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クラッシュ

 ブガッティーはパトカーの中へは突っ込まなかった。スカイラインに弾かれた後、追走をしはじめたがすぐに中止して路肩へ避難していた。そこへ後方から二台が突っ込んできた。道路はまっすぐだ。二台は砂埃を抜けると、そこはパトカーの目の前だった。慌ててブレーキを踏んだが間に合わなかった。ユートが先にパトカーに突っ込むと警官はショットガンを放り出して逃げ出した。続けてセダンがユートに追突した。それに押されてパトカーは後ろにいたパトカーにぶつかった。ぶつかったセダンは停まりきらずにユートに押し戻される形で真横に弾かれて別のパトカーに車体側部からぶつかり、そのまま横転するようにしてパトカーの上へ落ちた。ガソリンがセダンから漏れていた。


 エツコはその一部始終を他人の目を通して見ていた。走り続けるスカイラインから直接目にすることは出来ない光景を見ていた。阿部の目には、エツコが突然に見えない手でわしづかみされたように見えた。エツコは発作でも起こしたかのようにビクンと震えると身を縮こまらせ震えだした。

「どうした?」

そう尋ねた瞬間にバックミラーに炎の柱が写った。すぐに爆発音が追いついてきた。阿部はエツコを再び見た。アクセルを緩めるとスピードを落とす。落としたといっても100キロくらいは出ていたのだが。

「何人も死んだわ。一瞬で、何人も」

阿部は首を振った。

「だがエツコのせいじゃない」

「わたしのせいよ。わたしがパトカーをバックさせなければ」

「お前がやらなきゃ、オレがこのクルマで押しただろうさ。通らなきゃこっちが危ないんだ。なにがどうなって爆発が起きたのかわからないがな。オレは少なくとも爆発の原因になるような衝突はしてないぜ」

「追いかけてきた二台がパトカーに突っ込んだの。阿部くんの巻き上げた土煙のせいで視界が悪かったからよ。スピードを出してパトカーに突っ込んだの」

阿部は大きく息を吸った。

「それはスピードを緩めなかったやつらのせいだ。視界ゼロで停車しないほうがおかしい。オレのせいではない」

「けど、わたしたちがこんなところへ来なかったら」

「他の場所で事件が起きただろうさ。エツコのせいではない。エツコが望んで事件に巻き込まれたわけではないんだからな」

「だけど」

「ああ、だが責任を感じるっていうんだな」

阿部はエツコを見た。

「じゃあ決着を着けに行こう。こんな平和な田舎を滅茶苦茶にしたやつがいる。やっつけて、元通りに戻すんだ。お前なら出来る」

エツコは下を向いたままだった。

「いや、お前にしか出来ないんだよ。トライバイテックをやっつけるのは他の誰かでも出来る。だが、元通りに戻せるのはお前だけなんだ」

「どういうこと?」

「オレは、さっき何度かお前がオレ達を襲うつもりのやつらを止めるのを見た。失敗もあったけれど成功もしている」

「だから?町中の人の心を覗けっていうの?出来るわけ無いじゃない」

「いや、出来るさ。覗く必要も無いかもしれない。アルバニーにはトライバイテックの作ったランビィエキャストがある。あれを奪うんだ。エツコはそれで一度に町中を元通りに出来るんだ」


 阿部はアクセルを踏み込む。

 スカイラインに異常は感じられなかった。パトカーにぶつけたダメージはバンパー程度で済んでいるようだった。ハンドルが取られるような感じも無い。水温は依然として高めだったが、それはスピードを出している以上仕方が無い。アルバニーまで250キロ。少しスピードを落としていかないとエンジンがもたないかもしれない。いや、それ以前にガソリンの消費が多すぎてたどり着けないか。時速300キロなどというスピードではリッター2キロ程度しか走らない。

「距離から計算すると、リッター5キロ以上の燃費でないとガス欠になる」

「どうゆうこと?」

「スピードを出しすぎるな、ってことだな」

ターボエンジンは排気ガス圧力を使ってエンジンに大気圧以上の圧力で燃料を送り込む。正確には燃料と空気の混合気を送り込むわけだが、この圧力は一定に保たれているわけではない。高回転で排気ガスの圧力が上げれば上がるほどに過給は大きくなる。つまり低回転、低負荷で走れば燃費は改善される。

「大容量タービンだからな。3000回転以下では過給はされてないも同然なんだがな。140キロってところだな、一番燃費がいいのは。もちろん、空気の抵抗を考えれば80キロくらいまで落としたほうがいいに決まってるんだが」

「そういう難しいことは任せるわ。けど、この先もいろんなのが出てくるよ。がんばるけど、そっちもがんばってもらわなきゃね」

「ああ。まかせろ」

阿部はアクセルを緩めると過給圧計に注意を移す。燃費計なんていう都合のいいものは装備していないので勘に頼ることになる。

「だいぶ先だけど、ロードトレインがいる。アルバニーで噂は聞いているみたいだけど、攻撃的ではなさそう。でもいちおうやっておく」

「ああ、練習も兼ねてだな」

「あんまりそういう言い方してほしくないけど」

エツコは顔を曇らせた。

「そうだな」


 サニーはランビィエキャストの波長を妨害する装置にノートパソコンを接続していた。波長の強さを解析して方向を知るためだった。移動しながらモニターすることでトライバイテックの位置を割り出そうという作戦だった。簡単な計算式を打ち込み方向と距離を割り出す。

「まだか、サニー」

バズが痺れを切らしたように声を洩らす。

「もうすぐよ。ちょっと待ってて」

計算結果が出力される。メモを取り地図と照らし合わせる。

「だいたいわかったわ。やつらアルバニーから出てない。もう少し近づいて計算をしなおさないと正確な位置までは割り出せないけど」

「とりあえずそれで上等だ。急ぐぞ」

「待って、バズにいやん」

「どうした?サニー」

「エツコねえやんがランビィエキャストを探してる」

今里が助手席から振り返った。

「電話でもあったんすか?」

サニーは首を振った。

「ううん。なんだか今、そう思ったんよ。エツコねえやんはランビィエキャストを奪うつもりみたい」

「なんで?奪ってどうするんすか」

「エツコねえやんがランビィエキャストを使うって。それでアルバニーの人達を元に戻すって」

「そんなこと出来るんすか?」

今里は反射的に言った。

「わからない。けど、ひょっとしたら出来るかも。今だってわたしに話しかけてる。電話も使わずに直接。もうこっちに向かってる。何人かの行動を既に変えてるみたい。なんか事故もあったみたいだけど」

「事故?無事なんすか、エツコは」

「うん、今のところは」

サニーは黙り込んだ。エツコのメッセージは早口だった。少し精神が不安定になっているような感じがした。大丈夫だろうか。

「もうすぐこちらに追いつくみたい。協力するべきだわ」

その時、バズの携帯が鳴った。バズは今里に目配せすると今里が電話に出た。その顔が険しくなる。電話を切ると今里は重苦しい声で言った。

「警察のパトカーがこちらに向かって来る。エツコ達はパトカーを数台爆破した容疑がかかっている」


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