ』の代価として、魂の霊力を消費するんだ」
「魂の霊力……!?」
「消費し続ければ、当人の魂は底をつきーー身体は残って中身の魂だけ朽ち果てる……!気をつけて使え!」
「そんな大事なことは先に言え!じゃあ何か!?俺は今死にかけたのか!?」
「そう怒鳴るな万年発情期よ。私の薬飲ませてやっただろ」
「誰が発情期だ!って……なんだ。薬飲めば回復するんだな?」
いい知らせにホッとした所で、ブルーベルはあっさり俺の安心を切り捨てた。
「あぁ、けど今のが最期の一個だったがな」
「なんだって!?じゃあ今後どうやって戦っていけばいいんだ!?」
「だから落ち着け発情期。魂は時間が掛かるが、スタミナと一緒で元通り回復していく」
それを聞いて、今度こそ完全に一安心。
今度からは倒れないよう、使い方を考えないとーー
再びブルーベルの手を繋ぎ、背中に乗せた所である光景に気がついた。
「……あれは!」
進路の先で、ボロボロになって倒れている一人の人影があった。
遠目から見て、一瞬である人物であることが分かった。
髪が紫色のショートカットで、黒いマントを身に纏うーー
「アスフィー!?」
俺達はすぐに駆け寄って、その状態を確認した。
所々切り裂かれたマントに、腕や脚に怪我の跡が見える。
アスフィーはうつ伏せで、眠るように気を失っていた。
俺はすぐさまアスフィーを抱き起こし、揺すりながら名を何度も読んだ。
「アスフィー!おい!アスフィー大丈夫か!?」
「……う、うぅ」
アスフィーはゆっくりと目を開き、消えそうな弱々しい声で答えた。
「……あっ、童貞く……ん」
そして俺の事を理解すると、アスフィーの目から涙が溢れ出た。
「アスフィー大丈夫か!?何があった!?」
「童貞くん……!ご、ごめんなさい……」
「え!?」
「私……貴方に白雪あかねさんを会わせたくて……連れて来た」
「白雪を!?」
アスフィーは辛そうな表情で、苦しそうに謝った。
「ごめんなさい……!白雪あかねさんを連れて来ました……ですけど、途中でモンスターに……!」
そこまで言ったところで、俺達は最悪の想像が容易に出来た。
傷だらけのアスフィーを見るにーーここに来る途中で敵わないモンスターに遭遇し、連れて来たと言う白雪とはぐれた……という事か。
ーー多くの人はそう予想した瞬間疑う事を止めるだろう。
そこで俺は傷だらけのアスフィーに、かなり厳しい一言をぶつけた。
「アスフィー……白雪を”何処へやった”?」
厳しい言い方ーーそれは自分でも分かっていて、あえてそういう言い方を選んだ。
アスフィーは思わず、目を見開いて戸惑った。
「え!?ちょっと酷いですよ童貞くん……!モンスターに襲われてはぐれたんです!まるでそれだと私が、白雪あかねさんを何処かへ誘拐したみたいじゃないですかー」
悲しむ素振りを俺達に見せ、自分の無実を主張する。
アスフィーに対して信頼が無いのも事実だが、それ以前に俺はこいつの違和感に気が付いていた。
「アスフィーお前さ……”嘘”付いてるだろ」
「え!?い、嫌だなぁ童貞くん……!私”嘘”なんてーー」
そこまで言ったところで、俺はため息を吐きこぼして言い返す。
「お前ってさぁ、”嘘”つく時にする笑顔……目が笑ってないんだよ」
「そ、それは……私今怪我してますからーー」
「ほらやっぱりーー目……笑ってなかったんだな」
俺は台詞に鎌をかけていたーー
本来『目が笑っていないぞ』と言ってやれば、まず『そんな事ないよ』と否定する。
しかし自覚のあったアスフィーは、自然と何か言い訳を口走る。
『嘘』を使う人間は、真っ先に言い訳が頭に浮かぶーー
アスフィーに感じた僅かな違和感。
俺が今までの人生、幾度となく味わって来た胸のざわめき。
自白に追い込まれたアスフィーは、返す言葉を失った。
「あっ……!それは……!」
俺は突き放すように、立ち上がってアスフィーを見下ろした。
「俺に『嘘』が通用すると思ったのか……?本当にお前さ、俺の事理解して好きって言ってんのか……!?」
