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1話 女神との出会い

(改)2019/9/29 読みやすくするために一部削除。

 腹部に鈍い痛みを感じ目が覚める。


「起きて、起きて!」


 目の前に女の子の顔が見える。肌は日に焼けて黒く、黒髪を後ろで結った姿は、活発そうな印象を受ける。



「ここはどこなんだ」



 目の前には見知らぬ家具ばかり。部屋は狭いが、どれも僕が住んでいた家の家具とは比べ物にもならないくらい新しい。



「お姉ちゃん、また異世界ごっこ。あきれた、もう10時だよ。いいかげん起きたら」

 黒髪の少女は部屋の隅に行き、壁を押す。天井が異様に明るくなり、まぶしさのあまり悲鳴を上げる。



「今度は、吸血鬼の真似ですかー。もう、ちゃんと起きてよね」

 黒髪の少女があきれたように肩をすぼめて、部屋から出ていく。

 少女が出ていくとと同時に、眩しさのあまり僕は目を閉じる。



 ベッドと思しきものから出ようと、手を伸ばす。むにっとした生温かい感触が手のひら全体に広がり、ギョッとして手を離す。恐る恐るもう一度触る。

 明らかにベッドにしては柔らかすぎる感覚に意を決して閉じていた目を見開く。



 そこには艶やかな白髪を広げ横たわる、褐色の美女がいた。神話に出てくる創造神の片割れのようなその姿に、思わずのけぞり、ベッドから落ちる。

 部屋中に鈍い音が響き、女が「もうすこし寝かしてよね」とつぶやく。



「お前は誰だ」



 近くにあった棒状のもの(ダイエット器具)を振りかざして女に詰め寄る。



「朝からうるさいわね」

「いいからお前は誰で、ここはどこなんだ」

 女が驚いたように目を開いたかと思うと、「私が見えるの?」と尋ねてきた。

「ついに、ついにこの時がやってきたわー」



 女が飛び起きたかと思うと、僕のほうに向かってきていきなり抱き着いた。



「あなたが転生してから、15年。やっと、目が覚めたのね。願いは何?なんでも願いを一つ叶えるわ。転生時に本当は聞いてやりたかったんだけど、あなた錯乱していたじゃない。


転生したらしたで、記憶を忘れているし。もう、踏んだりけったりだわ。でも、もう大丈夫ね。私が見えるということは前世の記憶も戻ったようだし。やっぱり、あれかしら。この世の全てを手に入れるのが野望かしら。


でも残念ながらそれは複数の願いになりますので、デーキマセン。男の子だったらハーレムもいいわね。あっ、でも今は女の子だからそんな願いはないわよね。


もしかして、ベタに白馬の王子様?それもいいわよね。でも、あんなことがあった後だから、復讐もありかもね。昼ドラもびっくりの恐ろしい奴をお見舞いしてやるから。大丈夫、任せといて」




「待って。話が見えない。ここはどこなんだ?」

「もしかして、今度は日本での記憶をなくしたの?」

「にほん?」

「嘘でしょー。嘘だと言ってよね。ポンコツ、私が願いを聞いて助けてやれないじゃない。」

(しほ)、あなたの最後の記憶はなに?」



 僕は必死に記憶を手繰りよせる。僕はここに来る前、確かに戦場にいたはずだ。







 (ほほ)に鋭い痛みがはしる。唇が切れて、乾いた喉を潤す。

「何を突っ立ている。ここで死んでいいのか。うしお

 戦歴とは似合わず、いたるところがへしゃげた鎧は、痛々しいまでにこの戦場の残酷(ざんこく)さを物語っている。

 彼女が身に着けている鎧の鈍い光とは対照的に、その眼には一筋の陰りも宿っていない。



 幼いころから見知っている彼女は、どんな時もあきらめない。いつも僕を引っ張り、導いてくれた。こんな状況でさえも、彼女がいれば乗り切れると思える。



「あの拠点を制圧できれば、まだ私たちには勝機がある」


 兜から漏れ出た茶色い髪が、乾いた風を帯びてなびく。いつものように、彼女が走り出す。僕はただ彼女の背中を見つめて追うだけでいい。本当に?一瞬、頭に疑問がよぎる。



 村に残してきた、たった一人の肉親である妹は、この戦いが始まる前に死んだと聞いた。妹を助けようと村を守ろうと兵に志願した。でも、本当に必要な時に彼女を守れなかった。肉親と呼べるものもいなくなり、僕の大切な人は目の前を走る彼女ただ一人だ。



 もう、妹のように大切な人が僕よりも前に死ぬのは嫌だ。どんな困難があろうと、どんなに世界が不条理(ふじょうり)で満ちていても、僕が彼女を守って見せる。そう思うと、不思議と力がわいてきた。



 一歩、一歩と彼女へ近づき、ついに並ぶ。彼女が驚いて僕のほうに顔を向けるのが視界の端に映る。僕もそんな彼女の顔を見ようと、左に顔を向ける。「危ない」と叫ぶよりも先に彼女へと身を投げ出した。


 

 背中が熱くなるのを感じる。どうやら防げたようだ。


「良かった間に合って」



 先ほどとは比べられないほどの血が口内に広がる。体を重ねても温もりさえ感じない、荒い吐息だけが相手の存在が確かであることを確認させる。彼女とはこんなふうに抱き合いたかったわけではなかった。



 彼女が必死で僕の両肩を揺さぶる。飛びかけていた意識は現実へ引き戻される。



「ごめん、悠里ゆうり

「ごめんって何よ」


 

 視界が曇り、悠里の表情さえわからなくなる。世界に取り残されたような、真っ暗闇の中で、自分の存在しか感知できない暗闇の中で僕は願った。



「神様、今度は平和な世界に生まれたいな」







 僕が話し終えると、女が悲しそうな顔を浮かべた。

「そこまでなのかー。どんなに遠い昔のことでも、汐にとっては昨日のことなのよね。もう、ビールが欲しい。こんな話、酒なしで聞いてられるか」



 女が右手で丸をつくり、のどに近づける動作をした。



「私はあなたの元居た世界の女神よ。名前はカナイ。もちろん知っているわよね」


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