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7話 珍品銘菓八角堂=天子の趣味

「いらっしゃい。また来たんだね」

 おじさんが目を細めて天子(てんこ)に会釈をする。

「ここは何のお店なの」

 僕はおじさんに聞こえないように小さな声で天子に話しかける。



「ここは、各国の珍しい食べ物を扱っているお店。このお店には素敵な噂がある、異世界から品物を仕入れて販売している。見て、棚にはなんて書いてあるのかわからない品物でいっぱい。これを読めたものにしか商品は売らない、それがルール。つまり、異世界の人にしかこの棚の商品は買えない。この噂が本当かどうかわからない、でも私はこの棚の商品を買えたことがない」

 天子が怪しげにほほ笑む。



「でも、本当に異世界のものがあるのか気になる。もし異世界があるのなら、私は私自身の眼で確かめてみたい。だから私は何度でもこのお店に来て、棚の商品を注文する」

 天子が商品の一つを取り、おじさんのもとへともっていく。

「今日も冷やかしかい。名前は知っているんだろね」

 おじさんがパイプから吸った煙を天子に吹きかける。天子は「こほこほ」とむせる。

「この商品の名前は、まじゃんくさ」

 天子が手で煙を払いながら商品名を告げる。

「本当にいいんだね」



 どうしてこの商品が読めるのか天子に聞いてみる。

「ふふふ、幼いころに私は山で迷子になった、見知らぬ世界に迷い込んだ。その時、お腹を空かせていた。異世界人はまじゃんくさ、まじゃんくさと言って、食べ物を渡してくれた」

「その時食べたまじゃんくさの味が忘れられなくて、探しているの」

「違う、その時には食べなかった。異世界の食べ物を食べると、元の世界に戻れない。これは有名な話」

天子がはなをふかしながら続ける。



「元の世界に戻るまでは決して何も口にしなかった。運よく、元の世界に戻れた、でも後悔している。あの時に渡されたまじゃんくさからはすごくいい匂いがした。この部屋からもあのとき嗅いだまじゃんくさの匂いがする。だから、時々このお店に来ては、試している」

 おじさんは不敵な笑みを浮かべる。

「この子ほど熱心な子はいないさ。でもね、今回もこれはまじゃんくさではないよ」

 天子がその場で崩れ落ちる。



「今回もということは、この中にまじゃんくさはあるのか?」

 僕は身を乗り出して聞いてしまう。

「さぁ、それはどうだろね」

「あるのかもしれないし、ないのかもしれない」

「おじさんにまじゃんくさ下さいっていうのはだめなの」

 僕が天子に疑問をぶつける。天子が壁の側面を指さし説明をする。

「先ほども説明した、このお店ではルールがある。そのルール、とても変。見てわかる?」



お店の側面には「棚の商品注文の仕方」と書かれた紙が貼ってある。

ルール1:1週間に1回、1商品しか購入できない

ルール2:商品を買うときは、棚から取り出し、その商品の名前を読み上げる。

ルールにのっとれば、このよくわからない文字を読めないと商品を買うことは出来なようだ。



「今回も買えないことは予想していた。だから、今回のメインは、異世界の商品を買うことではない。ふふふ、おじさんだまされた。いつもの、あれを下さい」

「あんたは物好きだね」といい、おじさんが奥の部屋から珍品銘菓と書かれたくじ箱を取り出してきた。天子はおじさんに300円を渡し、くじを一つ引く。

「12番」



 天子がおじさんに番号を告げる。おじさんはカウンターの下から番号が記されたボックスを開けて、商品を取り出す。

「隠し味付き飴玉」

 天子はうっとりとした表情でパッケージを眺める。地雷臭しかしないパッケージを開け、一粒をぼくにくれた。



「同時に食べる」

 既に強烈な異臭を放っている飴玉を目の前にして、僕に告げる。

「この味はどうなのかな。死んだりしないかな」

「大丈夫。既に3回程食べた」

 味については何も述べず、力強く大丈夫だと告げる。しかたなく、僕は誘われるままに一緒に食べる。



 口に入れた瞬間から、この世の汚物という汚物を煮詰めたような味がした。例えれば、口の中にブルーチーズとヤギのミルクを臭豆腐と一緒に煮詰めたようなわけのわからない味がして、吐き出してしまう。



 天子はなんとか我慢してなめているようだが、顔は死ぬほど渋い。とうとう我慢しきれなくなり、僕の飴玉より半分ほど小さくなった飴玉を口から吐しゃした。

「なんの罰ゲームなの」

 むせている天子に率直に尋ねる。このような激マズの食べ物を食べたことがなく、匂いだけで死にそうになる。



「私の趣味の一つ、とても不味いものを探している」

 天子が目を潤ませながら僕に話す。

「ちょっと、意味がわからない」

 あまりのまずさに舌が麻痺したようで、ろれつが回らない口で話す。



「料理は料理人が美味しいと思って開発する。でも、どういうわけかわからない、一部の料理や商品はとても不味い。料理人の意図とは違って、とても不味い。それもチャレンジの結果、料理人の努力。でも、誰にもそのチャレンジが認められないのは可哀そう。」

 天子が悲しそうに顔をうつ向かせる。



「私は、誰かがチャレンジしたもの、そのチャレンジを素直に喜びたい。試行錯誤と実験の上で作り出されたもの、常に私にチャレンジすることの大事さを教えてくれる。私はそのたびに思う、ここまでのチャレンジをしたのか」



 この子は予想以上にマッドな子だなと思うが、突き抜けた馬鹿さ加減に思わず笑ってしまった。

「今回は許すけど、今度は絶対付き合わないからな」

 僕が念を押すように言う。

「残念」

 寂しそうに答える天子を見て、可愛そうに思えてくる。

「このお店の商品は付き合わない。別の場所だったら、たまにだったらいいよ」

 あまりにも悲しそうな表情を浮かべるものだから、僕は励ますように告げる。



「本当」

 先ほどまで泣きそうだった天子の顔がぱっと明るくなる。

「もちろん、今日のお昼に食べたパフェみたいに美味しいものを食べるのが一番重要。でも、不味いものを探すの付き合ってくれる人が出来るなんて思わなかった。とてもうれしい」

 天子が満面の笑みを見せた。「次はどこいこう」と考えているらしく、聞き覚えのない食べ物の名前を呼んでみては考え込む天子を横目に見ながら、僕は店を出た。



あと、1・2回お出かけ編が続きます。

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