第17章 どうして? (時雨サイド)
家に帰ってからも、宗方さんに抱きしめられた感触が残ってた。
スキンシップとかしなさそうな彼女が、あまりにも自然にしてくるから、ちょっと邪推してしまったけれど、5歳の姪っ子さん相手なら多分心配いらないかな。
優しいなあ。
でも、、、5歳と同レベルの扱いかあ。
やっぱり、手強いなあ、、、。
道のりはまだまだ遠いけど、少しは近づけた気がする。
学校での自分を変えるのは正直怖かった。
ひどい言葉を投げられること、無視されること、嫌われること。
高校も3年になって、卒業まであと1年もないのに変える意味なんてないかもしれない。
それでも、好きな人に振り向いてもらいたいと思うし、頑張って変わればもしかしたら、、、。
期待し過ぎかな。
もう一度あの腕に包まれたい。
ドキドキして、きっと恥ずかしいぐらい顔
が真っ赤になってただろうけど、不思議と安心感もあった。
自分の全てを丸ごと受け止めてくれるようで、弱ささえもさらけ出せる。
だって、責められたり嫌われたりしないって、信じられるから。
こういうのを包容力って呼ぶんだろうな。
私も5人兄弟の最年長で、それなりに身についてるとは思うけど、結構いっぱいいっぱいで誰かに頼りたい時もある。
側にいて、寄り添って支えてくれるような人。
今は、その「誰か」は宗方さんしか考えられない。
もっと近い存在になれるように、彼女が望むように「笑って」みることから始めよう。
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月曜日、学校の校門付近で、いつも近くにいることの多いクラスメイトの一団と合流する。
笑顔、笑顔。
傍目からどう見えてるかは分からないけれど、とりあえず今朝鏡で練習した通りを目指して笑ってみた。
「みんな、おはよう!」
、、、。
あれ?
その場が一瞬静まりかえったかと思うと、予想以上の反応が返ってきた。
「三ツ矢さんが笑顔⁉︎」
「なんかあったの?」
「今日の運勢が良いっていう占いが当たった!」
しかも、遠巻きに見ていた人達まで、口々に話題にし始める。
「おい、見たか?冷淡姫が笑ったぞ」
「今日は嵐にでもなるんじゃないか?」
「時雨先輩、素敵すぎ!」
さすがにここまで驚かれるとは、私普段どんな顔してるのかしら?
休み時間がくるたびに、色々な人から声をかけられて、肝心の宗方さんと全然接点が持てない。
朝教室に入った時に一瞥されただけで、その時も長い前髪と眼鏡で表情が分からなかった。
下校時刻に一緒に帰れるかもって期待したんだけど、先に帰ってしまったようで、姿が見当たらなかった。
明日、話せればいいな。
そう思っていたんだけど、、、。
結局、話せないどころか、クラスメイトなのに、まともに顔を合わせることもないまま一週間がすぎてしまった。
勘違いであって欲しいと思うけれど、どうも宗方さんに避けられているみたいで、廊下とか教室内でも声をかけようとする度に、ふいっと違う方に行ってしまう。
長身で脚の長い彼女に速足で歩かれると、走らない限り追いつけない。
体育の時間でもないのに、学校内を走るのは流石にハードルが高過ぎる。
金曜日、帰宅してすぐに自室に引っ込んで、改めてこの一週間を振り返った。
宗方さんの気を引きたくて、なるべく笑顔を心がけたけれど、効果ゼロ。
反比例するように、やたら知らない人から声をかけられて、挙句は数人から呼び出されて告白までされて、戸惑うばかりの毎日だった。
土曜日の出来事は何だったの?
近づいたと思ったのは私だけ?
「笑って」って言われたから、頑張ったのに、、、。
宗方さんなら全部受け止めてくれるって思ってたのに。
そばにいてくれるのが無理でも、嫌われることはないって信じてたのに。
言いようのない悲しさに、顔がゆがむ。
目から溢れ出る涙は、しばらく止まらなかった。