第16章 近づけた? (未来サイド)
身体が自然に動いてた。
傷ついた表情をした三ツ矢さんを見ていられなかったんだ。
前は腰に手を回しただけだったけど、今回は正面から抱きしめたから、どうしても密着してしまう。
彼女も背は高い方だけど、少しでも傷が癒えるように、包むように腕を回すとすっぽりと収まった。
小学生の頃とはいえ、そんな酷いことを言われたら忘れられるはずがない。
彼女から笑顔を奪った子達が憎い。
理由なんて分かりきってる。
きっと彼女は人気があって、それを妬まれたんだろう。
彼女の笑顔は、破壊力バツグンで、見たら心を持っていかれるのは私だけじゃないってことだ。
小さい頃なら、きっと天使みたいだったに違いない。
「むな、かた、さん」
三ツ矢さんのくぐもった声が、腕の中から聞こえてきたので顔を覗き込んだ。
少しは落ち着けたかな。
彼女は真っ赤な顔で、目も潤んでいて、大丈夫っていう感じじゃなかったけど、「ありがとう」と言いながら身体を離したので、私も素直に腕を解いた。
「嫌なこと思い出させてゴメン」
私が聞いたせいで、三ツ矢さんは忘れてたかもしれない過去を思い出して、悲しい顔をさせてしまったんだ。
せっかく笑ってくれてたのに、台無しだ。
自分の馬鹿さ加減に呆れる。
「え?あ、うん。平気」
三ツ矢さんは、心ここにあらずといった雰囲気で返事してから、意外な事を聞いてくる。
「なんか慣れてるんだね、、、その、、、抱きしめる、とか」
「ああ、姪っ子がいるんだけどさ。
怖いこととか、悲しいこととかあると『
ギュってして』ってせがまれるんだ。
やってあげると喜んでくれるから、効果あるのかなって」
「姪っ子、、、。そう。何歳なの?」
「今確か5歳かな。
生意気なこと言う事もあるけど、可愛いよ」
「そっか。うん。宗方さんらしいね」
「え、何が?」
「なんでもない。気にしないで」
三ツ矢さんは、なんか吹っ切れたようにニコッと笑う。
良かった、少し元気が戻ったみたいだ。
しばらくお互いの話をしてから、「そろそろお暇するね」という彼女の言葉を合図に、お開きになった。
玄関を出る前に、三ツ矢さんはクルリと身体を向けると、
「ねえ。今でも私に笑って欲しい?」
と聞いてくる。
私は勢い込んで「もちろん!」と答えた。
だって、こんなに表情豊かなはずの三ツ矢さんを、『冷淡姫』にしておくのはもったいない。
彼女はちょっとハニカミながら、
「それじゃちょっと頑張ってみる」と言って帰って行った。
なんだかすごい一日だったな。
普通なら、弓道の練習に行って、マキとバカなこと言い合って、勉強して終わるはずの週末。
三ツ矢さんと学校の外で出くわしたのだって、あの試合の日を含めても2回目なのに、こんなにいっぱい話して、しかも見たいと願って止まなかった笑顔まで見れて。
なんか、出来過ぎな感じで怖いな。
「頑張ってみる」って事は、学校でも笑顔の彼女を見られるようになるって事だ。
俄然、学校に行くのが楽しみになる。
こんな風に思うのは中学、いや小学時代以来かもしれない。
まさか、自分で自分の首を絞めることになるなんて、この時は思いもしなかったんだ。