キャラバンパーク
アルバニーハイウェイからタンベルールウェストロードへ右折する。
見落としてしまいそうな道路標識が一つあるだけの交差点だった。だが、阿部は1キロほど走った地点でブレーキを踏むと減速した。
「どうしたの?阿部くん」
「この道路は危険だ」
「なんで?」
「整備がされてない。まともな舗装じゃないからな」
「あ、なるほど」
阿部はスカイラインを路肩に寄せると先にハンドルを切ってからレーシングで1速をつないだ。スカイラインは前輪を軸にスピンターンをすると何事もなかったように走り出した。
「うまいね」
冷静にエツコが感想を述べる。
「まあ、半分砂利の路面だしな。グリップらしいグリップはないから簡単だ」
アルバニーハイウェイに戻ると先を急ぐ。太陽は傾き始めていた。
エツコは妨害波発信装置の電源を切っていた。そうすることを主張したのはエツコだった。どうせ敵に位置を探られる可能性があるのなら範囲外で電源を入れたままにするのはメリットがない、とエツコは言った。
「この妨害波があるせいでこちらも様子を知ることができないのよ」
ゆっくり左にカーブする。舗装は悪くない。阿部は170キロに速度を上げた。一面の砂にやせ細った木が道の両脇にあるだけ。高いもので3,4メートルほどだろうか。地図上ではすぐそばに川らしいものがあるようだったが、ほとんど見えない。だが見えたところでそこには豊かな水の流れなどないのだろうと阿部は思った。スカイラインの調子は悪くない。外気温は高いままだったが、高速で移動しているためラジエーターには充分にエアが当たるしエンジンルームも換気される。
「日が落ちるまでにアルバニーを抜けたいな」
「なんで?アルバニーで宿探したほうがよくない?」
「忘れたのか、エツコ?オレ達は逃げてるんだぜ?周りの人間を見えない力で操るようなやつらから」
「そっか。シャワー浴びたいのにな」
「暗くなるのは8時か9時くらいだろう。まだ2時間はある。さっきの道路でハイウェイ以外を走るのはリスクが高いことがわかった。アルバニーから1号線へ抜けよう。町を抜けたところで休む場所を探す」
日が落ちると辺りは涼しくなった。昼間の暑さが嘘のように過ごしやすくなる。湿度が低いせいだろうと阿部は思った。キャラバンパークにスカイラインを停めるとキャビンを借りた。阿部はスカイラインの中で寝ても不都合は感じなかったがエツコはそういうわけにはいかなかった。キャラバンパークは言ってみればオートキャンプ場みたいなものだ。清潔感は日本のそれの方がいいと思ったが、この状況で贅沢は言ってられない。他に何台かのキャンピングカーが停まっていたが、阿部は出来るだけ距離を取っていた。牽引式のキャランバンも10台ほどあったが、すべてに人がいるわけではなかった。施設の一部なのだろう。キャビンを建てるより安上がり、というわけだ。
エツコがシャワーから帰ってきて簡単に夕食を済ませると、阿部はベッドに横になった。エツコは時々遠くを見つめるような仕草をしていた。
「考え事か?」
「ううん。索敵中。大体の距離がつかめるのよ。あと5時間ってところね」
「ということは4時間くらいで出発ってわけか」
「追いつかれてもすぐに見つかるわけじゃないし」
「だが、そこら中が敵になる可能性もある」
「向こうは二十四時間営業で意識を飛ばしているわけじゃなさそう。今は時々こっちの居場所を探ってるって感じね。5時間後に向こうのレーダー範囲ってことかな?それに休憩もするだろうし。それにね寝てる時の意識って意味不明なこと多いのよ。わたしが寝ちゃったら、見つけるのって難しいと思うのよね」
「そんなもんなのか?」
「たぶん。それにさ、他の人に聞いたことないからわかんない。わたしの場合はそうだってこと。それよりさ、サニーちゃんに連絡とか取らなくていいのかな?生きてます報告とか」
電話を切るとサニーは駐車場に出た。
小さな町で補給といったところだった。
バズと今里が話をしていた。午後遅くから稼げた距離は300キロほど。トライバイテックの動きはまだつかめていなかった。エツコの無事を確認して安心したものの気は抜けない。
「サニー、なにか情報はつかめたか?」
バズはファンタの缶を開けるとサニーに手渡した。
「アルバニーの東400キロくらい。トライバイテックはアルバニーにいるんじゃないかってエツコが言ってる。明日はエスペランスを抜けてナラボーだって言ってる」
「なんでまたそんな何もないところへ行くんすか」
今里が顔を上げた。
「人が少ないほうが安全だって。こっちの計画を話したらできるだけ距離をつめてくれって言ってた。ナラボーなら一本道だからって。挟み撃ちに出来るって」
「エツコ達は武器はあるのか?」
「阿部くんがショットガンとシグを持って行ってる。いちおうエツコ用にデトニクスを阿部くんに渡してあるけど」
「エツコは銃を使えるのか?デトニクスと言えば45口径だろう。それも銃身の短い護身用だ。反動も大きいし使いやすい銃じゃないだろう。どうしてそんなものを?」
「ああ、それはっすね、ワルサーPPKの9ミリショートか、コルト25オートか、デトニクスしか無かったんすよ。護身用しか考えてないっすから。まさかサイボーグみたいなやつらが来るとは思って無くて。その中で有効なのはデトニクスくらいじゃないかってことで」
「そうかもな。25口径や9ミリショートじゃ役に立たんか」
「それよりもトライバイテックの戦闘員の追跡は出来てるの?うちのオフィスから逃げたやつの」
「うちの課員が追っているが別のやつと合流したらしい。そのままエツコを追っているそうだ。だがひとつ問題がある」
「なに?」
「どうやらスポーツカーを使っているらしいんだ。それもスーパースポーツだ」
「スーパースポーツってどういうこと?」
「金持ちが好んで買うようなやつだよ。フェラーリと言えばわかるか?」
「フェラーリで追跡してるの?」
「いや、フェラーリではないと言っている。うちの課員も普通のクルマについては仕事上詳しいんだが、その手のものはな。見たことも無いスーパーカーだってことしかわからん」
「それは問題なの?」
「まあな。こっちのクルマはホールデンコモドアのV8だが追いつくのは不可能だろう」
「こっちのクルマが遅いってことじゃないよね?」
「当たり前だ。V8の6リッターなんだぞ。350馬力くらいあるんだ。それでもトップスピードでは相手にならん。夜だからスピードを落としているから追跡出来ているものの、明日になれば追跡続行も無理かもしれん」
「どっちにしてもトライバイテックのランビィエキャストの範囲に入ったら追跡は中止してもらったほうがいいから同じよ」
「そうだな。それまでに追いついておきたいな」




