表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/15

No.11 悶々とする気持ち

 俺とブルーベルは、白雪あかねの所属するギルドーー『OASISオアシス』の後を追って歩き出す。






 同時刻ーー



 ここから南東に10km先の地点で、次の街を目指して歩いていた集団がいた。


 『OASISオアシス』の隊列ーー



 先屈強な肉体を持つ、長身の”ヒエロニムス”隊長が、白い大剣を背中に背負って先頭を歩く。


 生前はヨーロッパに住む、元軍人というキャリアと、40歳という最年長と、高いカリスマ性から隊の指揮を任されている。


 

 最後尾を任されていた、隊のサブリーダーであるーー白雪あかねはここに来るまで間、悩みを抱えながら歩いていた。



「あれは照井くん……いや、もしほんとに照井くんだったら……」



 ボソボソと呟きながら、幼き日の照井悠也てるいゆうやと、先程のーー街で聴いた声を思い出して脳裏で繰り返す。



『白雪ー!!!俺だー!!!』



 後ろの方から、わずかに聴こえた男性の声。


 しかし白雪が声の方を振り返った時には、闇の光がその何者かを飲み込んで、連れ去るように消滅する瞬間だった。



 誰かが確かに”白雪”と叫んだ。

 

 白雪の事を知っている人物。



 顔や姿は見えなかったが、白雪にはあの男の声が、生前の頃の幼馴染ーー照井悠也てるいゆうやである気がしてならなかった。



ーー今すぐ街へ戻りたい。行って本人かどうか確認し、会って胸の内を打ち明けたい。


 白雪はそう何度も、心の奥底で叫んでいた。



 悶々とする気持ちで進む中、白雪の隣を歩いていた少女が声を掛けた。



「だ、大丈夫ですか……?」



 それは先程白雪が救出した、中学生くらいの少女だった。


 今は『OASISオアシス』が保護し、一緒に行動を共にしている。


 人間のいない街で独りで生きるより、共に行動した方が安全であり、少女にとってもそれが安心だ。



 この異世界に転生してきたばかりらしく、不安であるはずの少女。


 そんな少女に顔色を見られ、心配までされた。



ーー何やってるの私は……!隊の皆を守る立場なのに……!いつまでも思い悩んでちゃみっともない!



 自信に説教するように、脳内で喝を入れて気合を入れ直す。



「ありがとう。心配かけてごめんね。ちょっと確かめたいことがあったの」



 頭に付けていた、雪結晶の髪飾りに手を当てる。

 これは幼少期に貰った、白雪の生涯たった一つの想い出の品。


 白雪にとって、これは御守りの役割を果たしていた。



ーーうじうじしてちゃダメだよね……!照井くんに笑われちゃう……!照井くんに、強く可愛くなった私を見てもらうんだから!



 白雪は早足で、隊の最前列へ足を急ぐ。



「隊長……!ヒエロニムス隊長!」



 隊長のヒエロニムスは足を止め、後ろから来た白雪の方を振り返る。



「どうした白雪?」



「お願いがあります隊長!私に先程の街でもう一度、避難民の救助に向かわせてください!」



「その話か……!お前の幼馴染がいたかも知れないと言う……」



「はい!とても大切な人なのです!だからーー」

挿絵(By みてみん)


 白雪は数分前、隊長にこの件を伝えている。



 しかし先程は敵モンスターの襲撃に合い、OASISオアシス一行は街を離れてしまう。


 救出した人々を逃がす為、戦いを避けながら移動して、白雪達は街から遠ざかってしまった。



 ヒエロニムスは掌を広げ、念じるように目を閉じる。


 すると掌の上にアイテムを出現。


 綺麗に巻かれた一枚の紙。

 縛ってあった紐を解き、紙を広げて地に置いた。


 アイテムーー異世界地図。



 隊の全員がそれを囲み、ヒエロニムスが地図を指差しながら話す。



「これはこの異世界の全体図だ。各街やダンジョンの詳細は、その場で別に入手する必要があるが、今は異世界全体を諸君等に語るからこれでいいーー」



 地図一面に、大きな楕円形の大陸が描かれていた。


 

「ーー先程いた街は、この異世界で最も東に位置する街。そして我々は今、そこから外周を沿って北に向かっている。皆思い出したくない、辛い過去を掘り起こす事を言うようで悪いが、我々人間が死んで異世界転生してくる際、この異世界の外側に位置する、東西南北いずれかの街から始まる」



 救助民を含め、隊の全員が黙ってうなづいて話を聞いた。



「我々ギルドーー『OASISオアシス』は、外側各都市を巡り、皆のようにこの異世界に放り出された民を救い出す使命がある」


 

