オオカミと無理に七匹じゃなくても良い子ヤギ
むかしむかしあるところに、お母さんヤギと七匹の子ヤギが仲良く暮らしていました。
「それじゃあ、お母さんは町へ買い物に行って来ますからね。みんな仲良く待っているのですよ」
「はぁ~い」
「それから、お母さん以外の誰が来ても扉を開けてはいけませんよ」
「はぁ~い」
安心したお母さんヤギは、家のドアにしっかりと鍵をかけて出かけていきました。
ところが、それを物陰から覗いている、二つの目があったのです。
森に住んでいるオオカミでした。
「しめしめ、これで家に残っているのは、か弱い子ヤギだけだな……」
お腹を空かせたオオカミは、忍び足で子ヤギたちの居る家へと向かいました。
「さあて、どうやって家に入ってやろうか」
オオカミはドアの前でしばし考えます。
素直にノックしても、子ヤギたちは入れてはくれないでしょう。
「そうだ、この手で行くか」
<中略>
オオカミはついに子ヤギたちの居る家へと入り込みました。
「やっぱ、この<中略>ってやつは便利なもんだぜ」
「ず、ずるいぞ! いつのまに!」
「それは、企業秘密ってやつだ」
子ヤギたちは、部屋の隅にひとかたまりになって震えることしかできません。
「さあ、俺は腹が減ってるんだ。さっそくメシにさせてもらうぜ」
オオカミに睨まれた子ヤギたちは、いっそう震え上がります。
そしてオオカミは、子ヤギたち……ではなく、反対側にある牧草の山に飛び込むと、それをもしゃもしゃと食べ始めました。
なんと、オオカミは筋金入りのヴィーガンだったのです。
「待ってよオオカミさん、それは僕らのお昼ご飯だよ!」
自分たちが食べられずに安心したのもつかの間、大事なお昼ご飯を食べられてしまっては別な意味で困ってしまいます。
子ヤギたちはオオカミを止めようと、周りを跳んだり跳ねたり大騒ぎ。
しかし、オオカミは一向に気にする様子も無く、もしゃもしゃ。
「ふう、食った食った」
やがて牧草の山を一本残らず食べつくしてしまったオオカミは、満足そうにお腹をさすると森へと消えていきました。
「うわーん、僕たちのご飯が無くなっちゃったよー」
「おなかすいたよー」
泣いている子ヤギたちの声をききつけて、今度はひとりの猟師がやって来ました。
「一体どうしたんだ?」
「あのね、森のオオカミがやってきて……」
「なんて悪い奴だ、こらしめてやろう!」
猟師の男と子ヤギたちは、森の中を探し回り、やがて広場で呑気に昼寝をしているオオカミを見つけました。
「よしよし、よく寝ているな」
猟師は、起こさないようにゆっくりと近寄ると、オオカミのお腹を切って中から次々と牧草の束を取り出しました。
子ヤギたちは、大喜びでそれを食べ始めます。
「さて、あとはなにか代わりのものを……」
猟師は辺りを見回しましたが、あいにく手頃な石などは落ちていませんでした。
「しかたないな」
猟師は背負っていた荷物を降ろすと、その口を開きました。
「それ、なあに?」
「ん? これか?」
興味を持った一匹の子ヤギが尋ねると、猟師は荷物の中から大きな貝を取り出してみせました。
「これはホタテだ」
「すごーい、僕はじめて見たよ。でもおじさん、どうしてこんな物を持ってるの?」
「当たり前だろ、俺は漁師なんだから」
おっと、この男は猟師では無く、漁師なんだそうです。
訂正してお詫びいたします。
「さて、これを……」
猟師あらため漁師の男は、ホタテを次々とオオカミのお腹に入れると、そのまま素早く縫い合わせてしまいました。
普段から網の修繕なんかで慣れているのでしょうか、それは見事な手際でした。
「これでよしと、さあ帰ろうか」
お腹一杯になった子ヤギたちと漁師は、オオカミが目を覚まさないうちに急いで家に帰りました。
「ふあ~、よく寝た。まだお腹が重いな、さすがに食べ過ぎたか」
目を覚ましたオオカミは、水を飲もうと体を起こしました。
しかし、お腹が重過ぎてうまく歩けません。
「おかしいな、昼寝する前より重くなった気がするぞ」
それでも何とか井戸までたどり着いて、桶を引っぱり上げようしたその時でした。
バランスを崩したオオカミは、井戸の穴へと真っ逆さま。
「オオカミに対する虐待の真実を知ってもらいたい!」
オオカミは、そう叫びながら井戸の底へと落ちていきました。
その後、町から戻ってきたお母さんヤギと七匹の子ヤギたちは、末永く幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。