第12章 まさかの急展開⁉︎(未来サイド)
とりあえずミッション達成。
金曜日に、なんとか三ツ矢さんと接触して、言いたい事は言えた。
もうちょっとスムーズに出来たら良かったんだけど、仕方ない。
まあでも三ツ矢さんかなり驚いてたし、流石にすぐに見られるとも思わないけど、これでクラスで顔を合わせる度に思い出してくれるだろう。
まあ、まずは意識してもらうのが大切だから一石を投じたって事で良しとするか。
今日は自宅近くの弓道場での練習日。
弓は相当長くて持ち運びが厄介なので、距離が近いのは正直助かる。
マキは、いつもなら私の家に弓を預けて一緒に練習に行くけど、先週試合だったから誰かに車で連れて来てもらうはずだ。
ジャージに着替えて、弓道場に向かう。
今日の練習内容を頭に思い浮かべてイメージトレーニングをしながら、10分ほどの道のりを歩いた。
控え室に入って、弓をケースから出していると、マキがニヤニヤしながら近づいて来た。
「よ、未来。今日はいい日だなあ」
「は?いよいよ頭おかしくなったか?」
「失礼だな。入口で、めっちゃ綺麗なお姉さんに会ったんだよ。練習を見に来たんだってさ」
「見学?」
「やりたいんじゃなくて、見に来ただけみたいだから、特別観覧場所を紹介しといた。
いやあ、気合い入れていいとこ見せなきゃな」
「また余計な事を。気が散るから出来るだけ人には知られたくない、ってこの間言ったよな」
「まあまあ。どうせ試合の時は人に見られるんだし、観客に慣れるのも大事だって。
何よりあんな美人滅多に会えないんだから、アピールしとかなきゃ」
「マキ、この間彼女いるって言ってなかったか?」
「別に彼女にしたいなんて思ってないさ。
目の保養は大事だろ」
「はいはい。先行ってるから」
今日は私の方が先に射場に入る。
このままマキの話に付き合ってたら、練習時間が減るし集中が乱される。
最後にもう一度しっかり髪を結び直し、不要な眼鏡をしまって、射場に向かった。
先輩方や師範に挨拶を終えて、構えに入る。
斜め前方にいつもに増して多い人垣が見えた。
先ほどマキが興奮気味に話していた『綺麗なお姉さん』って人もいるのかもしれないけど、私には関係ない。
三ツ矢さんだって言うなら話は別だけど。
また彼女に意識が持っていかれそうになって、慌てて練習に集中する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
練習を終えて建物を出た時、横にいたマキが出口の壁に寄りかかっていた女の子に駆けより、親しげに声をかけた。
「どうでした?楽しんでもらえましたか?」
「ええ、とても」
返事をした彼女が、クルッと私の方に向いた。
え?三ツ矢さん?
まさかの彼女の登場に、その場で固まってしまう。
「宗方さん」
「え?未来の知り合い?」
「クラスメイトなんです」
マキが顔を寄せて低く尋問してくる。
「おい、未来。まさか彼女か?」
んなわけあるか⁉︎
三ツ矢さんに聞こえないよう低く言い返す。
「馬鹿!ただのクラスメイトだよ」
私の表情に何か感じたのか、マキが三ツ矢さんに向き直り、あの胡散臭い笑みを浮かべながら、しゃあしゃあと言ってのける。
「こいつ学校じゃやる気ゼロでしょ。ダッサいですしね。
少しは見直して頂けました?」
「何を適当な事言ってんだよ」
「いやあ、本当じゃん。
学校じゃヒドいでしょうけど、悔しいけど弓道じゃこいつの方が人気あるんすよ」
マキの口を塞ごうとヘッドロックをかましてると、驚いたことにあの三ツ矢さんがクスクス笑いだした。
笑った!
途端に胸のどこかがキュッとなる。
前見た時よりも、間近で、本当に自然な笑い方だった。
やっぱり、これが本来の彼女なんだ。
「お二人仲良いんですね」
「小学生の時からのダチなんですよ。
あ、私古谷マキって言います。
お名前なんて言うんですか?」
「三ツ矢といいます」
「下の名前は?」
「時雨です」
「時雨ちゃん。綺麗でピッタリっすね」
あろうことか名前呼び⁉︎
彼女持ちの分際で、何ナンパ野郎みたいな事してんだ?
私の殺気を感じ取ったのか、マキがまたニヤニヤとこちらを見る。
「これ以上いると未来が不機嫌になるんで、お邪魔虫は消えますね。
未来。弓頼んだ。
今度の練習日に、お前ん家寄るから」
そう言って、弓を押し付けて私が何も言う隙も与えず去って行った。
「、、、まったく。なんかゴメン、変な奴で」
「ううん。とっても楽しい人だね」
普通に話せてる事に気を良くして、もう少し一緒にいたいのもあって、何とか言葉を繋ぐ。
「ここにはどうして?」
「図書館に勉強しに来たんだけど、、、。なんか気が向いて」
三ツ矢さんが少し照れたみたいに答えてくれる。
「、、、弓道に興味あるの?」
「実は、この間の市民大会で見かけたの。
その時初めて弓道を見て、、、まさか宗方さんだとは思わなかったんだけど」
「、、、観覧席にいたの、見えてた。
誰かの応援かな、って」
「弟が剣道やってて、その応援に来てたんだけど、1回戦で負けちゃったから。
妹達が弓道見てみたいって言って」
「そっか。やっぱり隣にいたの妹さんだったんだ」
三ツ矢さんは、意を決したように私を真っ直ぐに見て尋ねてきた。
「私を見かけたから、あんな事言ったの?」
「あんな事って?」
「、、、『笑って』って」
「あ、うん。妹さん達に笑いかけてるの見て。
驚いたんだ。学校と全然違ったから」
「宗方さんだけには言われたくないんだけど」
「そんなに違うかな?」
とぼける気はないけど、そこまで差がある自覚もない。
すると、三ツ矢さんは驚くほどはっきりと否定してきた。
「全然違うよ!弓道をやってる宗方さんは、凛として、美しくて、すごいカッコよくて!」
え?
三ツ矢さんは、「しまった」という風に口許を手で隠して、みるみるうちに顔が真っ赤になっている。
なんか、もしかしてすごい褒められた?
しかも、あの三ツ矢さんに。
言われたばかりの言葉を頭で反芻して、胸がバクバクいうのを感じながら、色々いっぱいいっぱいでパンクしてしまったんだ。