第15章 全部知りたい(時雨サイド)
ここが、宗方さんの部屋。
もう少し一緒にいたいと思って誘ったのは私だけど、まさか家にお邪魔するとは予想外だった。
なんだか宗方さんにはいつもビックリさせられるな。
モノトーンだけど、小ぶりのぬいぐるみもあったりして、初めての場所なのに心がほっとする空気がある。
まるで彼女そのものだと思う。
カッコよくて、凛として、可愛いところもあって、それでいて包み込んでくれるような優しさがあって。
ここまでの道すがら、一緒に歩けることで柄にもなくおしゃべりになった私の話を、慈しむような笑顔を浮かべて聞いてくれていた。
知れば知るほど惹かれていく。
宗方さんから「座って待ってて」と言われたけれど、好奇心がまさって部屋の中を色々と見て回った。
参考書や弓道の本が並ぶ本棚には、星や宇宙に関係する本も沢山あって、彼女の興味の一端が知れて嬉しくなる。
机に飾られた写真の中に、先程出会った古谷さんとの袴姿での2ショットがあった。
隣の写真は中学時代かな?
今とは違う制服姿の宗方さんがグループで写っていた。
髪の毛、短かったんだ。
今みたいに長い前髪が顔にかかることも、眼鏡もなくて顔がハッキリと分かる。
「やっぱりキレイな顔」
写真の中で自然に笑っている宗方さんは、両隣にいる女の子達にべったりと腕を絡まれていて、思わずムッとしてしまう。
何、この子達⁉︎
くっつきすぎじゃないかしら。
でも背も高くて、顔立ちも良ければ、きっとモテていただろう。
私だって、こんな人がクラスにいたらすぐに恋してしまう。
同じ学校だったのに、3年になるまで彼女に気づけなかったなんて。
しかもクラスメイトになっても、今まで話すらしなかった。
こんなに素敵な人が近くにいたのに。
なんてバカなんだろう。
もしかして、もう特定の人がいるのかしら?
お付き合いしてる人が、、、。
それとなく、そうでない事を願いつつも、痕跡を探してしまう。
古谷さんは、仲は良さそうだけど、そういう雰囲気は感じられなかった。
高校にはいないと思うけど、中学時代からなら、彼氏だろうと彼女だろうと、いても不思議じゃないぐらい写真の中では一際光っていた。
今日の弓道場も、彼女目当ての女の子達ばかりだったみたいで、今だって学校の外ではきっとモテモテだろう。
古谷さんも、「人気ある」って言っていたし。
宗方さんのことが好きだと気づいて、他の誰かの恋人になっている姿を想像するだけで胸が痛んだ。
私、恋人になりたいんだ。
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宗方さんは、飲み物とお菓子を持って入ってくると、私をジッと見た後に「着替えてくる」と言って、洋服ダンスから服を取り出すと、また部屋から出て行った。
白のポロシャツとビンテージジーンズという、シンプルだけど長身でスリムな彼女が一際引き立つ格好で戻ってくる。
ああ、もう心臓もたない。
カッコよすぎ、、、。
あまりにも似合い過ぎていて、私の好みど真ん中過ぎて、ドキドキが止まらなくなる。
宗方さんは、ちょっとハニカミながら「ありがとう」と言ってくるので、不思議に思って問い返す。
「ありがとうって、なんで?」
「いっぱい笑ってくれるから」
「そんなこと、、、」
「学校で表情を隠してるのはどうして?」
引かれないかな?
ちょっと躊躇ったけれど、結局話すことにした。
「小学3年の時にね、良く遊ぶ仲の良い女の子達がいたんだけど、突然『笑うな』って言われたの。
『笑顔キモい』って、、、。
それから、学校で笑えなくなっちゃった」
その時の記憶が蘇って、ちょっと目が潤んでくる。
慌てて顔を伏せて、宗方さんに見られないようにした。
高3にもなって小学生の時のことを引きずって、バカだと思われたら立ち直れない。
宗方さんが近づいてくる気配がした。
なんだろう?
そう思った直後、顔を上げる間もなく、思いっきり抱きしめられた。