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ねえ、笑ってよ  作者: Yuriharu
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第18章 見たくない (未来サイド)


改めて、自分をバカだと思う。


「冷淡姫」と影で呼ばれてる三ツ矢さんは、私と違って友達だっているし、男女問わず、学年問わず、誰もが注目する憧れの人。


そんな彼女が笑顔を見せるようになったら、周りがどう反応するか、ちょっと考えれば分かる事なのに、自分の気持ちばかりで思い至らなかったんだ。


月曜日、教室に足を踏み入れた途端、彼女の周りがいつになく賑やかな事に気づいた。

人が多過ぎて、まともに彼女を見ることさえ難しい状態は、尋常じゃない。


人混みの隙間からチラリと顔を見て、理由が分かった。


三ツ矢さんが笑ってる。


その瞬間、まるで胸に矢が刺さったみたいに、強力でジンジンした痛みを感じて、足早に自分の席に着いて机に突っ伏した。


なんで?


土曜日、あの笑顔を見た時には、ずっと見ていたいって思ったはずなのに。

あの時感じた、ギュッと胸が締めつけられるような感覚と、異常な速さでドクドクしてた脈は、決して不快なものなんかじゃなかった。


これは、全くの別物だ。


ただただ息が出来ないほどに苦しくて、目を背けなければ胸になんだか負の感情が広がっていくような。

まるで、弓道を始めた最初の時期に、的を外したり、試合で負けた時の感覚に少し似ている。


今の方が、何倍も、何十倍もドス黒い。


とても見ていられなくて、それからは三ツ矢さんを視界に入れないように徹底的に避けた。

このままの状態じゃ、この苛立ちにも近い感情を彼女にぶつけてしまう気がして、それだけは何としても避けたかったんだ。


翌朝の教室は、更に凄い事になってて、相変わらず笑顔の彼女を見るたびに、イライラした。

彼女を避けようと、昼休みに人気のない校舎裏に行って、イラつきは憤りになってしまう。


三ツ矢さんが、男子生徒から告白されていた。

彼女の人気を考えれば、驚く事ではないんだろうけど、もう『冷淡姫』のカケラもない三ツ矢さんは、そんな時でも表情が柔らかくて、、、。


彼女がどう答えるのか耳に入る前に、耳を塞ぎながら駆け出した。

チクショウ、チクショウ、チクショウ!!


結局、その男子生徒とは付き合うことにはしなかったらしいけど、時間の問題でいずれは誰かと恋人同士になる彼女を見るのかもしれない。

そんな事になったら、視界に入れなくても想像しただけで絶対に自分がおかしくなる。


私があんな頼みごとさえしなければ、、、。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おい、何があった!」


あまりの不出来に、「今日は帰れ」と師範に言われて弓道場を後にした私を、マキが追いかけてきた。


「、、、受験勉強で寝不足」


「バーカ。そんな嘘、冗談にもならない」


さすがはマキ。

その場しのぎの適当な返答を、一蹴する。

ニヤリとすると、爆弾を投下してきた。


「ズバリ、時雨ちゃんだな」


「は?な、な、んなわけない」


「どうした?振られたか?彼女に恋人でも出来たか?」


「三ツ矢さんと、どうにかなる訳ないだろ!」


「は?今更なに言ってんだよ。

あんなに好き好きって雰囲気ダダ漏れだったくせに」


「断じてない!大体、彼女とまともに話をしたのだって、先週が初めてで、、、」


「だから?恋に落ちるのに時間なんか関係ない」


「恋?そんなんある訳ない!」


マキは「ハア」とこれ見よがしの盛大なため息をついて、ガシッと肩を組んだかと思うと、「これからレクチャーの時間な」と言って、私の家に向かった。


まるで自分の部屋のごとく、なんの遠慮もなくドカッと座ると、マキは事情聴取を始めてきた。


「そんじゃ順を追って話してもらおうかな」


こうなったら、満足するまでテコでも動かないのが彼女だ。

渋々、前の試合で彼女を見かけた時から、今の学校での状況まで白状させられる羽目になった。


「なるほどね。未来は完全に時雨ちゃんに恋してると」


「は?話聞いてなかったのかよ。見たくもないって言っただろ!」


「それを世間では『嫉妬』って言うんだよ」


「嫉妬?」


その感情の名前を知らない訳ではないけれど、感じた事はなかった。


「未来は、基本的に他人に受け身だろ。って言うか、関心がない。

中学の時、弓道の試合を熱心に見に来てた2人いたじゃない?

あの子達が未来の事好きだったって知らなかっただろ?」


「まさか。単なるクラスメイトで友達だよ」


「ブッブー。あの2人から相談受けた事あるんでね。

まああの2人は、引っ込み思案だったから、結局告白はしなかったみたいだけど。

未来が知らないだけで、周りは結構色恋で盛り上がってたんだよなあ」


全く知らなかった。


「未来はさ、時雨ちゃんが他の人達にも笑顔なのが気に入らないんだろ。

告白される程、周りを虜にしてるのがさ。

だから見てるのが辛いんであって、時雨ちゃんを見たくない訳じゃない。

彼女が笑ってる姿を見て、惹かれてる周りの人間を見たくないんだ」


ムム。思い当たる節は、、、正直ある。


「まあ今まで未来を見てきて、恋愛に疎いなーって思ってはいたけど、そもそも『好き』って気持ちを知らなかったなんてなあ。

あいつよりひどいな」


「あいつ?」


「同じ学校のダチで、イケメン顔のヘタレ野郎。

臆病すぎて背中押したけど、一応好きって自覚はあったからな」


イケメン顔?もしかするとあの子かな?

試合の後、マキを囲んでいた友達らしき4人の中にいた、カッコいい系の女の子が思い浮かぶ。


「もしかして、試合見に来てた?」


「お、見てたのか?そうそう、隣に超美少女がいただろ?

今あの子と付き合ってんだけどさ、そうなるまであまりにもグジグジしてたのよ。

ビンタ食らわして、『玉砕してこい』って言ってやったってわけ」


「マキ、乱暴すぎ」


「それで目が覚めて、あんなにいい子と付き合えるようになったんだから、感謝して欲しいぐらいだけど」


結果良ければ何でもありなのか?って話なんだけど、、、。

まあ、あの時の様子を思い出したら、まあ普通に仲良さげだったからいいのか。


「未来も、素直になってぶつかりなってこと。

どうせ失うものなんて何もないんだから」


「痛いとこついてくるなあ。

まあでも逃げないで向き合ってみるよ。

せっかく近づけたのに、自分から遠ざかるのはダメだと思うから」


「おう、頑張んな。んじゃ私はこれで。またな」


そう言って、人が見送りするのも待たずにさっさと出て行く。

すると、また玄関のドアがガチャっと開く音がしたので、忘れ物でもしたのかと「マキ?」と呼びかけて玄関に向かうと、マキに背中を押された三ツ矢さんが立っていた。


「んじゃ後は2人でごゆっくり」

まるでお見合いの仲人みたいな台詞を残して、マキが再度去って行く。


まさかの三ツ矢さんの登場に、しばらく無言でその場を動けなかった。




イケメン顔のヘタレ彼女&美少女系彼女が気になる方は、『あなたとの距離』をお読み下さい。

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