 そこまで言ったヒエロニムスは、隣で聞いていた白雪の方を向いて言った。



「いいか白雪。我々は一刻も早く、次の街へ辿り着き、一人でも多くの同志を救い出さねばならん」



「分かってます!ですがーー」



 白雪は幼馴染の顔を想いながら言い返す。


 けれどその途中で、ヒエロニムスは台詞を遮るように言う。



「我々は立ち止まる訳にはいかない。もう誰も殺させる訳にはいかない。だから白雪ーー急いで戻り、お前の大切な人とやらを救い出せ」



「えっ……!」



 白雪は思わず隊長の言葉に驚いた、



 それもそのはず、OASISが遅れれば人が死ぬと、隊長の話が無くとも分かっていた。


 だから白雪は反対される覚悟で、ヒエロニムスに意見した。



 しかしヒエロニムスは同意した。


 地図を片付け、剣を抜いて背を向ける。



「悪いが同志が待っている以上、OASISは止まらず次の街を目指す。だから白雪……急いで戻り、生きて我々に合流しろ。この命令に違反した場合、お前を来世まで呪い罰するから覚悟しろ」



「隊長……!」



「お前の大切な人も、我々人類の同志だ。例外なく、OASISがーーサブリーダーのお前が救う。早く行け」



「はい……!」



 白雪は思わず泣きだしそうになった。


 しかし隊のみんなと、後ろを任せてくれた隊長の想いに応えるため、涙を堪えて返事する。


 

 隊の別の男が、ヒエロニムスにおそるおそる問い掛けた。



「よろしいのですか?」



「案ずるな。白雪がいない間、俺が白雪の分まで隊を護る。そのための隊長だ」



「い、いえそうではなくーー」



 男はチラリと白雪の方に視線を向ける。


 その様子をみたヒエロニムスは、察したように男の肩に手を置いて頷いた。



「白雪の心配か?悪い知らせだが、白雪にはもう心に決めた別の男がいるようだぞ?その男に会いに行くのだろう。白雪の目を見ただろう……心に堅い覚悟を決めた顔だ。こういう時人は強い」



 ヒエロニムスの台詞を聞いた白雪は、顔を真っ赤に染めて取り乱した。



「た、隊長……!べ、別に彼とは”まだ”そういう仲じゃ……!」



 男に会いに行くことを肯定させ、台詞が未来形になっていた事は、皆が察して触れないようにした。



 皆が笑顔で送り出そうとしていたその時ーー



「……白雪さんだけでは危険です。私が御一緒にお供致しますーー」



 突然ーー隊の中から掻き分ける様に前に出て、ヒエロニムスの前に現れた女。


 ニコッと笑みを見せ、それから振り返って白雪の手を握って続けて言った。



「初めましてです白雪あかねさん。私もお供します」



「あ、貴女は……?」



「ふふふ……近くで見ると、より美人で可愛いですね白雪さん」



「え……?」



 突如容姿を褒められ、そして絶えず見せる笑顔で、全員が女の素性を疑わなかった。



 全員が女に対して初対面であるが、人の入れ替わりが激しい状況も続く為、いつから誰が隊に拾われたかは判断出来ないのだ。



 隊の男が思わずボソッと、心の声が口から溢れでる。



「……綺麗だ。綺麗すぎる……」



 整った綺麗な小顔。

 白雪に負けず劣らない、細くモデルのようなスタイル。


 そして何より、思わず触れたくなるような、脚や胸の谷間などの露出が目立つーー黒マント一枚の無防備な姿。


 まるで肌着すら付けていないのではと、女を見た誰もが、思わず妄想を膨らませる。



「私、魔物のいない安全な近道を知っているんです。一緒に連れて行ってあげます」



「ほんと?それは助かるよ」



「いいんです……私、貴女の事をずっと前から尊敬していたんです……」



「そうなの!?嬉しい!前から!?」



「はい。前からですよ。会いたかったです……ずっと……ずっとずっと……ずっとずっとずっと」



「そっかぁ。えへへ。緊張しちゃうな。街に着くまでよろしくね!」



 白雪は女の笑顔に応えるように、眩しい屈託のない笑顔で返した。


 

「……ほんと、綺麗な可愛いお顔ですね白雪さん」



「そう?そうかな?」



 赤面させて照れた白雪。


 女は何一つ笑顔を変えないまま、白雪の手を引っ張って歩き出した。



「さぁ行きましょう白雪さん。”あの人”が待っています」



「うん!がんばろう!」



 この時白雪は、一切疑う事をしなかったーー


 紫髪の女ーー死神の手に連れられて。



「私の名はアスフィア・リ・コンソラトゥールと言います」



「あ、あす……ごめん。なんて呼んだらいいかな?アスフィーとか?」



 白雪は旅のお供である彼女とできるだけ親しくなろうとした。


 アスフィーはもちろん笑顔で応えるのだ。


 けれどアスフィーの笑顔は、白雪のそれとは大きく違う。



 近付こうとする距離感に対し、内心を隠す面として、笑顔を作って見せている。



「……いえ。アスフィアと呼んでくれれば結構ですよ。白雪さんは面白い人ですね。ふふふ」




いつもありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