優しい妖怪の住人達
今年で大学生になった僕は、ここ小さなアパートである『陽快荘』に引っ越してきた。ここに引っ越してきて二つ驚いたことがある。一つは大家さん含めてここの住人達はみんな女の人ですごい美人だった事だ。そしてもう一つはみんなには秘密がある。それは正体が妖怪だと言うこと。
優しい大家さんは山姥、いつも元気いっぱいの猫間さんは猫又、色気たっぷりの土具さんは土蜘蛛、いつもビシっとした天さんは天狗、包容力がすごい釜井さんは鎌鼬、など様々な妖怪がこのアパートに暮らしている。
正体を知った時は怖くなった。でも出て行く気になれなかった。一人暮らしの大学生活での不安な毎日を助けてくれたのは住人のみんなだったからだ。
みんな親切で毎日素敵な笑顔で元気をくれる。僕の食生活を心配してなのか毎日お裾分けをくれる。肉体的にも精神的にも充実した毎日だ。そんな毎日を送るうちに恐怖なんてものは忘れてしまった。
そして毎日のように栄養たっぷりのお裾分けを食べていたせいで太ってしまった。ここに来た時は約60キロぐらいなのだが、1年近く経った現在は約90近くになっていた。完全なデブだ。さすがにマズイと思った僕はダイエットする決意をした。
まず、お裾分けを失礼ながらも断ろうとした。でもできなかった。いつも満面の笑顔で部屋に来てくれる。もし断ったら悲しませてしまうと思うと僕にはできなかった。
そして今日は大家さんから全住人参加の鍋パーティーに誘われている。普段お世話になっている大家さんからの誘いを断れず参加することにした。この体型だしみんなに食べるだけの男と思われたくないので、手伝う事を申し出た。
だが、断られてしまった。毎年の恒例行事みたいなものらしく、自分達だけで十分らしい。さすがに無理に手伝いに行くと迷惑だと思った僕は、パーティーに呼ばれるまで待つことにした。
その間、みんなとの鍋パーティに楽しみにしつつ、今後のダイエット計画を立てることにした。
「鍋!お肉!鍋!お肉!」
「少し静かにしな猫又!包丁が研げないじゃない!」
「まぁまぁ。はしゃぐのも無理なんじゃないか山姥?」
「そうよ。だってあんな上等なお肉だもの…涎が止まらないじゃない」
「ホントいいお肉よね〜。丹精込めて育てた甲斐があったわ〜」
「ふー、包丁も研げたしそれじゃあ…丸々太った肉でも調達してくるさねぇ…」
今宵も年に一度の宴が開かれる。