第6章 まさかね(未来サイド)
大会当日、家にいても気が散るだけなので、予定より随分早く会場に着いた。
いつもの練習場とは違うので、慣れる必要もあったし、個人競技とは言え所属先の先輩より遅くなる訳にはいかない。
こんな殊勝な姿を学校の先生が見たら、「なんで学校では不真面目なんだ」ってドヤされるだろうな。
案内図を頼りに進むと、体育館と二手に分かれる所に人影があって、その一人が背格好からして高校生のようで思わず立ち止まる。
悪い事をしてる訳ではないけど、なんとなく知り合いには会いたくない。
色々聞かれるのも面倒だし、学校での「いるかいないか分からない」自分のイメージを崩したくなかった。
艶やかなストレートの黒髪と、すらりとした体躯は最近頭に棲み着いて離れないクラスメートを彷彿とさせる。
まさか、ね。
小学生ぐらいの女の子2人が、眼をキラキラ輝かせながら、その高校生を見上げて話している。
髪で隠れて見えないけれど、口許には笑みが浮かんで、しっかりと聞き入っている。
姉妹かな。
仲が良いのが雰囲気から伝わってくる。
話している内容までは聞き取れないけれど、朗らかな声色で、ますます人違いだと思った。
あの冷淡な三ツ矢さんとイメージ違い過ぎる。
体育館の方に向かう3人の後ろ姿を眺めながら、こんな休日にまで三ツ矢さんの事を考える自分に呆れてしまった。
大会なんだ。集中しなきゃ。
気合いを入れるように両頬を手でしっかり叩きつけて、体育館とは反対の道を行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おっ、気合い入ってんね」
着替えを終えた頃、マキが更衣室に入ってきた。
「家にいるのもあれだしね」
「そうだよな。ここの方が落ち着く。今日は誰か見にくんの?」
「いや。大会がある事も言ってないし」
試合に向けてイメトレをしてると、マキがとんでも発言をしてきた。
「じゃあ、彼女とか?」
「はー?か、か、か、、、」
あまりの爆弾発言に頭はパニック状態だ。
「え?彼女。彼氏がいるって雰囲気ゼロだからさ」
「失礼な!マキこそ男となんて想像つかないけど」
「私は彼女持ちだよ」
「はーーーーー?」
これまた超ド級の爆弾が見事に破裂した。
「ちょっと、そこ騒がしいよ」
周りから注意が入って、慌てて頭を下げる。
「すみません、すみません」
マキは人の気も知らずに、飄々と続ける。
「未来は驚きすぎ。この競技に必要なのは集中力と何事にも動じない心っしょ。そんなんじゃ型ぶれるぞ」
「誰のせいだと!」
先輩方に怒られないよう、小声でなんとか言い返すが、やはりマキには敵わない。
「ま、試合も始まることだし、後でな。お互い頑張ろう。んじゃお先」
さっさと更衣室を出て行ってしまった。
時計を見るとまだ充分に時間はあったので、もう一度腰に回した紐をきつく結び直し、髪も結わえ直した。
「、、、彼女」
その時に何故か三ツ矢さんの顔が浮かんで慌てるが、深呼吸を何度か繰り返して気持ちを整える。
今は、試合に集中。
もう一度型をイメージして更衣室を後にした。