俺という人間が、これまでどれだけの『嘘』に苦しめられ、絶望を味わって来たかーー
改めて思い出したーー白雪ならこんな下らない『嘘』は使わない。
それらのやり取りを見ていたブルーベルが、刀を抜いてアスフィーに向けて言った。
「さぁ死神……!悠也の女を返しな……!私は会ったことないが、お前如きが敵う女じゃねぇよ……!」
アスフィーの表情から笑顔が消え、肩を落として座り込んでいた。
そしてゆっくりある方向に指差して、消えそうな声で言った。
「……あっちです」
その指の方向ーー大きな洞窟の入口を指差していた。
「ここは……?」
「……洞穴ダンジョンです。難易度が高いので、白雪あかねさんを誘き寄せました……より苦しんで消えていただきたかったので……」
開き直ったように本性を語るアスフィー。
怒りを覚えた俺だが、それよりも白雪が気掛かりだ。
「お前のその言い草……!白雪はまだ生きてるのか!?」
「……さぁ。あの人、中々お強いのでどうでしょう……もうそろそろ死んでもいい頃ですよね。モンスターがかなりの数ですし」
「お前……!」
アスフィーはゆっくり立ち上がり、ふぅと深く深呼吸。
そして以前のような、明るい満面の笑みを再び見せて言った。
「もし白雪あかねさんが死んだら、私で童貞捨てて下さいね!」
もはや俺は言い返す事も怖かった。
狂気を超え、全身の鳥肌が立つのを感じた。
吐き捨てるように怒鳴り散らす。
「ふざけんな……!白雪が死んだら、俺はお前を殺してやる!」
するとアスフィーは、悲しむでも呆れるでもなくーーただ俺の怒鳴りに喜んだ。
「もう殺されるのも嬉しい……!童貞くんが私を見てくれるのであれば何でも……!」
それを聞いた俺は、とうとう言葉を失った。
歯を噛み締めて、怒り狂いそうになるのを抑えていた。
すぐに白雪を助け出さないとーー
ブルーベルに礼を言い残す。
「ブルーベル……今までありがとう!ここまで同行してくれて助かった……!」
「おいおいなんだ?お別れか?水くせぇな」
「ブルーベル……?」
「私も一緒に行ってやるよ。敵強いんだろ?」
ブルーベルはそう言って、自身の胸に手を当てながらーー
内なるもう一人の妹にーー
「良いだろモモ?悠也に着いて行くぞ?」
身体を共有する妹ーーモモに向けて言った。
次の瞬間、ブルーベルの身体が”入れ替わる”。
髪と服がピンクカラーへと変わり、妹のモモが現れた。
「……うん。お兄ちゃんについて行く……」
先程までの強気なブルーベルと打って変わり、中身も幼いモモは大人しい性格。
俺の裾の裏に隠れ、怖がるようにアスフィーを警戒する。
それを見たアスフィーは、歯ぎしりしながら言い放った。
「何がお兄ちゃんですか……!」
「お兄ちゃんはモモのお兄ちゃんだからーー」
そこまで言ったところで、アスフィーは発狂したように叫び出した。
「童貞くんは私のなんだから!気安く触れないで!」
今にも暴れだしそうな迫力に、モモは完全に俺の後ろに身を隠す。
俺は手を広げてモモを庇う。
「……お前のでも無いだろうが」
モモの腕を引っ張って、アスフィーを置いて駆け出した。
白雪の待つーー洞窟の奥を目指して中に入る。
ーーーー
刀を構えた俺を先頭に、モモが弓で背後を警戒。
30分程奥を目指して歩き続け、何度も白雪の名を叫んで呼び続けた。
「白雪ー!俺だー!照井悠也だー!」
途中何度か小型のモンスターと遭遇し、それらを打ち倒して来たがーー
「……お兄ちゃん」
「どうしたモモ?」
「……なんだか、敵が少し弱い……?」
ーー確かに妙だ……
ここまで苦戦と言える戦いは無く、まだ外にいたモンスターの方が強く感じていた。
アスフィーはこの洞窟に強敵がいるから、ここに白雪を誘い入れたと言っていた。
それにもう一つの違和感があったーー
入口からここまで、岐れ路と呼べる道が一つもない。
曲がり角は幾度かあれど、一本の道で繋がっていた。
ーー何かがおかしい……!この洞窟は何かが変だ……!
