第3章 一瞬見えた光(時雨サイド)
キーンコーンカーンコーン。
一日の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、
周りから、わさわさと私の席に女の子達が寄って来た。
「時雨様、ご一緒しましょう」
「私が先に誘ったのよ」
「抜け駆けしないで」
ため息をつきたくなるのを飲み込んで、いつものように提案する。
「それでは校門まで皆で行きましょう」
席を立ち、ぞろぞろと連れだって下校する。
教室のドアまで行った所で、勢いよくドンっとぶつかられてよろめいてしまった。
「あ、ゴメン」
そこそこ背の高い私でも少し上を向くほど長身のクラスメイトが、私の腰をグイッと引き寄せた。
「急いでて、ほんとゴメン。平気?」
私が答えるより先に、周りの女の子達が騒ぎだす。
「ちょっと、時雨様に何て事するのよ!」
「怪我でもしたらどうすんの!」
私は、腰に回された腕を否応無しに意識してしまって、上手く言葉を出せない。
初めて至近距離で彼女を見た。
スッキリした顔のライン、引き締まった薄い唇。
首筋はくっきりとして、無造作に緩まったシャツの首元が広がって、しっかり窪みのある鎖骨が見えている。
なんと形容すればいいのかしら。
敢えて言うなら、セクシー。
そんな普段思いもしない単語が頭に浮かんで、余計に内心慌ててしまう。
ふと視線を上げると、普段は長い前髪に隠れて見えない瞳が、眼鏡越しにチラリと覗く。
その刹那、初めての感覚に襲われて身震いした。
今の、何かしら?
もう少しその瞳を覗こうとした瞬間、腕を離され、彼女はもう一度私に謝ると、周りの言葉も無視して走り去っていった。
「なにあれ?失礼な奴」
「あんなダサいの、学校の恥だよね」
「ホント、視界に入るだけで鬱陶しい」
彼女の名前は、宗方未来。
由緒ある宗方家のご令嬢のはずだけれど、常に髪はボサボサ、野暮ったい黒縁眼鏡をかけ、制服も着崩れてダラシがない。
文系科目は出来るみたいだけれど、理数系、特に数学は苦手らしく、追試の常連だ。
でも、知っているのはこれぐらい。
私と同じで、部活や委員会に所属していないから、趣味や特技は分からないし、第一、私自身今まで気にも留めたことのないような存在だ。
男子を差し置いてもクラス一の長身なのに、なぜか存在感があまりないのは、交友関係が皆無だからかもしれない。
あの瞬間、髪の隙間から見えた瞳は、まるで光を帯びているようだった。
一瞬過ぎて、見間違いかもしれないけれど、ほんの少し興味が湧いたのは確かだった。