第14章 これは、夢?(未来サイド)
あの三ツ矢さんと、肩を並べて歩いてる。
さすがに夢にだってこんな美味しい状況は現れなかったのに、実際に起こってみると、これが自然だと感じられるぐらい不思議とシックリきた。
「この後、時間あるかな?」
と遠慮がちに聞いてきた彼女の誘いに、一も二もなく頷いた。
試験も近いし、受験生の身としては勉強しないとヤバい状態なのは分かってたけど、こんなチャンスどんな事があってもフイには出来ない。
流石に弓を2張抱えて歩く訳にはいかないので、取り敢えず家に荷物を下ろさなきゃ。
「荷物あるから、一旦家に帰ってもいいかな?」
なぜかちょっと恥ずかしげになった三ツ矢さんが、
「ホントに宗方さんの家に寄らせてもらってもいいの?」
と興奮気味に聞いてくる。
「あ、もちろん」
結局彼女にバッグまで持ってもらって、一緒に家に向かった。
途中、彼女が5人兄弟の長女であること、親代りをする事が多いけど、賑やかで楽しいことなど話してくれた。
「双子の片割れ、夕って言うんだけど、すごく弓道に夢中になってたの。
あの子が何かに興味を持つなんて珍しくて、すっごく嬉しいんだ」
優しい笑顔全開で話す三ツ矢さんを見てると、胸の辺りが熱くなって、なんか脈が異常な速さでドクドク波打つ。
確かに『笑って』って頼んだのは私なんだけど、そんなに出血大サービス並みに振る舞われたら、こっちの身がもたない。
ものすごい破壊力だ、、、。
「汗すごいけど、大丈夫?」
彼女が私の異変に気づいたのか、顔を見上げてきた。
澄んだ瞳にじっと上目遣いで見つめられると、余計に汗が止まらない。
三ツ矢さんはハンカチを取り出して、両手が塞がってる私の顔にそっとあてがった。
「ちょっとごめんね」と言いながら、優しい眼差しで汗を拭ってくれる彼女は、まるで聖母のようで見惚れてしまう。
「行こっか」
私の家に向かうんだからリードしなきゃいけないのに、なぜだか三ツ矢さんがリードしてくれる。
道が交差するたびに、「こっちで合ってる?」「ここは真っ直ぐ?」と聞いてくる姿は、好奇心に満ちた子供のようだ。
道すがら「花がキレイだね」とか、「あそこのお店可愛い」とか、学校では考えられないほどクルクル表情を変えて、イキイキとした口調で話す彼女は、いつまで見てても飽きない。
いつもは何も考えずに歩く道のりが、何十倍も楽しくて、もっと歩いていたいと思った。
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「お邪魔します」
誰もいないと言っておいたけど、三ツ矢さんは律儀にきちんとお辞儀までして玄関をくぐる。
廊下の突き当たり右手にある私の部屋にまで連れて行った。
「ここが私の部屋。ちょっと座って待っててくれる?」
少し神妙な顔でおずおずと部屋に入ってくる彼女と入れ違いに、飲み物を取りにキッチンに向かった。
高校に入って、マキ以外の友達が自分の家に来る事はなかったから、変な感じだ。
しかも、ついこの前まで全く接点もなくて、高嶺の花のような存在の三ツ矢さん。
待たせるのも悪いと思って、飲み物とお菓子を持って部屋に向かう。
「お待たせ」
三ツ矢さんは本棚の前で立っていて、今更ながらに彼女の私服姿に目を奪われた。
白を基調とした、ふんわりとしたワンピースに、落ち着いた濃赤の太めのベルトが全体を引き締めている。
暑いのか、先程まで羽織っていたカーディガンはなくて、豊かな胸の膨らみに目がいってしまう。
邪な気持ちを振り払うように、慌てて声をかけた。
「あの、のど乾いたかなって思って。あと、お菓子も良かったら、、、」
振り向いた彼女はにっこり笑って、「ありがとう」と言ってくれる。
見たいと願ってやまなかった笑顔をここまで見せられると、逆に今が夢なんじゃないかと錯覚してしまう。
夢なら、醒めないで、、、。




