第4章 集中出来ない(未来サイド)
やばい。
なんだったんだ、今の?
教室を出ようとしたら、三ツ矢さんにもろにぶつかってしまった。
大会の日が迫った今、授業中にしてたイメトレを早く実践したくて、焦ってたんだ。
よろける三ツ矢さんが倒れる前に、必死で腕を回したけど、勢いづいていて思わず密着させる形になったのが運のツキ。
何となく知ってはいたけど、スレンダーなのに意外にも胸が大きくて、感触がモロに伝わって、、、。
ああ、なんか変だ。
間近で見た彼女は、私より幾分背が低いせいか、上目遣いに見上げてくるもんだから、余計にタチが悪い。
ビックリして見開かれた瞳は、いつものような冷たさがなくて、凄く子供のように澄んでいた。
普段わざと伸ばした前髪で顔を隠して、伊達眼鏡までかけて直接人と目を合わせないようにしてきたのに、久々に直で目が合って戸惑ってしまう。
それも、よりにもよってあの三ツ矢さんと。
はあ。
集中しなくては。
大会が近いんだ。
きっとあいつも出るはずだし、無様な結果になるのはゴメンだ。
更衣室で着替えながら、自分の身体に残された彼女の体温と、残り香を意識せずにはいられなかった。
ふう。
息をゆっくりと吐き出す。
着衣して、腰に回された紐をもう一度きつく結ぶと、少し冷静になって、呼吸も落ち着いてきた。
前髪が邪魔にならぬようかきあげて、しっかりと縛ると、視界がかっと広がって気合いが入る。
よし。
磨き抜かれた板張りの床はひんやりとして、一歩進むごとに頭がいい感じで空っぽになっていく。
反対に、身体の感覚は研ぎ澄まされていった。
大会前の最後の練習だから、気は抜けない。
頭の片隅に未だ残る三ツ矢さんの瞳を意識から無理矢理追い払って、入り口に着いた。
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「調子はまずまずってとこ?」
制服に着替えていると、少し遅れて練習に来たマキが声をかけてきた。
「まあね。マキは良さそうだったみたいだけど」
「こっちもまあまあだよ」
あの結果を残しながら「まあまあ」って言うのはムカつくけど、マキだから仕方ない。
達観してるっていうか、何事にも余裕ある態度なのは昔からだ。
唐突にマキが聞いてきた。
「なんかあった?」
「え?いや、、、なんも、、、ないけど」
「未来さ。それ『何かありました』って言ってるようなもんだって気づいてる?」
あー、これだからなあ。
マキとは小4で同じクラスになってから、未だに繋がってる数少ない友人の一人だ。
私もマキも、女の子同士のベタベタした関係が苦手で、長電話もしなければ、一緒に遊びに行く事もほとんどない。
かなり素っ気ないぐらいの関係だけど、言いたい事は遠慮なく言えるし、数ヶ月ぶりに会っても、変な居心地の悪さもなく気に入っている。
でも今日学校であった事は、何となく話しづらかった。
と言うより、なんて説明したらいいのかわからなくて、適当に言い逃げる。
「大会終わればすぐ試験だからさ。数学がやばくて憂鬱なだけだよ」
「あっそ。んじゃそういう事にしとくよ」
あんまり突っ込んでこない所も、マキと友達でいられる理由だろうな。
お互い着替え終わって、建物を出た所で別れた。
「それじゃ大会で」
ヒラヒラと手を振って自転車で帰るマキを見ながら、私もサドルに跨がった。
練習中は隅に追いやっていた三ツ矢さんの顔が浮かぶ。
びっくりした顔。
いつもより幼い感じで可愛かったな。
得体の知れない感覚があって、打ち消すように思いっきりペダルを漕いだ。