そう違和感について考えていたその時ーー
俺達は行き場のない行き止まりに差し掛かった。
「なっ!?嘘だろ!?ここで終わり!?」
急いで辺りを見渡し、そこらを触れて確かめた。
けれど特に変わった所はなく、それが現状詰みを意味していた。
「お兄ちゃん……あの死神、これも嘘なのかな?」
「……いや、だとしたら理由は何だ?俺達を遠回りさせ、時間稼ぎでもしたつもりか……?」
アスフィーの真意を考えていた次の瞬間ーー
またも俺達の間に異変が降り掛かる。
ゴゴゴゴゴゴ……!
突如洞窟内に大きな揺れが襲い掛かり、俺達は身動きが取れず跪く。
「お兄ちゃん……!」
「落ち着けモモ!急いで外にーー」
俺がそこまで言ったところで、俺とモモの間に大きな壁が現れた。
地面から出現した壁は、真っ直ぐ入口まで伸びた巨大な壁。
天上までびっしりと隙間なく塞ぎ、俺とモモも完全に分断させたーー
「お兄ちゃーー」
モモの声が壁で途切れ、俺は壁を叩いて名を叫ぶ。
「モモ!モモー!!」
モモの声が途切れた事で、俺の声も同様に向こうに伝わらない事を意味する。
コンクリートのように硬く厚い壁。
これは『プレイ』を使っても、勿論力づくで壊せるような壁ではなかった。
ーー何だ……!?急に何なんだ……!?
困惑した状況の中、更なる出来事が絶え間なく降り掛かるーー
新たな道がゆっくり開き、俺はすぐさま刀を構えて警戒した。
そこに現れたのはーーある意味予想をはるかに超えた光景だった。
目の前に現れたーー
ボロボロに疲弊したーー白雪あかね本人だった。
「……うぅ」
俺の顔を見るなり、ふらっと意識を失い倒れ込んだ。
すぐさま俺は刀を投げ捨て、倒れた白雪を抱き抱えた。
「白雪ー!!!」
再会に思わず泣き出しながらーー
傷だらけで、衣服がボロボロに破れた白雪の姿に、俺はすぐに容態の心配をした。
「白雪!白雪!!俺だー!悠也だ!!」
呼ばれた白雪はゆっくりと眼を開け、朦朧とする意識でーー衝撃的な事を口にした。
「……ゆ、悠也……?」
「あぁそうだ!悠也だ白雪!」
「悠也……あ、貴方は……誰……?」
「……えっ!?」
「わ、私は……誰?」
※
壁を挟んだ反対側ーー
一人取り残されたモモは、怯えるように震えながら縮こまる。
「お兄ちゃん……!お願いお姉ちゃん助けて!」
刹那ーー
モモの叫びで、同時に姉のブルーベルへと入れ替わる。
髪や服がアイスブルーへと変わり、刀に持ち替えて内なるモモに呼び掛けた。
「大丈夫だモモ。お姉ちゃんが付いているぞ」
その直後ーー
突如入口の方から聞き慣れた声がやって来たーー
「あら……道を間違えましたね。これはこれは……童貞くんの周りにまとわり付いていた、自称妹ちゃんこんにちは」
ニコッと優しい笑みを浮かべたーーアスフィア・リ・コンソラトゥールとのご対面。
いつもありがとうございます!
最終回までラストスパートですね!





